【関連】『震える牛』三上博史、撮り下ろしインタビューショットはこちら
『震える牛』は、食品問題に着眼し、そのタブーに見事に切り込んだ相場英雄の同名小説が原作。事件を追う刑事と記者、隠蔽しようとする組織との攻防をスリリングに描く衝撃の社会派ヒューマン・サスペンス。
「職業が刑事という特殊なだけであって、(田川を)市井の人という捉え方をしましたね」と自身が演じるキャラクターについて話す三上。刑事といえば、昨年NHKで放送された『実験刑事トトリ』も同じ刑事役。同じ刑事とはいえ本作とは真逆のキャラクターである。三上自身が言うように、今回は刑事という職業なだけであり、その点以外は“普通”の人だ。「物語を楽しんでもらいたいと思うと、“普通の人”はどうしてもキャッチーにはならないし、奇天烈なことをしていた方が、目が離せなくなるのは当然のことなので、その辺の苦労はありますよね。演じるということは変わらないのですが、どのように(そのキャラクターを)魅力的に見せていくかとかね」と語り、普通の人をいかに魅力的に見せていくかという難しさもあったと明かす。
だが、そこは俳優である。
また、役作りをするうえでいつも行う儀式もあるという。「まず、髪型をどうしようかということと、洋服をどうしようかということですね。『トトリ』の時は眼鏡を使ったりなどして、ファンタジーっぽく、リアルな感じではないようにしたかったので、カラコンを入れてみたりしたのですが、今回は逆にそぎ落とす作業をしましたね。生っぽく見える遠近両用の輪郭のないコンタクトをしてみたり、できるだけ(現実に)居そうな髪型にしてみたりとか…」。
外見が決まってくると、今度はキャラクターの内面を掘り下げていく。今回の田川というキャラクターでは「独り言を独り言として、しゃべれるようにしてみたりとかね。『トトリ』の場合、人に聞こえるようにしゃべる独り言だったと思うけど、今回は本当に独り言。ため息だったりとか…そういう細かいところだね」と、演じるキャラクターを分析し細かいところまで作りこむ。これが、“演技派”と言われる由縁なのかもしれない。 細かく役作りをし、キャラクターを作り上げていく三上だが、その役を作っていくうえで何かを参考にすることはあるのか聞いてみた。
「何年も前から台本をもらうわけではないからね。その時その時に(参考になるものを)探すとなると追いつかない。なので常日頃、どれだけ網を張っておけるかということだと思うんです。時間ができたら、本を読むとか映画を観ておくとか、知らないテリトリーにいる人達と真剣に対峙してみるとか。『こういう考え方をする人もいるんだな』と、できる限りの出会いを求めてね。作品に対してもそうだし、人に対してもそう、それをストイックに準備していく。自分の中にないものは、お芝居することができないからね。どこかで触れ合っていたり、感じていたりすれば、どこかで芽が出ることもあると思うので…。というわけで、それを収集できないスケジュールだったら、僕はたぶんこの仕事はできないと思います(笑)」。
今作は、私たちが普段、“大企業だから安心”と思い込んでいる考えを、見事なまでにその考えを根底から覆される内容となっている。自身の考えていたことを根底から揺るがされるわけだが、逆に三上自身は何があっても揺るがない信念のようなものはあるのだろうか。「自然児なので、“こうあらねば”ということはないのですが、正直に綺麗に生きていたいですね。
私たちが見る、俳優・三上博史は常に演じる役柄になりきっているためか、普段の三上がどのような人物かを想像することができない。それが魅力でもあるのだが、逆に何者も演じていない三上はどのような人物であるのかも気になる。最後に何者でもない“三上博史”の時はどのようなものにこだわりを持っているのか尋ねてみた。
「一般的な気の使い方とは違うと思うのですが…」と前置きし「食物全般だけではなく、テレビでも舞台でもそうなのですが、自分にとっての良いもの探しはしたいですね。同じ時間を使うのに、もったいないじゃないですか。何とかだからダメとかそういうことはないですよ。自分の良いもの探しであるので」と明かす。「そこに落とし穴がいっぱいあるような気がするんですけどね(笑)」と。
連続ドラマW『震える牛』は、WOWOWプライムにて6月16日スタート、毎週日曜夜10時放送(第1話は無料で放送、全5話)
ヘア:赤間賢次郎(ARABIA)/メイク:久保田直美(ARABIA)/スタイリスト:直井政信(337inc.)