2008年から藤沢市に移住し、湘南の海風を感じながら、アクティブなライフスタイルを満喫している俳優・タレントのつるの剛士。その一方で、5人の子どもの子育てにも積極的に参加し、“イクメン”の先駆者として、講演会や幼稚園の非常勤講師など公私にわたって活動を続けている。

そして、今年48歳になったつるのは、新たに大学でこども心理学を学び始めたが、いったいそのエネルギーはどこから生まれてくるのか。つるのが出演する釣り専門チャンネル「釣りビジョン」の番組収録現場を訪れ、間もなく50代を迎える彼に、その原動力を聞いた。

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■イクメン第一人者がゲリラ的に育休宣言をした理由

 イクメンと言えばつるの、つるのと言えばイクメン。何なら、この言葉の生みの親という認識が世の常となっているが、本人はイクメンという言葉に違和感を持ち、「ハッキリしておきたいのですが、僕の口から“イクメン”と言ったことは一度もないんです」と語る。

 振り返れば2011年。バラエティ番組から生まれたユニット・羞恥心の活動をはじめ多忙を極めていたつるの。すでに4人の子どもの父親だったが、家庭のことは奥さんにまかせっきり。夫婦関係もギクシャクし始め、モヤモヤがピークに。そんな時、ふと、「家庭という基盤をしっかりと作らないと、仕事もうまくいかなくなるぞ」という亡き父親の言葉が降ってきたという。

 「これは休まなければ、家庭も仕事も潰れてしまう」…追い込まれたつるのは、思い切った行動に出る。「普通に『休ませてください』では絶対周りに反対されると思ったので、いろいろ作戦を練っていたら、翌日、皮肉にも『ベスト・ファーザー賞』というすてきな賞をいただけるイベントがあって。メディアの方がいっぱい来ると思ったので、その場で『来年の1月から休みます!』ってゲリラ的に宣言すれば休めるかもしれないと思ったんです(笑)」。


 当然、関係者は驚がくし、「レギュラー番組たくさんあるのにどうするの!」と詰め寄られたが、なんとか話し合って2ヵ月間、休暇を取ることに成功。だが、これが“育休”や“イクメン”という言葉を世に根付かせる歴史的な出来事となる。

■イクメン・ブームの中で“育休”が求められる時代を実感

 今でこそ笑みを浮かべながら語るが、当時はかなり心の中で葛藤し、「もし芸能界で自分の席が無くなったとしても、また一から頑張ればいい」と最終的には腹をくくって休みに入ったという。ところが、フタを開けてみたら、つるのは時代を大きく動かした。「休み中、ブログで自分の生活をなんとなく発信していたんです。それが発端となって、“育児休業”(以下、育休)という言葉自体があちこちで広まって…。僕自身は別にセンセーショナルなこととは全然思っていなくて。何ならただのワガママじゃないですか(笑)。自分が休みたいから休みをとっただけなので」と恐縮する。

 さらに、「2ヵ月後、仕事に復帰したら、“イクメン”という言葉が一世を風靡(ふうび)し、なぜか流行語大賞に僕が選ばれて、舞台に上あがってあいさつしたのですが、別にイクメンを流行らせたくて育休を取ったわけでもないし、単純に家庭がちょっと不安定で、一度奥さんの気持ちを共有したいと思って始めたことなので…。だから違和感しかありませんでした」と振り返る。ただ、これだけ自分の行動が話題になった事実を受けて、育休が今、物すごく求められていることを少なからず実感することに。


 いわゆる本人のあずかり知らぬところで、イクメンの先駆者的存在になってしまったワケだが、ここで、「求められていることに応えたい」という彼の誠実さが新たに発動する。

 「仕事に復帰して、その6年後に5人目の子どもが産まれるんですが、それまでにたくさん講演会に呼んでいただいていたんですね。どこに行ってもイクメン、イクメンと言ってくださって、神輿を担いでくれるんです。『そんなつもりはないんですよ』と言いながらもここまで皆さんに言っていただけるのなら、逆転の発想で、イッチョやってみようかと思って。5人目ができた時に、『僕、イクメンやってみます!』と宣言して、また育休を取ったんです」。

■イクメンという言葉が消えて「当たり前」の時代こそ真の幸せ

 イクメンという言葉を受け入れることで、またしてもつるのをアップデートする道が開かれる。「今度は、最初に決めた育休とは全然違うので、すごく気合いを入れて臨みました。エプロンして、ハチマキして、毎日メモ帳を持って世の中のママたちの気持ちを全部自分が代弁しようと思ってやりました。それでまぁ、育休を終える頃にその期間の暮らしぶりをブログに全部ぶちまけたら、世の中のお母さんたちが『男性がここまで真剣にいろんなことをやってくれて、私たちの気持ちまで代弁してくれて、めちゃくちゃうれしい』みたいになって、それが輪をかけてイクメンの代表みたいな存在に押し上げられてしまって」と苦笑い。

