映画、ドラマ、舞台、さらにはエッセイ執筆と幅広いジャンルで活躍を見せ、今年結婚するなど充実期を迎える中村倫也。この夏は、『下町ロケット』以来、8年ぶりの池井戸潤作品となる『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系/毎週木曜21時)で主演を務める。

主演だからという気負いはまったくないという彼に、「百戦錬磨の先輩たちがいっぱいいて、リアクションの芝居をするのが楽しみ」だという本作に込めた思いを聞いた。

【写真】撮影中も穏やかな雰囲気は変わらず 中村倫也、かわいすぎる撮り下ろしショット

◆勝手知ったる顔ぶれそろう消防団は「ずーっとみんなでしゃべってる」

 本作は『半沢直樹』『下町ロケット』『陸王』『民王』と、数々のヒット作を世に送り出してきたベストセラー作家・池井戸潤の最新作ミステリーをドラマ化。共演には川口春奈満島真之介古川雄大、岡部たかし、梶原善、橋本じゅん、山本耕史生瀬勝久ら個性派キャストが顔をそろえる。

 中村が演じるのはスランプ気味の作家・三馬太郎。亡き父の故郷、山間の“ハヤブサ地区”に移住し、都会のストレスから解放され、穏やかな生活が送れるかと思いきや、地元の消防団に加入したのを機に連続放火騒動に巻き込まれる。さらには住民の不審死など怪事件に遭遇し、真相を探りはじめた太郎の前に、集落の奥底にうごめく巨大な陰謀が浮かび上がる。


 本作について中村は「夏の日本の野山といいますか、自然だらけの絵になるだろうなって思いました。観てくださる方にも、望郷じゃないですけど、日本の夏の原風景としてある気がするんですよね。そういうものに触れることができる、まさしく夏クールにやるドラマだと思いました。そうしたのどかな中で起こるミステリーというのも非常にスリリングで、ギャップを楽しめるものになるんじゃないかなと感じました」と語る。

 消防団のメンバーは「昔から舞台とかでお世話になっている方が多い」そう。「すごくリラックスして、撮影中じゃない待ってるときもずーっとみんなでしゃべってるんで楽しいですよね」と笑顔を見せ、「何を話しているかは覚えてないです。
覚えてないような話ができる関係性。一番いいやつです、記者泣かせですけどね」とニヤリ。「主に生瀬さんがふざけてます。じゅんさんがそれに後輩として相槌打って。それを善さんが“しゃべってんなー”って顔して遠巻きに見ていて、僕と真之介がへらへらしながら乗っかる。その横で岡部さんはヨガをしてます(笑)。
カオスですね」となんとも楽しそうな雰囲気だ。

 そんな中でミステリアスなヒロインを演じる川口春奈とは、『ヤンキー君とメガネちゃん』(TBS)以来13年ぶりの共演。「13年前はほとんどしゃべってないんですよ。なんか美少女が出てきたなと思いました。彼女は15歳くらいで、僕は22~23歳だったかな。僕はこのあやふやな顔じゃないですか。
薄いというか童顔というか(笑)。二十歳過ぎてる僕よりも、15くらいの彼女のほうが顔が完成されていたんで、すごいなって思って」と笑いながら振り返る。

 「クラスメイト役だったんですけど、僕は他のクラスメイトたちとしゃべってたんです。15歳くらいのきれいな女の子に、何話していいかもよく分からないし」と述懐しつつ、「当時はあまりしゃべってないので人となりとか知らなかったですけど、その後のお仕事とかを見ていて、壁のない、マイペースな感じなのかなと印象として持ってたんですよね。今回ご一緒してみてやっぱりそうだったんだなと思いましたし、探り合いをしないですむのでやりやすいです」と語る。

◆「仕事という感じではない」本職の消防団に感銘

 太郎は消防団に加入することで陰謀に巻き込まれていくが、中村自身は「“〇〇団”って言葉に人生で触れたことがないです」と語る。
団体行動について尋ねると、「ずっとサッカーをやっていましたし、みんなで何かをやることが好きでこの仕事をやっているので、好きなんじゃないですかね。ゴリゴリの体育会系みたいなノリは持ってないですけどね」と笑う。

 本作は消防庁が全面協力し、クランクイン前には講習も受けたそう。「初めて知りましたけど、所作というかポジションがあるんですね、火消しにも。僕は一番やることが少ないところに配属されたので、秒で覚えられたのでよかったです(笑)。火消しドラマの醍醐味として炎の中に突入して人を助け出すというところがあると思いますが、(本作では)そういうのは全部おじさんたちがやってくれますから」。


