NHK大河ドラマのナレーションに、これまでとは違う動きが見え始めた。ここ5年あまりの大河ドラマのナレーターを見てみると、2010年の『龍馬伝』は香川照之、2011年の『江~姫たちの戦国』は鈴木保奈美、2012年の『平清盛』では岡田将生、2013年の『八重の桜』では草笛光子、2014年の『軍師官兵衛』は元NHKアナウンサーの広瀬修子、といった具合に、俳優や女優が担当することが多かった。
しかし、2015年1月4日にスタートした『花燃ゆ』では、ベテラン声優として知られる池田秀一がナレーションを担当しているのだ。

【関連】会見写真も!大河ドラマ『花燃ゆ』フォトギャラリー

 なぜ池田秀一をナレーションにキャスティングしたのか、『花燃ゆ』の制作統括 土屋勝裕チーフ・プロデューサーは、「池田秀一さんをナレーションに起用した理由は、池田さんの魅力的な声でドラマを盛り上げて欲しいと思ったからです」と話し、こう続ける。

 「ドラマの中でナレーションが必要になるのは、主に時代背景の説明です。登場人物たちの気持ちはナレーションで説明しなくても、視聴者の方に伝わるような作り方をしているので、ナレーションが入るのは、時代を描写する場面になります。しかし、そのナレーションが説明的・客観的で冷たい解説になってしまっては、興ざめです。歴史のお勉強ではなく、ワクワクドキドキしながら、ドラマを見て頂きたい。そう考えた時、声の仕事をされている声優さんのほうが、アナウンサーでもなく、俳優さんでもない、語りの味が出るのではないかと思います」。

 だとすると、なぜこれまで俳優や女優をナレーターに起用することが多かったのだろうか。なかでも目立ったのが、ドラマの出演者がナレーションを務めるタイプだ。

 「ドラマの出演者がナレーションを担当すると、その出演者がドラマのなかで演じている役の視点で語ることになります。たとえば『龍馬伝』では、岩崎弥太郎役の香川照之さんにナレーションを担当していただきました。出演者がナレーションをする場合、その役から見た世界観になり、ナレーションに感情を入れ込むこともできます。
一方で、出演者ではないナレーターの場合には、役を離れて、より俯瞰的な視点からの語りになります。それぞれのドラマの手法でどちらが良いかは、変わってくると思います」。 そして、土屋氏はこう付け加える。「ドラマの作り方は千差万別ですから、一概には言えませんが、テンポよく展開していくドラマには、声優さんのナレーションが合うかもしれません。じんわりと情感たっぷりにみせていくドラマでは、心情を吐露するような語りが心をうちますが、幕末乱世をテンポよく見せたいときには、声優さんの声がワクワク感を高めてくれると思っています」

 では、今回の池田秀一氏だが、『機動戦士ガンダム』シリーズのシャア・アズナブル役があまりに有名だ。そのイメージは強く、シャアの影がドラマ内にちらついてきたら? そんな心配はしなかったのだろうか。

 「今回は、幕末の長州という激動の時代と場所を舞台にしたドラマですから、声に勢いと力強さがほしいと思いました。さらに、聴きやすく、親しみがある、ということも重要です。もちろん池田さんといえば、シャアの声というイメージもありますが、池田さんの声と語り口が、今回の『花燃ゆ』に相応しいと考え、ナレーションを依頼しました」。

 それぞれのドラマの手法によって決められていくナレーターの配役。初回放送直後から話題となった池田秀一は、今後どのようなナレーションを披露してくれるのか。"お手並みは拝見させていただく"というシャアの言葉で締めたい。
編集部おすすめ