川口春奈演じる青羽紬が、目黒蓮演じる元恋人の佐倉想と、音のない世界で“出会い直す”姿を見つめる連続ドラマ『silent』(フジテレビ系/毎週木曜22時)。坂元裕二、橋部敦子、野木亜紀子らを輩出してきた脚本家の登竜門「フジテレビヤングシナリオ大賞」の昨年の受賞者・生方美久のデビュー作であり、完全オリジナル脚本の話題作だ。

紬が恋に落ちたのは、「言葉」についての作文を読む想の姿がきっかけだったが、本作には、心に刺さる言葉があふれている。そこには感動系も、グサグサ系も。あふれ出した言葉から、少しばかり振り返ってみたい。

【写真】2週間ぶりに放送! 今夜放送の『silent』第8話場面カット

■「好きな人が“いる”」<第2話&第4話>

 紬が想から別れを告げられたのは、LINEでの「好きな人がいる」のひと言だった。第2話のラスト、「好きな人ができたって送ったでしょ。別れようって」と当時を振り返った紬に、想は「好きな人がいる、って送った」と重ねる。紬のことを指さしながら。上京した想に、新しく好きな人ができたことで振られたと思い込んでいた紬だったが、想が指す好きな人とは、紬のことだった。だんだんと聴覚を失っていく自分のそばで、苦しんでほしくないという、紬を深く思うがゆえのつらい決断だったことを知る紬。紬が前述のような誤解をするだろうと分かった上での別れのひと言に、「そうだったのか」と、秘められた思いを知るシーンだった。

 第4話でも、「好きな人がいる」の言葉が登場。紬を支え続けた湊斗(鈴鹿央士)が、想と再会した紬に別れを告げる衝撃の展開となった。
紬に「別れてほしい。好きな人がいるから」と伝える湊斗。ここで湊斗の言う“好きな人”とは、紬と想、ふたりのことなのだと見る者には分かる。学生時代からずっと、紬のこと、想のこと、そして一緒にいるふたりを見るのが好きだった湊斗の決別の言葉は、第2話での想の言葉を感じているからこそ、より沁みるものになった。

■「絶対いい人なんだろうなって勝手に思い込むんですよ」<第1話>

 感動系だけでなく、ドキリとさせる言葉も多く登場してきた本作。中でも風間俊介演じる手話講師の春尾が貴重な存在となっている。第1話で、想の妹・萌(桜田ひより)との会話から、想の耳が聞こえなくなったことを知った湊斗が、ひとりで居酒屋に訪れた際に春尾と出会った。春尾が手話教室の講師であると知り、「なんか、人が良さそうですもんね」と漏らした湊斗に、春尾は「そういう刷り込みがあるんですよ。偏見っていうか」と切り込んでいく。そして「手話。耳が聞こえない。障がい者。
それに携わる仕事。奉仕の心。優しい。思いやりがある。絶対いい人なんだろうなって勝手に思い込むんですよ。ヘラヘラ生きている聴者の皆さんは」と、私たちが普段、無意識に少なからず偏見を抱いて生きていることを突いてみせ、さまざまなことを経験してきたであろう春尾のことをもっと知りたいと思わせた。

 第4話の中盤では、聴覚障がい者であり、手話教室の同僚でもある講師から「春尾くん、僕たちにちょっと壁をつくるよね」と言われ、「特別扱いはもちろん違うし、ただ平等に接することが正解だとも思わないんです。手話ができるってだけで、分かった気になりたくないんです。どうしたって僕は聞こえるので、ろう者同士みたいに分かり合えないです」と応じた春尾。偽善で取り繕わない春尾に共感した人は多いだろうが、同時に、“分かり合えない”で終わらせてしまっていいのだろうか、とも思う。その先にあるつながりへの希望を感じさせるのが、紬の存在だ。

■「好きになれて良かったって思います。
思いたいです」<第2話>


 湊斗からの紹介で手話教室に通い始めた紬。第2話の終盤、講師の春尾から「初めから出会わなければ良かった。この人に出会わなければこんなに悲しい思いしなくて済んだのにって思いません?」と聞かれた紬は、「好きになれて良かったって思います。思いたいです」と返す。袖のピュアさとともに、前を向く強さがよく伝わってくる。

 第7話でつぶやいた「"少ない"って"いる"ってことなんだよね」も印象的だ。中途失聴者の“多く”が、声を発して会話すると聞いた紬は、想が声を出さない理由を疑問に思い想に尋ねるが、聞いてはいけない質問だったと察する。そのときのことを親友の真子(藤間爽子)に打ち明けたときに実感を伴ってつぶやいたこの言葉は、私たちも常に心に留めておきたいと思わせるものだった。

 絹織物として知られる「紬」は、丈夫さが特徴の布であり、名づけとしては、物事の糸口を引き出すという意味を込められることが多い。まさに紬も、出会い直した想と、ともに歩んでいく糸口を見つけていける強さを持っていると感じさせる女性だ。音のない世界で出会い直したふたりと、周囲の人々がどう歩んでいくのか、ともに感じながら考えながら、見守りたい。(文:望月ふみ)

■今夜12月1日放送 第8話あらすじ

 想は紬に、声が出せないわけではないが、自分で感じとれないことへの怖さがあることを話し、紬はそれを受け入れる。


 しかし、2人の距離が縮まるほどに、想は自分と一緒にいるのが大変なのではないかと紬を気遣うようになり、紬は否定するものの、なかなか思いは伝わらない。

 一方、奈々(夏帆)は春尾(風間俊介)との再会を果たす。「紬と想を見ていたら春尾くんのことを思い出して」と言う奈々。そんな中、紬は実家の群馬に帰り、母・和泉(森口瑤子)に想のことを話そうとするのだが…。

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