『あまちゃん』(NHK)や『半沢直樹』(TBS)などのドラマが好調ななか、一際異彩を放っていたひとつのドラマが11日、最終回を迎えた。貧困と病気に翻弄されつつも、健気に生きていくシングルマザーを描いた『Woman』(日本テレビ系)だ。
最終回の平均視聴率は16.4%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)を記録した。

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 ネット上でも、脚本や映像の質の高さ、民放連続ドラマの初主演の満島ひかりを含めた俳優陣の名演で作品の評価は非常に高かった。キャスト・スタッフ共に絶賛されており、ドラマ公式サイト掲示板では、「テレビドラマとは思えないクオリティーの高さで感動いたしました」という声も挙がっていた。また、「あんなに泣いたの久しぶりです。エンドロールで号泣しました」とストーリーにどっぷり入り込んでいたかと思われるコメントも多数見られた。

 本作の見どころの一つとして、満島ひかりと田中裕子の一騎打ちと言えるような壮絶な演技合戦が挙げられる。彼女らのツーショットによる長回しシーンも多く、2人のやりとりに固唾を飲んだ視聴者も多かったのではないか。その密度を『あまちゃん』に例えると、小泉今日子と薬師丸ひろ子が初めて対峙したときのシーンに匹敵する。

 思えば、“不幸のデパート”のようなドラマだった。シングルマザーで仕事を掛け持ちして働くものの家計は苦しく、「再生不良性貧血」という難病を抱えた小春(満島)。暴力を振るう夫が原因で小春のもとを離れた母・紗千(田中裕子)。電車内で痴漢冤罪を受け、そのトラブルの中で男性に背中を押され線路に転落して亡くなった小春の夫・信(小栗旬)。
そして、紗千の再婚相手との娘で信の痴漢冤罪加害者である栞(二階堂ふみ)。息つくひまなく、ミルフィーユのように不幸の上に不幸が重なっていく。

 まるで“昼ドラ”のような展開だが、このドラマは大仰なドラマツルギーを選ばなかった。“何気ない日常”をじっくりと描くことでリアリティを表現していた。小春の病気を治療するために挑んだ骨髄移植のドナー検査の結果が不適合だったと紗千が告白したとき、小春の第一声は「知ってました?ナスを水に浸してあく抜きするのって、あんまり意味ないんですって」だった。

 こういった台詞を満島は淡々とした口調で、小春の不器用で芯の強い性格を繊細に描写する。娘の小春を愛したいがこじれた事情で表情を崩さない紗千に対して、時には伏し目がちに、時には真っ直ぐに視線を投げかける。助けを求めて母・紗千に手を伸ばそうとするがタイミングを逸してすぐに引っ込める。ついには、感情が決壊して「許せないんだよ。あなたも。あなたの娘のことも。ねえ、助けてよ。
お母さん。お母さん」と台所でカレイの煮つけを作りながら涙を見せる。大女優・田中に真正面からぶつかる満島芝居の真骨頂を見たような気がした。 2009年公開の映画『愛のむきだし』ではエキセントリックな役を多くの映画祭で新人女優賞を総ナメにした満島。8月31日に公開された映画『夏の終わり』では妻子ある男性の愛人役、ドラマ『それでも、生きていく』(フジテレビ系)では殺人犯の妹役を演じた。他作品の役柄を鑑みても幸の薄い役が多かったように思える。また満島にはそういった役がとてもよく似合う。

 薄い耳たぶで細身のスタイル。人を刺すような目力を持っていながら、時折見せる寂しそうな笑顔。若手女優の中で、これほどまでに幸薄女優のスペックを持ち合わせている人材がいるだろうか。さらに、自分の立場を静かに語りかけ始め、押し殺したような声で感情をせきとめ、ダムが決壊するかのように声が上ずって涙する。満島は独特な台詞回しも習得している。


 今回、母親役としても申し分ない存在感を見せ、演技の幅を広げた満島。本作では、怪物女優になる可能性を垣間見たような気がした。2010年に映画監督・石井裕也と結婚し私生活も充実。今後のさらなる活躍が期待される。(文:梶原誠司)
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