井上真央主演、佐藤健、松山ケンイチ共演のTBSドラマ『100万回 言えばよかった』(TBS系/毎週金曜22時)が好評だ。放送前に聞こえていたファンタジーラブストーリーとの表現よりも、蓋を開ければミステリー要素が強い。

演技派キャストの集まった本作では、それがいい方向へと歯車をかみ合わせて回転していきそうな期待を持たせている。中でも重要になってくるのが、作品の中央に立つ井上真央だ。

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 第2話では、悠依(井上)に警察署から連絡が入り、身元不明の遺体を、行方不明になっている直木(佐藤)かどうか確認に行く場面があった。それより前に刑事の譲(松山)から、「十中八九、直木さんは亡くなっていると思います」と言われた際には、平静を保っていた悠依だったが、直木の“死”を、現実味を帯びたものとして突き付けられ、過換気症候群を引き起こしてしまった。第1話、2話と続けて、早くも感情の起伏の激しい難しい場面が続くが、井上は、これ見よがしの演技ではなく、ファンタジーかつミステリーの色をほんのり感じさせつつ、あくまでもナチュラルな芝居を作品に溶け込ませる。

 この1月に36歳になった井上は、5歳から子役としてキャリアをスタートさせた。1999年から2003年にかけて放送された昼ドラ『キッズ・ウォー』の茜役で躍進。さらに2005年からの『花より男子』シリーズで牧野つくしを好演し、人気女優としての地位を確立した。以降も映画『八日目の蝉』、連続テレビ小説『おひさま』、大河ドラマ『花燃ゆ』、『明日の約束』『少年虎次郎』など、多くの代表作を放ってきた。

■取材時に明かしていた自身の変化

 井上には幾度か取材したが、2021年公開の主演映画『大コメ騒動』の取材時に、それ以前とはどこか違うとてもリラックスした印象を受けた。井上自身、主演という立場に「自分自身にプレッシャーをかけていたときもあった」そうだが、「少し力を抜いて、全体の中での自分を俯瞰で見られるようになってきた」「自分自身を信頼できるようになってきた」と語っていた。それも人と関わり、人を信頼していくうちに自分を信じられるようになったとか。


 かつては仕事においても私生活においても、「充実させなければ」「頑張らなければ」と気負いがあったそうだが、そうした状態から解放されたと柔らかな笑顔を見せていたのが心に留まった。演技のうまさはもちろん、好感度も高い井上だが、現在の彼女からは包容力というべき空気がにじみ出ているのかもしれない。

 いわゆる憑依型と呼ばれる俳優は魅力的だし、面白い。だが、自分を俯瞰で見られる俳優は強いし、こちらもまた面白い。井上の芝居は非常にナチュラルで、心の奥にすっと入り込んでくる。特に本作のようなミステリー要素の強いラブストーリーでは、井上のような、その場に浸透する自然な感情表現は、見る者をいい意味で誘導する。切なさだけでなく、事件の真相解明が同時進行していく本作。改めて井上の演技力の高さに身を預けるチャンスだ。(文:望月ふみ)

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