それは「まさか」であり「なるほど」の提案だった。『エルピス―希望、あるいは災い―』(カンテレ・フジテレビ系)の最終回が26日放送された。

長澤まさみが中央に立ち、眞栄田郷敦、岡部たかし、そして鈴木亮平らががっちり支え、圧倒的な求心力を持ち続けた、緊張感と面白さ、驚きと共感に満ちた傑作だった。話題作の最終回といえば放送時間の延長がお決まりだが、きっちり1時間の放送枠内に収めたことも『エルピス』らしい潔さとスタッフ陣の力量を感じさせた。

【写真】『エルピス』最終回を写真で振り返る

■ 村井が浅川と岸本を繋ぎ直した

 浅川恵那(長澤)の目の前で、大門副総理大臣(山路和弘)の娘婿で秘書だった大門亨(迫田孝也)の葬儀帰りの村井喬一(岡部たかし)が、「NEWS8」のスタジオに文字通り殴り込み大暴れした。マスコミ報道のうそっぱちと、その一部だった自分、邪魔者は人とも思わぬような巨大権力。すべてに爆発した。自分こそ、とうに爆発すべきだったと痛感した浅川は、岸本拓朗(眞栄田郷敦)を訪ね、村井の行動の裏に何があったのか「教えてください」と頭をさげた。

 2人だけの素晴らしいシーンが続いた。『エルピス』は浅川と岸本のバディものでもあったが、徹頭徹尾、どちらかが上がればどちらかが下がる、シーソー関係だった。それも第8話で、2人を繋ぐ支点がぽっきり折れたかに見えたが、浅川と岸本のいずれも過去の自分自身の中に持つ村井が、落ちていく2人をつかんだ。当初、どうしようもないパワハラ、セクハラおやじとして登場した村井が、最後は浅川の“スイッチ”を押して見せた。

 「こんなにも心の中の一番大事なものを押しつぶされながら、どうやって生きていけばいいんだよ。希望が見えないよ!」と叫ぶ浅川を、大門亨の残した言葉が照らし導く。
「希望って誰かを信じられるってことなんだね」と。朝日のような爽やかな光ではなく、1日の最後に強烈に輝く西日が。「岸本くん、君がいてくれたから今日までやってこれたんだね」と涙でぐちゃぐちゃな笑顔を見せる浅川。そもそも光を、希望を、岸本に与えてきたのは浅川自身だった。一度はその信頼をつぶしてしまったが、相手がいる限り、向き合う限り、新たな希望が宿る。

■ 交わされた浅川と斎藤の握手の意味

 ゲリラ的なスクープ報道を決意して「NEWS8」のスタジオに入った浅川の前に、斎藤が現れる。身じろぎできぬ緊迫感が支配する。そしてついに、斎藤の胸の内が明らかになった。「俺が案じているのはこの国の行く末だ。君が案じているのと同じ、この国の人々のことだ。時間がほしい。俺にしかるべき力がついたときには、今日君が言ったこと(すでに病気の社会を治療する術を見つけること)に必ず応えてみせる」。
これは浅川を止めるためだけの方便ではなく、彼の本心のように感じられた。だが覚醒した浅川は譲らない。また、彼女の“知らせないというカードを切っている人”という言葉は、現実世界の報道に投げた強いものであった。

 レイプ事件もみ消し疑惑を報道しない条件として、「本城彰の逮捕」を求めた浅川の要求を斎藤が飲んだ。強いカードがあっての状況ではあるが、浅川は、斎藤とも対等に立ってみせると決意を示した。そして交わされた浅川と斎藤の握手。2人はまぎれもない相克の関係であるとともに、ベースにはきっと信頼がある。テレビ局からの帰り、岸本の姿を捉えた斎藤がほんのわずかながらその瞳に笑みを宿らせたことが、彼らを認めていると教えていた。

 死刑囚・松本良夫(片岡正二郎)のえん罪は晴れた。交換条件としての解決に、「妥協では?」とモヤモヤが残る人もいるかもしれない。しかし、すべてを一気に解決などできない。浅川は、諦めることなく、ひとつひとつ向き合っていくことを決めた。
そのためにもまずは松本のえん罪を晴らすことが重要だったのだ。

 「この世に本当に正しいことなんて、本当はないんだよ。正しいことをするのは諦めて、代わりに夢を見ることにしようよ」と言う浅川。だが、誰もが簡単に夢を見られるわけではなく、岸本の「どんな夢を見ればいいのかが、僕にはまだ分からない」というモノローグに救われる。パンドラの箱を開けた先に残る「希望」は、“人を信じられること”が生み出す光だったが、それ自体がまた難しい。でも、私たちの生きる毎日と地続きだと感じさせた本作は、まずは顔を上げようと伝えてくれた。(文:望月ふみ)

編集部おすすめ