80年代をトップアイドルとして駆け抜け、今もなお変わらぬ歌唱力と表現力で観客を魅了する歌手・柏原芳恵。デビュー42周年を迎えた今年、NHK音楽番組での歌唱映像を集大成したDVD BOX『柏原芳恵 NHKプレミアム コレクション』が発売された。

42年の芸能生活は出会いに恵まれたと語る柏原に、当時の思い出やこれからの活動への思いを語ってもらった。

【写真】デビューから42年 変わらぬかわいさと美しさ!

◆アイドル時代の歌唱シーンを観返し「応援するような気持ちに」

 柏原は1980年に芸名・柏原よしえで、シングル「No.1」で歌手デビュー。以降、「ハロー・グッバイ」「花梨」「春なのに」「最愛」などのヒット曲を多数リリースし、80年代アイドル黄金期を彩った。今回のDVD BOXには、『レッツゴーヤング』でのデビュー曲歌唱シーンはもちろん、「春なのに」で初出場を果たした紅白歌合戦の様子など、全71本の貴重な映像を収録。アイドルから大人の女性へと成長していく軌跡をたっぷりと楽しめる内容となっている。

――今回、デビューから42年、お名前が漢字表記になってから40年という記念の年に、これまでの歌手活動を凝縮するかのようなDVDが発売されました。

柏原:えー!っていう感じでびっくりしました(笑)。それと同時に柏原芳恵のDVDコレクションを作ろうと思ってくださった方に感謝の気持ちでいっぱいになりました。

――実際にご覧になってみていかがでしたか?

柏原:これまで自分が観たことがあるのは家庭用のVHSで録画したものだったりしますから、今回のDVDは映像も音も本当に素晴らしくて、感動しました。当時はとても忙しくて記憶があまりないので、新鮮でしたね。また、画面の中の彼女の息遣いや気持ちがものすごく伝わってくるのでドキドキしつつ、「がんばれー!」って応援するような気持ちにもなりました。

本当に愛情たっぷりに作っていただいたDVDなんですね。
当時を知っている方は“あー!見てた!”ってタイムスリップできると思うし、当時を知らない方にも会場の「熱」を感じてもらえると思います。昭和が流行ってますけど、ヘアスタイルなどからその時代のファッションやメイクとかも分かって、いっぱい楽しんでいただける作品になっています。

――1983年に初出場した紅白歌合戦での「春なのに」も印象的でした。

柏原:ねー。あれ、ずるい演出ですよね(笑)。あれは本当に凝視できないです、本当に。いろんな気持ちが伝わってきて、どうもちゃんと見られないです。

――今回のDVDはNHKの音楽番組をまとめたものですが、特に記憶に残っていることはありますか?

柏原:当時はNHKさんでオーディションがあったことをご存じですか? 今日はNHKさんのオーディションということで、まだデビューする前で衣装も何もなくて、当日社長から“これを着ろ”って渡された大人っぽい服を着て受けたんですよね。受からないとNHKさんには出られないってことで周りのスタッフが緊張していたことをすごく覚えています。私はそんなことも知らないものですから、なんだろう?っていう感じでしたけど(笑)。

◆中島みゆき提供の「春なのに」で生まれた“歌の伝え方の広がり”

――今年デビュー42周年を迎えられましたが、振り返ってみるとどんな42年でしたか?

柏原:42年って言われて、“え!”ってなるくらいなんです(笑)。ボーっとしているのか、人ごとみたいに、「あぁ、そうなんですねー」って(笑)。


デビューのきっかけは『スター誕生!』なんですけど、何が起こっているのか分からないっていう感じの中で、気づいたらデビューだったんですね。とにかく芸能界のことを全く知らないから、上京してからは大人の方が敷いてくれたレールを遅れないように走って、必死についていくみたいな、そんなちょっとしたスポ根アニメ的な感じでした(笑)。だから今回DVDで当時の番組を観返してみて、“彼女頑張ってるねー”って感じたんだと思います。

――そんな中でターニングポイントを挙げるとすると、どんなことになりますか?

柏原:やっぱり出会いですかね。曲だったり人だったり、スタッフもそうですし…。私はデビューしてからエキスパートな方ばっかりに出会うことができたと思うんですね。レコード会社さんにもかわいがっていただいて、こういうアーティストが来るから見に行ったほうがいいよって連れて行っていただいたり、知らない世界を広げていただいたり…。そういうことを通して、私が知らないうちに周りからいっぱいいろんなことを教えていただいたと思います。

――中島みゆきさん提供の「春なのに」との出会いも大きかったのではないでしょうか。

柏原:“書いてくれるみたいだよ”ってディレクターさんからお話を聞いて、“えー!本当?”って。みゆきさんからデモテープを頂いたんですけど、なんとも胸キュンな作品で。当時は17歳で、先輩を送り出すっていう等身大の気持ちを歌った歌でしたし。
うれしいというと軽いかな、感激というか感動というか、そんな感情でした。

