大胆さとしなやかさをあわせ持ち、若手俳優の中でも特別な存在感を放つ磯村勇斗。話題作への出演が相次いでいる彼の代表作の1つとなったのが、小悪魔的キャラクターのジルベールこと井上航役をハマり役として演じたドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京系)だ。
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■『何食べ』の現場は「ホーム」 深まった先輩たちとの絆
よしながふみによる人気漫画をドラマ化した本シリーズ。“シロさん”こと料理上手の弁護士・筧史朗(西島)と、その恋人で人当たりの良い美容師、“ケンジ”こと矢吹賢二(内野)の毎日の食を通して浮かび上がる、男2人暮らしの人生の機微を描き出す。2019年4月クールで放送されたドラマのseason1、2020年元日放送の正月スペシャルドラマ、2021年公開の劇場版に続き、このたび待望のseason2がスタートした。
劇中に登場するもう1組のカップルが、航&小日向大策(山本)で、シロさん&ケンジとは、4人で食事をしたりする間柄だ。season2が決定し、磯村は「『ホームに戻れる』といった感覚で、また皆さんと一緒にお芝居できることが楽しみで仕方なかったです」と本シリーズの現場を“ホーム”と表現するほど、愛着を感じている様子。「これだけたくさんの方に愛していただける作品、役に出会えることもそんなにないこと。自分にとってもとても大切な作品になりました」と心を込める。
撮影が始まり、「西島さん、内野さん、山本さんと『久しぶりですね』と話している時に、『何食べの現場に戻ってきたな』と感じました。4人でその場に集まると、まるでパズルがそろったように“何食べエネルギー”みたいなものがパッと生まれるんです」とそれぞれが自然と『何食べ』の世界へと帰還したと話す磯村。尊敬する先輩である3人と、丁々発止のやり取りを繰り広げる役柄として共演を果たしている彼だが、season1から数年が経ち「先輩方と、より距離が縮まった気がしている」と喜びを吐露する。
「今回ハロウィンでコスプレをするシーンがあるんですが、そこでどのような動きをしたらいいかと僕がかなり悩んでいて。西島さんは『そんなに悩まなくてもいいぞ。ストイックすぎる』と声をかけてくださったり、内野さんは『かわいいよ』と言ってくださったり」と笑いながら、「筧さんの家にみんなで集まるシーンになりますが、なんだかお正月に親戚同士が集まってきたような雰囲気があって。スタッフさん含め、家族のような温かさを感じながらお芝居をすることができました。season1では西島さんや内野さん、山本さんの話し合いについていくのに必死だったんですが、season2では一緒にディスカッションに参加したり、僕からも提案させていただくこともできた。先輩方もそれを受け入れてくださって、より絆が深まっている気がしています」と先輩たちに支えられながら、役者としても進化を遂(と)げている。
■多様性の時代に、LGBTQ+を題材としたドラマを作る覚悟
season2では、アラフィフに突入したシロさん&ケンジの日常が描かれる。毒舌キャラとして言いたい放題、ワガママ放題で周囲を引っ掻き回す航も年齢を重ねたことになるが、磯村は「航は相変わらず、小悪魔です」とにっこり。「一方で、大人になってきているのかなと思うところもあって。season1に比べると、4人でいる時の自分の居場所や立ち位置を理解し始めてきたのかなと。4人の世界では少し大人になっているような気もします」と航に起きた変化も感じているそう。
役を受け取った当初は「とんでもない猛獣だ」と航のワガママぶりに驚いたものの、「航はとても一途。
視聴者からも絶大な人気を博すキャラクターとなった航。磯村も反響を肌で感じているというが、その人気の理由についてどのようにとらえているのだろうか。すると「みんなが言いづらいことや、隠しているようなことも、航は思ったままに本音で言うことができる。そういったところは愛される点なのかなと思います。また、あれだけワガママを言ってもどこか母性本能をくすぐったり、面倒を見てあげたいと思わせるような魅力がある」と分析。
航を演じる上では、ある覚悟も胸にしていると話す。「season1から心がけているのは、LGBTQ+の当事者の方に失礼のないように、敬意を持って、しっかりと責任感を持って演じることを大事にしています。season1の放送から約4年が経ち、日本でもLGBTQ+についての理解や関心が深まってきていると思います。本シリーズがたくさんの人に愛されるドラマになっていることを思うと、男性、女性がいるのと同じように、LGBTQ+が存在していることが、自然にとらえられるような世の中になってきている部分もあるのかもしれません。本シリーズが、多様性について関心を持っていただけるツールの1つになっていたらとてもうれしいです」と思いを巡らせる。
■30代を迎えた心境は? 「しっかりとガソリンを用意して」
“小悪魔の航にタジタジとなる大ちゃん”というカップルの掛け合いも、本シリーズの名物となっている。磯村は「大ちゃんを演じる山本さんとは、お互いにその場その場で、いろいろと出し合いながらお芝居をしています。アドリブでやり合うことも多いです。僕らの役って、かなり体力を使うんだなと思いました(笑)。運動をしているかのように芝居が進んでいくので、まるでアスリートのようです」と充実感もたっぷり。さらに「ジルベールは、感情に緩急のある役柄です。また子どもっぽいところもあるので、30歳を過ぎた僕がそれを演じるとなると結構パワーがいるもので。しっかりとガソリンを用意していかないといけない」と苦笑いを見せる。
2014年にドラマ『事件救命医2~IMATの奇跡~』(テレビ朝日系)で俳優デビューした磯村は、今年31歳となった。「『30代はすごく楽しいよ』と話してくれる先輩がとても多くて。『年を重ねるのはいいことなんだ』と希望を感じています。40歳にかけてのこの10年は、僕自身もとても楽しみです」と年齢を重ねる喜びについて口にした彼だが、本シリーズでもそのように実感することばかりだと続ける。
実際の障がい者殺傷事件をモチーフにした辺見庸の小説を映画化した『月』が10月13日に公開され、11月10日には「生きていくために推進力となるのはなんなのか」というテーマをあぶり出そうとする映画『正欲』の公開も控える磯村。世に問うべき問題に光を当てるような作品への出演が続いている。作品選びにおいて「直感を大切にしていて、台本や企画を読んで『これはやるべきだ』と感じたものには絶対にトライするようにしている。この作品が時代にどうマッチしていくのかという、俯瞰した目で見つめることも大切にしています」という磯村。「簡単な役というのはありませんが、“やりやすい役”と“やりにくい役”があるとするならば、なるべくやりやすいと思うような役はやらないようにしたいなと。自分もまだ見たことのないものをみたいという好奇心があるので、これからもトライしたこのとのないものに飛び込んでいきたいです」と意欲をみなぎらせていた。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)
ドラマ『きのう何食べた? season2』はテレビ東京系にて毎週金曜24時12分放送。