 「僕自身、あまり本意ではないけれども、時代的に男性がそうやって育児をやるとか、家庭のいろんなことを理解するとか、そういうことが求められているのであれば、それはそれでいいことだし、このイクメンという言葉が消えて『当たり前』になった時に初めて、世の中、いい時代になっているんじゃないかなと思ったんですよね」。

 より前向きに家庭に目を向けるようになったつるのは、やがて学業にも興味を持ち始める。2022年には短大を卒業後、幼稚園教諭二種免許を取得し、同年、保育士試験に合格。
そして、2023年4月より大学3年に編入し、「こども心理学」を学ぶという熱の入れようだ。

 「今年で芸能生活30周年なんですが、振り返ってみると、『ウルトラマンダイナ』や『チャギントン』『劇場版ポケットモンスター』『すくすく子育て』など、子ども関係のお仕事をたくさんさせてもらいました。周りからもそういった部分を求められてきたので、少し専門的なことを真剣に学んでみようかなと。これから50歳になって新たなお仕事をさせていただく時に、そういった専門的な知識がある方が、説得力がありますし、いろんな方々のサポート役にもなれると思ったんですよね」。

 今年入学したばかりで、これからという感じだが、手応えは感じているようだ。「心理学にもいろいろ領域があって、こども心理学だけでなく、社会心理学や臨床心理学などいろいろあるんですが、今、総合的に心理学を学んでいて、それらを知っておくと、子どもたちとの関わり方とか、家庭の教育とか、もっと広い領域で皆さんのお話を聞くことができるようになる」と笑顔を見せる。さらに、「今まで家庭の中で子どもたちといろんなことに関わってきましたが、ごく自然にやっていたことが言語化されていくんですよね。全てがカテゴライズされるので、『なるほど、これがこういう心理学になるんだ』とか、『これがこの分野に属するんだ』とか、頭の中でどんどん整理されていくのがとても楽しい」と充実感を口にした。

■「50代を楽しむ土台作り」 それが僕のモチベーション

 イクメン、大学生、そして釣りやサーフィン、楽器、将棋に野菜作りなど、趣味の幅広さでも有名なつるの。最近では全国の大衆浴場めぐりにハマっていて、『つるの湯シリーズ』としてブログで展開するほどだが、このエネルギーはいったいどこから湧き出てくるのだろうか?

 「実は、『釣りビジョン』で奥さん(当時、スタイリストとして番組に参加)と出会って、それから子どもを授かっているので、僕の中のベースが『釣りビジョン』だったんですよね。そういうご縁もあるんですが、新婚生活もつかの間、立て続けに5人生まれ、ずっと子育てが中心だったので、夫婦2人だけで過ごす時間がほとんどなかったんです。だから、子育てを終えたあとの第2の人生の“土台作り”を今しているって感じなんですよね。
もうすぐ50代、イクメンと言われるけれど、実は子どもたちを早く一人前に育てて、夫婦2人でいろんなことを楽しみたい…それが僕のモチベーションにもなっているんです」と目を輝かせる。

 親の背中を見ながら子は育つもの、いろんな影響は与えていると思うが、「子どもたちに何かを強要したりはしないので、みんな自由にやっている」と語るつるのは、子煩悩だが教育パパというタイプではない。むしろ彼のエネルギーの根源は、“愛妻家”にあるにあるようだ。

 そしてもう一つは、亡き父の人生から学んだ教訓だ。「うちの親父は59歳という若さで亡くなっているんです。すごく無念じゃないですか。銀行員として真面目一徹、これから余生を楽しもうと計画していたと思うんですよね。そんな親父の姿を見ながら、『人生は儚(はかな)いな…』と痛感したんです。だから、せっかく生まれてきたんだったら、もっと太く生きて、自分がやりたいと思ったことは全部やってやろうと。自分が死ぬときに『つるの剛士、最高だった。この上ない人生だった!』と言って笑って死にたいと思っているんです」。

 つるの剛士が釣りを楽しみながら、「50歳を前に思うこと」…。
移住した湘南の海への思いを語る『つるの剛士、今日、ナニつるの?』(釣りビジョン)は7月9日21時初回放送。(取材・文・写真:坂田正樹)

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