「春なのに」はスタッフも力が入っていたものですから、リチャード・クレイダーマン・オーケストラの演奏でカラオケを録るためにヨーロッパへ行ったんですよ。私は連れて行ってもらえなかったんですけど(笑)。

当時は卒業ソングという意識はなかったですが、自分が大事に歌っていた曲がいろんなところで卒業ソングの定番として歌い継がれていくのは、皆さんが育ててくださっているようで本当にうれしいですね。

――当時は3ヵ月サイクルで新曲リリースもされて、想像できないくらいお忙しかったんじゃないでしょうか。

柏原:同時にアルバムも製作してというスケジュールで、お仕事が終わったらレコーディングという日々が続いていました。私のレコーディングは早いほうで、「ハロー・グッバイ」も3回くらい歌ってOKが出たんです。でも、自分の中ではもうちょっと世界観の表現を広げたいという思いも抱いていました。そんな中、「春なのに」のレコーディングスタジオにみゆきさんが来てくださって。練習している私の歌を聞いたみゆきさんから、「あぁ、高い声出るんですね。でもね…」ってアドバイスを頂いて、そこから歌の伝え方や誰かに伝えるということの世界観が広がったと思います。それからは、作品によって表現は違うけれども、自分の中で歌の世界が面白くなっていった感じですね。


◆忘れられない天皇陛下のリサイタルご鑑賞

――天皇陛下が浩宮殿下時代に芳恵さんのリサイタルをご鑑賞されたということもありました。

柏原:皇室担当の記者の方から「芳恵ちゃんの写真を部屋にお貼りになってたよ」というお話をお伺いしたのですが、やはり雲の上の方なので、まったく想像できなくて。リサイタルにおいでくださるかもしれないというお話が出て、周りも緊張しますし、その緊張が私にも移ってしまいました。

いらっしゃった時にご挨拶として「“ようこそおいでくださいました。ありがとうございます”ってご挨拶させていただいていいですか?」って聞いたら、「ちょっと待って。宮内庁に問い合わせてみる」と。すると、宮内庁さんからのお返事は「前例がございませんので…」。困ってしまって「じゃ、どうやってお話していいんですか?」と聞くと、「ちょっと待って。宮内庁に…」「前例がございませんので…」の繰り返しで(笑)。

当日は、頭が真っ白になって記憶もあまりないのですが、「今日はどうもありがとう」とおっしゃってくださって、私もどうお返ししたらいいか分からないですから、「ありがとうございます」とお伝えしたことは覚えています(笑)。

あの時に頂いたバラのお花は、お花なのでその美しさは心に残しておこうかという思いもありましたが、周囲の勧めもあって原色ドライフラワーにして、今も大切に保管しています。家宝です(笑)

――11月には2年ぶりのコンサート「A・RU・KU 第二章コンサート2022」が開催されました。
久しぶりの有観客でのコンサートはいかがでしたか?


柏原:やっぱりステージに立っていると楽しいし、私はそれだけファンの皆さんからパワーを頂いているんだと改めて実感しました。

ファンの皆さんも声も出せない状況で、“よしえちゃーん!”ってコールもしたいでしょうし、どんな風になるんだろうって思っていたのですが、曲に合わせての手拍子やアンコールの手拍子が熱くなっているのを感じました。みんな大人になったんですね(笑)。また新しい「熱」を感じましたね。

――1月からは冠番組『柏原芳恵の喫茶☆歌謡界』が始まるなど、新しいことへのチャレンジが続きますね。

柏原:いつもはお話を聞かれる立場なんですけど、MCとしてゲストをお招きしてお話を伺うほうなので、大丈夫なのかなーって。18年やっているラジオでも、時々ゲストに来ていただいても質問するのが下手なんですよね。

でも、先ほど出会いが大事と言いましたが、私を育ててくださったエキスパートな皆さんも、たくさんはしゃべらなくても大事なことをぽんと言ってくださったことが心に残っていまして。それを見習って、今回はチャレンジといいますか、ゲストの方の思いや私の思いを皆様にお伝えできたらいいなと思っています。

――これからも新しい芳恵さんがたくさん見られそうで楽しみです。

柏原:誰かの心に響く、刺さる音楽活動を続けていきたいですね。今まではあまりこういう歌を歌いたいと言えなかったんですけど、最近は作詞も始めて自分の遊び場を頂いたと言いますか。
真剣に遊ぶ気持ちで歌に向き合っています。また、歌もそうですし、オブジェを作ったり写真を撮ったり、いろんなことをしているので、気の向くまま全力で楽しんでいきたいと思っています。結果、誰かのほほ笑みにつながったらいいなと。私の目標は“ほほ笑みプレゼンター”なんです。

(取材・文:編集部)

 『柏原芳恵 NHKプレミアム コレクション』は、ユニバーサル ミュージックより発売中。価格1万8150円(税込)。

 『~A・RU・KU 第二章~ 柏原芳恵コンサート2022』は、歌謡ポップスチャンネルにて2023年1月21日20時放送。

 『柏原芳恵の喫茶☆歌謡界』は、J:テレ(J:COMテレビ)にて2023年1月7日22時よりスタート。

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