昨年末から今年頭にかけて『silent』『ブラッシュアップライフ』と、立て続けに深い印象を残した夏帆。2003年にCMデビューしてから芸能活動20年となる彼女の実力は、ここにきてさらに加速しており、2020年以降だけでも、配信を含み、単発&連続ドラマ14作品、映画6作品、舞台1本と、驚くほど多くの作品に出演してきた。

しかもそのいずれもが面白い。そして、この8月26日からは舞台『いつぞやは』の上演が始まる。「そのときそのとき、興味があることをやってきた結果、今ここにいる」と語る彼女に話を聞いた。

【写真】デビューの頃から変わらない、圧倒的透明感!<インタビューフォト>

◆2年連続の舞台に「ちょっと不安もあった」

 さまざまなジャンルの作品に引っ張りだこだが、やはり映像でのイメージが強い夏帆。実際、舞台は2012年の初舞台から2016年までに5本の舞台を経験したのち、昨年の木野花演出『阿修羅のごとく』までに6年空いた。だが今回、『いつぞやは』で2年連続での舞台出演に挑む。
てっきり久しぶりの舞台で、その面白さに目覚めたのかと思いきや、「『阿修羅のごとく』の本番を迎える前に決まっていたんです。連続して舞台に挑戦することになったのは“たまたま”です」と夏帆。それでも、「期間を空けずにできるのは、結果的にすごく良かったと思います」と語る。というのも、「今回、ちょっと不安だった」から。

 「『阿修羅のごとく』をやって、舞台ってやっぱり難しいなと思ったんです。できないことのほうが圧倒的に多かった。
それでも稽古期間中も、本番中も、学ぶことが多くて、イチからお芝居を勉強している感覚でした。楽しさとか快感といったものを感じられるところまでは行けなかったけれど、やっぱり舞台という場は、役者を続けていくうえで、必要な場所なのかもしれないと思いました。でも正直、難しさも不安もあって。『いつぞやは』が決まっていたのは、逆に本当に良かった」と正直に明かす。

 『いつぞやは』は、第67回岸田國士戯曲賞受賞の気鋭の劇作家・演出家である加藤拓也の書き下ろし舞台。共演には窪田正孝、橋本淳、鈴木杏、今井隆文、豊田エリーが顔をそろえる。
物語は、窪田演じるひとりの男が、かつて一緒に活動していた劇団仲間を訪ねることから始まる会話劇。「みなさん全くの“はじめまして”ではないのですが、役者として共演するのは“はじめまして”の方がほとんどです」という夏帆。

 とりわけ豊田とは、デビュー間もないころ、ともにユニットを組んでいた仲だ。「当時はお芝居をしていたわけでもなかったですし、そこから20年近くの時を経て、舞台で共演できるというのが、すごくうれしいです。感慨深いですね」としみじみ。演出の加藤も演者たちも全員が同世代ということもあり、「すごく自分の世代に近い感覚。
普段生活している自分たちと地続きの物語だという感じがしています」といい、『阿修羅のごとく』とは、また全く違う顔を見せてくれるに違いない。

◆話題作での高評価も「いい作品と巡り会えただけ」

 さて、現在の夏帆を語るには、『silent』と『ブラッシュアップライフ』に触れないわけにはいかないだろう。反響の大きさは、もちろん夏帆にも届いていた。「この2本は、放送中にも撮影していたので、リアルタイムで反響が届いてきていたんです。そうした経験ってこれまでにほとんどしたことがなかったので、すごく驚きました」。

 『silent』では、さまざまな感情を見るものに訴えかける奈々を演じ切った。
「とにかく手話が大変で、練習ばかりして(撮影時は)出歩いていなくて、人ともあまり会っていなかったのですが、仕事に行くと、どの現場に行っても『見てるよ』と話しかけられました。放送が終わってから旅行に出かけるようになると、『そんなに声ってかけられるものなの?』と思うほど、たくさんの方に声をかけてもらいましたね」と影響を振り返った。続く連ドラ『ブラッシュアップライフ』の演技も評価を受けたが、「自分に何か自信がついたわけでもないし、『やってやったぞ!』となったわけでもありません。たまたますごく運がよくて、いい作品と巡り会えただけ。瞬間、少し浮かれたときはあったかもしれないですけど(笑)」と冷静だ。

 ただ「『silent』は本当に大変だったので、報われた気持ちはあります」と振り返るとともに、2作ともに共通するある手ごたえを感じたと口にした。
「『ブラッシュアップライフ』も、最初から私たちは『これ、絶対に面白いよね』と思っていましたが、実際に視聴者の皆さんも同じ気持ちだったのがうれしかったです。大きな反響を受けて、俳優としての変化が何かあったわけではありませんけど、『silent』も『ブラッシュアップライフ』も、誠実に向き合っていれば、ちゃんと伝わるんだなと思いました」。

◆20代の選択が、全ていまの私に繋がっている

 そんな夏帆は、かつて『天然コケッコー』『箱入り息子の恋』などで清純派と呼ばれ、その後『パズル』『東京ヴァンパイアホテル』『Red』ほかで「挑戦的な役柄に挑んでいる」と称された。そして今現在、とてものびやかに映る。「10代の頃は事務所に仕事を選んでいただいていたのですが、20代に入って、自分で選ぶようになりました」と明かし、自身の変遷を次のように見つめる。

 「それまでも事務所に“決められて”いたわけではありません。私自身が、自分がどういったものをやりたいのか、分かっていなかったんです。20代に入って、先を見据えてではなく、そのときそのとき興味があることを、いろいろ試しながらやってきました。そして今ここにいます」と。

 そしてさらに「私自身は、清純派と言われることに囚われて、大きく何かを変えようと思っていたわけでもありません。いろんな作品を観て触れたり、自分も仕事をしていくなかで、自分自身の興味も広がっていって、より自由になっていきました。だから、もがいたり反発しながら進んできた20代ではなく、自由に、『自分にはどんなことができるのかな。何が好きなのかな』と探しながら選択してきた結果が今なんです」と続けた。

 芸能生活20周年を数える現在、32歳となった。「いまは自分のできることとできないこと、得意なことや苦手なことがなんとなく見えてきた段階。この先どうやって仕事を選んでいこうかと、また模索しています」と穏やかに、しかし強い意志を含ませて語る夏帆に、「40歳になった自分に、今の自分が声をかけるとしたら?」と質問すると、しばしの逡巡のあと、答えをくれた。

 「願うのは健康だけです。20代の選択が全ていまの私に繋がっているので、40代の私に繋がるのは、これからの私の選択ということ。なので、これからの自分に『いろんなことを、楽しく、そのときそのときで選択して積み上げていってね』と言いたいです。そして40歳の私へは、『何をやっているかな。楽しみにしているよ』と伝えたいです」と笑顔を見せた。私たちも楽しみで仕方ない。(取材・文:望月ふみ 写真:高野広美)

 舞台『いつぞやは』は、8月26日~10月1日東京・シアタートラム、10月4日~9日大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演。