1月8日から放送スタートする、日曜劇場『Get Ready!』(TBS系/毎週日曜21時)で、主人公、孤高の天才執刀医・波佐間永介を演じる妻夫木聡。1998年に俳優デビューしてから25年、数々の映画・ドラマで名演技を披露してきた。

『Get Ready!』への期待が高まる今、改めて妻夫木のこれまでの軌跡を振り返ってみたい。

【写真】さわやか好青年から演技派俳優へと成長した妻夫木聡 インタビュー撮り下ろしショット

◆『ブラックジャックによろしく』『オレンジデイズ』など王道を突き進んだ20代

 『Get Ready!』では、昼間は自身の店であるパティスリー「カーサブランシェ」でパティシエをしながら、超人的なオペ技術と法外な治療費でどんな手術も請け負う正体不明の闇医者チームを率いる、通称“エース”役で主演する妻夫木。共演に藤原竜也、松下奈緒、日向亘、監督に堤幸彦を迎え、1話完結のダークな医療エンターテインメントドラマを展開する。

 相棒役の藤原との演技の応酬も期待される妻夫木だが、デビューは約26年前の1997年にさかのぼる。オーディションイベントでグランプリに輝いた妻夫木は、数々のストリート系雑誌に登場。「おしゃれでカッコいい」と若者たちのアイコンになった。


 1998年に、ドラマ『すばらしい日々』(フジテレビ系)で俳優デビュー。2001年に公開された矢口史靖監督の映画『ウォーターボーイズ』で映画初主演を果たす。同作は、シンクロナイズドスイミングに取り組む男子高校生の姿を描いた青春コメディだ。妻夫木は本作で、廃部寸前の水泳部を救うべく奮闘する鈴木智を熱演し、大ブレイク。この映画では、第25回日本アカデミー賞の優秀主演男優賞・新人俳優賞、ゴールデンアロー賞の映画新人賞を受賞するなど、注目の若手俳優として広く知られるようになる。さらに、本作は“さわやか”“真っすぐ”“好青年”という妻夫木の印象を強く打ち立てた作品でもあり、これ以降、そのイメージは妻夫木の象徴にもなっていった。


 2002年には、“月9”(フジテレビ系月曜21時放送枠)ドラマ『ランチの女王』に出演。竹内結子さん、江口洋介、山下智久、堤真一ら、今考えると非常に豪華なキャストがずらりと並ぶ本作で、竹内さんが演じた主人公・麦田なつみに恋心を寄せる純三郎役を好演した。

 その後、2003年放送のドラマ『ブラックジャックによろしく』(TBS系)で連続ドラマ初主演。妻夫木は、理想の医療現場とはかけ離れた、病院が抱える矛盾や医療問題に懸命に立ち向かう研修医・英二郎を演じ、人気が爆発。一躍トップ俳優へと躍り出た。その好青年っぷりは、2004年に放送された日曜劇場『オレンジデイズ』(TBS系)でも堪能できる。


◆『悪人』『怒り』など李相日監督とのタッグで新境地

 一方で、人気爆発の最中に出演した、犬童一心監督の映画『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)では、初めてのベッドシーンにも挑戦。それまでの好感度の高い青年という役柄から一転して、“今どき”で悪気はないが軽いノリの大学生を体現し、俳優として新たな一面ものぞかせた。ちなみに本作では、第77回キネマ旬報ベスト・テン最優秀主演男優賞や報知映画賞、ヨコハマ映画祭などの主演男優賞なども獲得している。妻夫木にとって、今作は大きな転機となった作品といえるだろう。

 2009年にはNHK大河ドラマ『天地人』で、大河ドラマ初出演にして初主演を果たす。「俳優を始めて最初に目標にしたのが、大河ドラマへの出演」だったという妻夫木は、本作で直江兼続の青年時代から60歳で亡くなるまでの生涯を演じた。
兼続の幼年時代を演じた加藤清史郎が言う「わしはこんなとこ、来とうなかった」が新語・流行語大賞にノミネートされるなど、大きな話題を呼び、最高視聴率26.0%、平均視聴率21.2%を記録した。(関東地区・ビデオリサーチ社調べ)

 さらにその翌年の2010年には、吉田修一の長編小説を李相日監督が映画化した『悪人』に主演。今作では、殺人を犯した土木作業員の清水祐一を熱演し、俳優としての評価を不動のものにした。妻夫木本人が出演を熱望したというほどに想いを込めて演じた本作だが、同じく、李監督と再びタッグを組んだ『怒り』(2016年)のインタビューで、妻夫木は「考える自分を捨てていって、自分がその役、その人になればいいという思いになっていった」と『悪人』の撮影時を振り返っている。かつての「さわやかな好青年」という役柄だけでなく、幅広い役柄を見事に演じ切る姿は多くの人の心を震わせた。本作では、第34回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞も受賞。
今作も、妻夫木にとっては俳優人生を大きく動かす一作だったに違いない。

 ちなみに、『怒り』では、ゲイカップルの相手役を務めた綾野剛と物語さながらの同居生活を送ったことでも知られている。さらには「撮影に入る3ヵ月前くらいから、ゲイ友達役のみんなとご飯を食べたり、(新宿)2丁目に行ったりを繰り返してました。ホテルを借りて、音楽を流して疑似パーティをやって、みんなでジャグジーに入ったり」と徹底した役作りを行ない、その役の人生を生きた演技は、第40回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞するなど高い評価を得ている。

 また、2022年に公開された映画『ある男』では、依頼者から亡くなった夫の身許調査を頼まれる弁護士の城戸役を演じた。今作では、信頼の厚い弁護士役を落ち着いた演技で見せ、物語を進行していく。
年齢を重ねたからこその重厚な演技が見ものだ。

 こうしてみると、妻夫木は、笑顔が似合う好青年からダークなかげりのある人物まで、実に幅広い役柄に次々と挑戦してきたことが分かる。そして、近年ではその芝居はさらに深みを増し、優しいお兄ちゃんも影のある男も説得力ある人物として見せてくれる。8日から放送される『Get Ready!』では、どんな新たな顔を見せてくれるのか、期待しながら放送を待ちたい。(文:嶋田真己)
 
 日曜劇場『Get Ready!』は、TBS系にて毎週日曜21時放送(初回25分拡大)。