ゲイの男性が育児放棄された障がいを持つ子どもを育てたという実話に着想を得て製作され、日本でも広く支持を集めた映画を、世界で初めて舞台化した『チョコレートドーナツ』が満を持して再演される。2020年の初演に引き続き主演を務める東山紀之と、今回初参加となる岡本圭人にインタビューすると、気心知れた同士、まだ稽古開始前の8月でも温かい雰囲気で作品への思いを語ってくれた。
【写真】再びパワフル&パッショナブルなルディ役に挑戦する東山紀之
◆岡本圭人のポール役に納得「おぉ、なるほど!」
シンガーを夢見ながら、ショーパブのクチパク・ダンサーとして日銭を稼ぐルディ。出口の見えない生活の中、ルディの人生は、運命の人ポール、隣室のダウン症のある少年マルコと出逢うことで変わっていく。ルディとポールは、悩み、迷いつつ、手を組んで世の中に立ち向かう。
トニー賞受賞俳優アラン・カミングが主演した映画をベースに、宮本亞門が翻案・脚本・演出を手掛ける本作。舞台版では、70年代のアメリカのヒットナンバーを散りばめた華やかなショーシーンと、緊迫の法廷ドラマを織り交ぜつつ、愛と希望、未来を求めて、苦闘する人間の姿を感動的に謳い上げるヒューマンドラマを届ける。
初演ではルディ役の東山がその卓越したダンス、歌、演技で観客を魅了し大評判を集めた。今回ポール役には谷原章介に代わり岡本圭人を抜擢し、高畑淳子、まりゑ、山西惇ら実力派キャストが脇を固める。またマルコ役には初演同様、実際にダウン症のある青年のオーディションを実施し、トリプルキャストで丹下開登、鎗田雄大、鈴木魁人が選ばれた。
――コロナ禍での中止もあった2020年の初演から3年ぶりの再演となります。
東山:本当にコロナ禍の大変な時だったので、中止になった公演もあったりと、自分の無力さを感じたりもしました。でも、自分自身も感銘を受ける物語でしたし、やっとコロナ禍も落ち着いてきた今こそ、さらに研ぎ澄まされたものをお届けしたいなと気持ちを新たにしました。
――今回はポール役を岡本圭人さんが演じられます。
東山:(ポール役が)圭人って言われた時には、「おぉ、なるほど!」って納得感があったというか、不思議としっくり感があったんですよね。圭人の舞台も彼に誘われて観に行ってましたが、素敵な俳優さんになられたと思いますし。今回の共演で素晴らしいものができたら、僕にとっても圭人にとっても財産になりますし、圭人のファンの皆さんにも彼の新たなチャレンジをぜひ見ていただきたいなという思いが強くなりました。
岡本:東山さんは、父(岡本健一)の先輩でもあるので緊張感もあったんですけど、このように言っていただけて、不安だったところがちょっとなくなりました(笑)。稽古を共にして過ごす時間がすごく楽しみです。
――俳優としてのお互いの印象はいかがですか?
東山:幼少期から圭人を見てますけど、ある瞬間から一本筋が入ったというか、本気になったなっていう感じがあって。内野(聖陽)さんとやった舞台(編集部注:2022年上演の『M.バタフライ』)だったかな? 京劇の女形の役に体当たりする姿を見た時に、彼の本気さというのを感じました。大人になったなと思っていた時に今回の話が来たので、すごくいい真剣勝負ができるような気がしますね。
岡本:ぜひ観ていただきたくて、頑張ってお誘いしたんです(笑)。僕は子どものころから『PLAYZONE』を観て育っているので、ずっと観ていた舞台に立っていた方とこういう形で共演できるというのはすごく幸せなことだなって感じています。
(東山は)スターですよね。華というか…。
◆宮本亞門の演出で引き出されたルディの魅力
――前回の上演で印象に残っていることはどんなことでしょう。
東山:お客さんの感情の揺れ動きがすごく分かりました。俳優としても喜びなんですけど、作品の持っている力というか、亞門さんの演出のすごさを感じました。大変難しい作品ではあるんですけど、物語に非常にすんなり入っていけるので、お客様が最後に見せてくれた涙は、こちらが見ていてもすごく感動するものがありましたね。
亞門さんの演出は本当に的確なんです。「東山さん、全然変わってない」と言われて。自分では変えているつもりだったんだけど、「全然変わってない、ルディになっていない」と。どうにかして亞門さんからリアクションをとろうと、稽古場で遊ぶようにしたというか、思いっきり開放してやってみたらすごく喜んでくれて。そこから正直さが動きの中に出てきた。それからすごく派手なアクションを心がけてやるようにしたことを覚えています。
――岡本さんは亞門さんの印象はいかがですか?
