今年6月、34年のタカラジェンヌ生活に別れを告げた、元宝塚歌劇団宙組組長の寿つかさ。15年にわたり組長として宙組を支え、芝居ではダンディなイケオジからコメディー要素あふれるキャラクターまで演じ分け、ショーではキレッキレなダンスで“オペラグラス泥棒”としてファンを魅了。

退団発表時にはSNSが騒然となり、Yahoo!トップニュースになるなど、多くのファンが卒業を惜しんだ。そんな彼女が退団後初舞台となる、舞台『THE MONEY ‐薪巻満奇のソウサク‐』で始動。新たな一歩を踏み出した寿に今の気持ちを聞いた。

【写真】退団から2ヵ月 変わらぬカッコよさの“すっしぃさん”寿つかさ

七海ひろきプロデューサーからのオファーに驚き

 本作は、欲望渦巻く“5人の犯罪者”の物語で、謎解きやさまざまな仕掛けをちりばめたミステリーシチュエーションコメディー。舞台『刀剣乱舞』禺伝 矛盾源氏物語で歌仙兼定役を演じるなど、俳優・声優・アーティストとして多方面で活躍する七海ひろきの初プロデュース演劇企画となる。脚本・演出は保木本真也。


 寿がデビュー34年で初めての主演を務め、共演には緒月遠麻、伶美うらら、澄風なぎ、そしてプロデューサーで座長も務める七海ひろきと、宙組組長時代の組子が顔をそろえた。

――34年の宝塚生活、お疲れ様でした。6月11日の退団からこの2ヵ月はゆっくり過ごせましたか?

寿:それが全然ゆっくりできてないんです(苦笑)。片づけをしていたりしましたが、あっという間で。

――退団後初舞台となります、舞台『THE MONEY ‐薪巻満奇のソウサク‐』が幕を開けます。最初に七海プロデューサーからオファーがあった時のお気持ちを教えてください。


寿:まずびっくりしました。卒業して何か新しくやりたいことや決めていたことなどもなかったので、1年くらい片づけをしながら、何か見つけられたらいいなという気持ちでいたので…。

――七海さんからは、何か一緒にしませんか?というようなお声がけだったんですか?

寿:いえいえ。最初からしっかりとした企画で説明してもらいました。漠然とではなく、こういう作品で、こういうことをやりたいんですと。ただ私には卒業してから活動していくかどうかの考えがなかったこともあり、すぐにお返事できなかったのですが、カイちゃん(七海)からはゆっくり考えてくださいと言われて…。
でも、今回の作品が、私の好きなジャンルの作品だったんですね。それで心惹かれて、出演させていただくことになりました。

――今回は主演も務められます。

寿:それも最初にカイちゃんから言われ、「私が主演!? えー!!!!」って驚きました(笑)。きっとそれもカイちゃんの仕掛けなんじゃないでしょうか。お客様に笑っていただこうという(笑)。


――いえいえ。本作が発表になった時は、「カイちゃん、グッジョブ!」という声がSNSにはあふれていました。そうした七海さんのプロデュースセンスは、在団中から感じられていましたか?

寿:下級生のころは、自分のペースで目の前のやるべきことに自然体で取り組んでいる姿が印象でしたね。それが、上級生になるにつれて、自己プロデュース力を発揮していって。すごいなと思って見ていました。

――出演が決まり、本作の台本を読まれた印象はいかがでしたでしょう。


寿:シチュエーションコメディーということもあり、セリフ量は覚悟していたのですが、そうしたことを忘れるくらい本当に面白くて! 外出先で台本を読んでいたのですが、思わず声を出して笑っちゃうくらいだったんです。出演者のみんなで演じるとどんな風になるんだろうと、ワクワクが止まりませんでしたね。

◆退団から2ヵ月 まだ口になじまないセリフとは?

――主演ということで、組長として組をまとめられていた時と舞台に臨む心境に違いはありますか?

寿:いえ、そこに関しては変わらないんですね。出演者としていい作品を作りたいという思いは、在団中も下級生も上級生も一緒でしたし、今回も同じ気持ちで臨んでいます。

――ミステリーでもあるので、あまり詳しく話せないかもしれませんが、演じられるシンカンミツキという人物はどんなキャラクターですか?

寿:夫が突然失踪した主婦で…。…もうしっくりこなきゃいけないんですけど、つい2ヵ月前まで“夫”役を演じていたので、まだ“夫”って口にするのに違和感があって(笑)。
最初はどうしてもなじまなかったです(苦笑)。

――(笑)。『アナスタシア』でのマリア皇太后もすてきでしたし、今回もすんなりと受け入れられたのかと思っていました。

寿:宝塚時代も男女関係なくいろいろな役を演じてきましたし、それこそショーだと動物や植物に扮(ふん)することもあったんですけどね(笑)。その役として生きようというのは、今回のミツキ役でも変わらないのですが、なんかしなきゃいけないんじゃないかと思う自分がいる(笑)。もともと女性なんですけどね…(苦笑)。

――今回は宙組で共に作品を創りあげた皆さんが集結されます。ご共演の皆さんの顔ぶれを聞かれた時はいかがでしたか?

