1月からスタートした、俳優の松本潤が主演の大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合/毎週日曜20時)と、同月から始まった、女優の北川景子が主演を務める『女神の教室~リーガル青春白書~』(フジテレビ系/毎週月曜21時)に出演しているのは、“カメレオン俳優”とも称される山田裕貴だ。これまで山田は、理知的な人物から頼りないキャラクター、アウトローから正義のヒーローまで演じており、まさに変幻自在。
【写真】山田裕貴「坊主やっちゃいますか」 撮影現場で思い切ってヘアチェンジした様子
■忠実な再現度で魅了した実写作品
2011年に、特撮テレビドラマ『海賊戦隊ゴーカイジャー』(テレビ朝日系)で俳優デビューした山田。その知名度は、実写化作品に登場するたびに上昇していく。
2013年放送のテレビドラマ『イタズラなKiss~Love in TOKYO』(フジテレビ)では、ヒロイン・琴子(未来穂香)を思い続ける真っすぐでピュアな男・金之助を好演。そうかと思えば、2016年に出演した「闇金ウシジマくん Part3」では、ネットビジネス界の風雲児・空少々の1番弟子・清栄真実になりきり、黒ぶちメガネにスーツ姿でクールに決めていた。
原作からそのまま飛び出したのかというほど、ファンの期待を損ねることなく忠実に演じてみせる山田。昨年5月には『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』で、紳士然としながらも常に狂気を漂わせるヒールキャラ、ゾルフ・J・キンブリーに扮(ふん)し、登場した時間はわずかながらも、その完成度の高さに絶賛の声があがった。
まさに実写化俳優とも言うべき、引き出しの多さと再現度の高さ。想像上の人物をリアルに、鮮やかに演じきれる秘密は、自分の地位や名声ではなく、作品に貢献したいという純粋な思いがあるからだろう。
■2度の朝ドラ出演で成長を証明
また、“朝ドラ”(連続テレビ小説)の出演もブレイクのきっかけと言える。彼の名を一躍押し上げることになったのが、2019年放送の連続テレビ小説『なつぞら』(NHK総合)だ。
同作で彼は、俳優としての気づきを得たという。雪次郎は菓子職人の道を離れ、劇団に入るのだが、劇中で演劇論を交わす際、「本物は普通なんだ。普通の人が普通にいるみたいに、普通の人が言いたいことを伝えられるのがプロ」というセリフに共鳴。俳優はスターではなく、1番普通の人間でないといけないと改めて再認識したのだ。
そんな“学び”を携えて3年。役者として一回り成長した彼は昨年、2回目の朝ドラ出演となる連続テレビ小説『ちむどんどん』に抜てき。博夫という役柄を演じていた。雪次郎も博夫もどちらも優しいのだが、雪次郎がはっきりと意見が言える性格である一方、博夫は周りに流される優柔不断な役柄だった。それぞれのキャラクターが持つ“優しさ”の違いを、見事に体現したのだ。
■対照的な役柄で見せた俳優としての順応性
山田のカメレオン俳優ぶりを裏づける証拠は、対照的な役柄で見せる俳優としての順応性からも証明されていく。
2021年7月公開の映画『東京リベンジャーズ』で、東京最大級の規模を誇る暴走族「東京卍會」の副総長・ドラケンを演じ、ピアスや金の辮髪(べんぱつ)、左のこめかみにある龍の刺青風メイクで、原作のキャラクターを忠実に再現した山田。一方、同年同月に放送された水曜ドラマ『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』(日本テレビ系)では、正義感が強く時折余計な行動を取ってしまうが、実は生真面目で努力家な男・山田武志を演じ、正反対の役でギャップを見せ、2つの顔でファンを楽しませた。
また、山田は今クールでも、2つの作品で正反対の役を演じている。冒頭で紹介した『女神の教室~リーガル青春白書~』と『どうする家康』だ。『女神の教室~リーガル青春白書~』の物語の舞台は、裁判官や検察官、弁護士などの“法曹界”を目指す学生たちが通う法科大学院、通称・ロースクール。そこで山田は、無愛想で、成績上位の優秀な生徒しか相手にしない冷徹な教員・藍井仁に扮(ふん)している。「判例オタク」で合理主義者の変わり者である藍井は、感情の読み取れない表情や声のトーンで、淡々と物事を語る。
そんな感情のない抑制した演技とは対照的に、『どうする家康』では、松平元康(のちの徳川家康/松本)の家臣として、元康を暑苦しいほどに叱咤激励する戦国武将・本多忠勝を好演している。2話で、自軍が壊滅状態に追い込まれた元康が「無能な大将じゃ」と自害を決意するシーンで、忠勝が元康に涙ながらに熱く思いを伝える姿には、心を打たれた視聴者も多いのではないだろうか。
日曜日の大河と月曜日の“月9”、時代劇と現代劇、熱い心を持つ戦国武将と冷徹な教員、2つの時空で、2つの役を演じ活躍する山田の姿を楽しめるというわけだ。アウトローから正義のヒーローまで、どんな役を投げても、作品に順応し、没入してくれる。また照準を合わせてくれる信頼感が、オファーが絶えない理由だろう。
■親しみやすいキャラクター、愛される人柄
ここまで、役者としての姿を振り返ってきたが、最も、彼の人気を高めるのは、俳優としてどんなに評価が高まり、名声を得ても、気さくで親しみやすい山田自身の人柄だろう。
例えば、『女神の教室~リーガル青春白書~』の制作発表。新年ということもあり、それぞれ今年の抱負を発表した際、山田は「滝行」と明かした。滝行の経験がある共演者の前田旺志郎が、そのつらさを語ると、引くどころかむしろ「やりたいです。めちゃくちゃ」と前のめりになっていた。また、自身のラジオ番組『山田裕貴のオールナイトニッポンX』(ニッポン放送)では、連続テレビ小説『ちむどんどん』で演じていた博夫のことを“メガネ正座マン”と評していたという。それは劇中、メガネをかけている博夫が実家の家族の前でたびたび正座していることからつけた“あだ名”で、そんな山田のユーモアさと天真らんまんさに引かれるファンも多い。
さらに、自身が声優を務めた『ONE PIECE FILM RED』の公開記念舞台あいさつでは、同作の大ファンであることに触れつつ、俳優になる前からいつか作品に携わりたいと熱望していたことを告白。そして、「『俳優王に俺はなる』と、18歳くらいの時に書いていた」と明かしていた。
少年のような屈託のなさが、32歳になった今もどこか感じられるのも山田の魅力だ。キャリアを積めば積むほど、演じる難しさや大変さを味わうが、演じることが好きという愚直なまでの原動力が彼を突き動かし、そのエネルギーが周囲に伝わることでオファーにつながるのではないだろうか。山田が、本当の「俳優王」になる日も近いのかもしれない。
引用:「山田裕貴」インスタグラム(@00_yuki_y)