岡本:何度か打合せをさせてもらって、自分が個人的に気になっているポールのバックストーリーだとかをいろいろお話させていただき、そこから亞門さんが台本を書き直してくださったんです。自分はこれまで翻訳劇をやることが多く、台本を変えるということをしたことがなかったので、こういうアプローチの仕方もあるんだと驚きました。再演ではありますけど、前回谷原さんが演じられたポールとはまた違う人物像になるような予感がしてワクワクしています。
――それぞれ演じられるキャラクターはどんな人物ですか?
東山:ルディは、「世界で最高のディーヴァよ!」と言うくらいベット・ミドラーが大好きで、そこは僕がマイケル・ジャクソンを好きなのと似ているかな。でも、ああいう明るさとか真っすぐな表現は僕の中にはないものだったので、やっていて楽しいなって。自分にないものをとことん出せるので、普段家でも静かにおとなしくしている(笑)僕には、アスリート的な感じでいけるなって思いますね。
岡本:ポール自身はいろんなことを感じたり、いろんな夢があったりするんですけど、あまり口に出すことができないんです。そんな中ルディに会って、正直者でなんでも口に出すところに惹かれていったと思うんです。僕自身も自分からしゃべるタイプではなかったんですけど、アメリカに留学したときに、自分のことを表現しないと生きていけないような社会でもあるので、そんな周りの人たちが輝いて見えたんですね。
個人的に父と舞台で初共演した時に、それまで父親に言えなかったことも、役を通してだと言えることが結構あったりして、それがまた演劇の素晴らしいところかなって感じたんです。自分の殻を破る瞬間じゃないですけど、ポールだからできることっていうのがあると思うので、普段自分ができないことをポールを通して伝えられたらいいなと思ってます。
◆マルコ役を演じる3人との関係性を作り上げることが大切
――マルコ役を3名がトリプルキャストで演じられます。その中の1人、丹下開登さんは前回からの続投となります。
東山:ビジュアル撮影で再会したときは、すんなりと3年前の関係性に戻れましたね。いい意味で本当に変わらず、素直で穏やかでチャーミングなままでした。会うたびに、「東山さん、大好き!」って他の誰よりも言ってくれる(笑)ので、本当にかわいいですね。彼は嵐が好きなんですよ。
岡本:僕も初めて会った時に、「嵐が好き」と聞いたので、「僕も、Hey!Say!JUMPっていうグループにいたんだよ!」って伝えて。「観たい」と言ってくれたので、今度自分が出ていた時のDVDを渡したいと思います(笑)。初めてお会いしましたけども、どういう化学反応が起きて、どういう作品になるんだろうと予想ができなくて。
東山:(マルコ役の)3人みんなそれぞれ性格が違うので、感情の出し方とかも違ってくる。マルコとの関係性を稽古場でちゃんと作れるといいなと思いますね。僕らが不安に思うとそれが伝染するので。
彼らが舞台でちゃんと立って、お客さんの前で芝居してっていうのは、もう出てきただけで感動的ですよ。ダウン症のあるお子さんをお持ちの方もたくさんいらっしゃるから、その人たちにとっても希望というか、可能性が広がるのではないでしょうか。社会的な弱者ではなく、チャーミングな魅力の1つだと感じてもらえるといいですね。
岡本:僕は東山さんとも関係性を詰めていきたいです。自分の中では子どものころから自分のことを知ってくれている“ヒガシくん”なんです。それってすごくアドバンテージだと思っているんです。自分のことを子どものころから知っているお兄ちゃんと一緒にお芝居をすることはなかなかない経験ですよね。でも、いつしか気づけば(呼び方が)“東山さん”になっていって…。
東山:言ったもん勝ちだな(笑)。なんでもいいんですよ。なんせ圭人は、3歳の頃に森光子さんに飛び蹴りをくらわせた男ですから。そのうち、僕も飛び蹴りくらうんじゃないかって気を付けないとなって思ってますね。さっとよけられるようにしないと(笑)。
(取材・文:編集部 写真:松林満美)
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『チョコレートドーナツ』は、東京・PARCO劇場にて10月8~31日上演。大阪・豊中市立文化芸術センター 大ホールにて11月3~5日、熊本・市民会館シアーズホーム 夢ホールにて11月10・11日、宮城・東京エレクトロンホール宮城にて11月16日、愛知・日本特殊陶業市民会館 フォレストホールにて11月23日上演。