寿:うれしかったですね! よくぞ、このメンバーが集ったなという喜びが大きかったです。カイちゃんのおかげですね。

――緒月さんや伶美さんのインスタグラムを拝見していても、お稽古場の楽しそうな雰囲気がしっかり伝わってきます。皆さん、笑い続けてお稽古大丈夫かな?と心配もありますが(笑)。

寿:時間が足りないですね(笑)。お稽古の時間もそうですし、みんなとしゃべっている時間も! もう2倍は欲しいです(笑)。

それでも、お稽古始まった当初は、久しぶりに会えるうれしさと、久しぶりだからこそのうれしはずかしな感じもあったんです(笑)。今ではもう現役の頃の稽古場に戻ったような感じになって、みんなで一緒に作品に取り組む毎日が楽しくて仕方がないです。

――組子時代と比べて、皆さんの成長を感じることはありますか?

寿:“成長したな”なんて私が言うのはとんでもない! みんなOGの先輩ですし、いろいろ教えてもらっています。1人でさまざまな作品に出演し、いろいろな経験を重ねてきてすごいなと思っています。

◆退団発表の大反響に驚き 下級生時代には芝居にコンプレックスも

――『カジノ・ロワイヤル ~我が名はボンド~』の集合日に退団が発表されますと、退団がYahoo!トップニュースになるなど、SNSには驚きと悲しみの声があふれました。ファンとしては宙組にはずっと“すっしぃさん”がいてくださるものだと勝手に思い込んでいまして…。

寿:下級生や知り合いの方に聞いてびっくり! 皆さんも驚かれたと思いますが、私も驚きました(笑)。退団は、34年宝塚歌劇団で過ごしてきて、ひとつの区切りといいますか…。管理職だったこともあり、突然決めるわけにもいかず、少し前から準備をしていて、決めた感じです。

――宝塚人生を振り返ると、どんな34年でしたか?

寿:あっという間でしたね! 目の前のことを必死にやっていて、気づいたら34年経っていた感じでしょうか。「もうこれでいい!」とどこかで思っていたらもっと早く辞めていたかもしれませんし、ずっと挑戦し続けてきたから34年も続けられたのかなとも思います。

――組長歴は15年! 大変なお仕事の中、コロナ禍という試練もありました。

寿:そうですね。あの時は一番しんどい時期でしたね。組子のみんなは大丈夫かなという心配もありましたし、自粛期間中のメンタルもとても心配でした。でも、意外とみんな頼もしくて元気でいてくれて、本当に安心しました。逆にみんなから力をもらった感じがありましたね。

――そんな宝塚人生の中で、ターニングポイントだったなと思う作品を挙げるとすると、どの作品になるでしょう。

寿:…そうですね。私は、下級生時代、お芝居に苦手意識があったんです。ダンスなど体を使って表現することは大好きだったのですが、声は出ないしお芝居にはコンプレックスがあって。それが、雪組の下級生時代に、『忠臣蔵』や『この恋は雲の涯まで』の新人公演で、何かが開けたといいますか、上級生の皆さんの素晴らしいお芝居に触れることで大きく変わりましたね。

――シリアスな作品から『TOP HAT』のようなコメディーまで、どんな役どころも魅力的に演じられる寿さんがお芝居に苦手意識があったとは意外です。

寿:いえいえ。それは今でも続いてますね。毎回どうしたらいいのかな?と悩み考えながら、作品に取り組んでいます。

――今回の作品ではダンスシーンはないそうですが、また寿さんのキレッキレなダンスを拝見したいです。

寿:今回はないのですが、そう言っていただけるように、またしっかり鍛えないといけませんね!(笑)。

――ダンスや演技はもちろん、スカイステージでのトークやファッションなど、寿さんは「センスの塊!」という印象があります。組子の皆さんやファンの憧れの存在ですが、寿さんが日々の暮らしの中で大切にしていることは何かありますか?

寿:いろいろなことに興味を持つことですかね。それが一番大きいかな。きれいなお洋服を見たらすてきだな、着てみたいなと思ったり、自分の心がときめくことを大事にしていますね。

――ちなみに、今心ときめいているものはありますか?

寿:今ですか!? それがないんですよ~(笑)。卒業したばかりですし、これからいろんなものを吸収して、心ときめかせていきたいですね。

――では最後に、今回の作品を楽しみにしているファンの皆さんへメッセージをお願いいたします。

寿:カイちゃんこと、七海ひろき初プロデュース作品。皆さんに楽しんでいただける作品になるよう、出演者一同稽古に励んでおりますので、ぜひ皆さんにも一緒に参加していただいて、楽しんでいただけますとうれしいです。

(取材・文:編集部 写真:高野広美)

 QQカンパニー公演 舞台『THE MONEY ‐薪巻満奇のソウサク‐』は、東京・CBGK シブゲキ!!にて8月23~27日、大阪・心斎橋PARCO 14F SPACE14にて8月30日~9月3日上演。

 8月27日東京公演・千穐楽13時公演(全景視点)&17時公演(物語視点)、9月3日大阪公演・千穐楽12時公演(全景視点)&16時公演(物語視点)をRakuten TVにてライブ配信。