 また、「本職の消防団の方がすごいのが、ちょっとした手当はあるらしいんですけど、信じられないくらい安い額なんですよ。土地を守りたいっていう気持ちだけで、仕事という感じではないんですね。すごく素晴らしいことだなって感じました」と感銘を受けた様子だ。

 演じる太郎は消防団の一員としての顔のほか、ミステリー作家という一面も持つ。そちらに対する役作りを尋ねると、「なんにもしてないです」ときっぱり。「でも、自分自身エッセイを書いてた経験が生きてますかね。書けない苦悶とか、編集さんとのちょっとしたやりとりとか…。もちろん僕は小説家じゃないですし、本職でもないのであれですけど、ちょっと生きてる感じ」はあるそうだ。

 太郎とは「気になることがあるとすぐ調べること」が共通点。「劇中でも、『探偵みたいなことするんですね』って言われて、『そういうわけじゃないんですけど、本当のことが知りたい』っていうセリフがあるんですけど、自分も割と気になることがあったらすぐ調べたりするんです」。野山に囲まれた場所での撮影が多い本作でも、その気質は存分に発揮されているようで、「花とか虫とかえげつないほどいるので、名前も知らない変な虫を見つけたり。今ってケータイで写真を撮るとすぐに調べられるじゃないですか。その技を最近身につけまして、咲いてる花とか、意外と身近な草や野菜の花だったりするのが楽しくて、いっぱい調べていますね」。

◆座長としての力みも気負いもなし「空回るだけなんで」

 今回テレビ朝日の連続ドラマ出演は、粘着質なDV夫役が話題を呼んだ『ホリデイラブ』以来5年ぶり。「あの時は松本まりかと一緒に、振り切った芝居をしようと話していましたね。後にも先にも生まれて初めて『このあばずれ女が!』っていうセリフを言いました(笑)。『きさま!』ってやたら言ってた気もしますし、ちょっとぶっ飛んでる役でしたね」と笑いながら振り返る。

 あれから5年の間に、連続テレビ小説『半分、青い。』でブレイクを果たし、映画、ドラマと数多くの主演作を重ねた。今回、座長として個性派キャストを束ねるにあたり、特別な思いはあるのだろうか? そう尋ねると「ないですね。もともと“主役なんで頑張ります”みたいなものを人生で持ったことがなくて」との答えが。「というのは、ぼくが若いころに見上げていた先輩たち、たくさんの種類の先輩たちの背中を見させてもらってきたのですが、そういうのは必要ないんですよね」。

 「心がけていることといえば、現場にその日いるスタッフやキャストみんなが楽しくやっていて、ほどほどにいい1日だったなって思ってもらえればいいなって思ってるくらい」と主演として作品に臨むスタンスを明かす。また、「役者セクションの代表みたいなつもりはありますけどね。ゲストで来てくださる方や若手とかが“このセリフ言いづらそうだな”とか、そういう時には、自分の役のことだけじゃなく、ほかの役者のことやもちろんスタッフのコンディションとかにも、手を差し伸べられることがあるなら差し伸べようと思って見てるくらいですかね。でも、それは座長じゃなくてもやっていたりすることなので」と特別なことをしているつもりはない。

 さらに、「力みとか気負いとか必要なくなってきてますね。あったらいいんですけどね。気負いなんかいれたところで空回るだけなんで」と語り、「言い方が難しいですけど、まっさらな能力で勝負して通用しなかったら“ごめんね”って言うしかないと思って生きてる」と話す。

 「そういう気負いとか緊張とか責任感とか、プレッシャーを感じる物事を排したほうがナチュラルに人と絡めるし、影響し合えるし、一緒に楽しいものが作れると思っているんです」と穏やかに語る中村。そうしたスタンスにも、観る人の心をつかむ俳優・中村倫也の魅力の原点を感じる。「かっこよくて、かわいいおじさまたちの活躍が見どころ」とアピールする本作でも、信頼するキャストやスタッフと一緒に心から作品作りを楽しむ、フラットでナチュラルな中村倫也の姿が観られそうだ。(取材・文:編集部 写真:高野広美)

 ドラマ『ハヤブサ消防団』は、テレビ朝日系にて毎週木曜21時放送(初回拡大スペシャル)。