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“病院にあるコンビニ” “大阪・西成の貸しロッカー屋” など、ある場所や一定のエリアを72時間映し出す同番組は、2006年に第1シリーズ、2012年夏季限定スペシャルを経て、2013年から第2シリーズがスタート。昨年の年末に放送されたスペシャル版に出演したマツコ・デラックスが番組のファンだと公言して話題になり、番組放送後、ネット上では「涙しながら観てしまった」「いつもながらネタ集めに感心する」「今まで知らなかったディープな世界だった…」など、さまざまな意見が挙がる。
「事前に綿密に調査をした後に、何を描くべきなのかテーマやゴールをなんとなく見極めてから撮影を始めるのが従来のドキュメンタリーなのですが、この番組は違います。取材交渉のプロセスからすべて見せて、3日間の限られた時間内に偶然撮れたもので番組を組み立てていきます」と相沢氏。
「時々、『誰かに胸の内を聞いてほしい』と思っている方にタイミングよくインタビューができ、会話のキャッチボールがうまくできる瞬間がある。そんな過程もカメラが生々しく映し出している。このスタイルが新鮮に映ったのか、番組宛てに視聴者が書き込んだSNSを拝見すると、ドキュメンタリー離れと言われていた若い方たちからも支持をいただいているように感じます」。
著名人や騒がれる社会問題ではなく、身近な人々にカメラを向けていることが何よりの魅力。「視聴者には、身近な世界で生きる人たちの意外な人間ドラマや、ぽろりとこぼれる本音が響いたりするのではないでしょうか。制作している我々もそうなので(笑)。何気ないやりとりを通じて、こちらの予断や先入観が覆されることもあったりする。
また、なんといっても取材場所がユニーク。秋田のそば・うどんの自販機前や、歓楽街のにぎりめし屋など、身近なのに知らなかったディーブスポットに目を付けている。「取材場所は、一番気にするところです。時間帯や曜日によっても老若男女問わず来るというような場所、いろんな方が来る場所を選んでいます」。 取材時間が72時間というルールについては「私が当時、先輩方から聞いた話では、24時間では起承転結をつける素材が集まらない。48時間だと、同じタイトルの映画と被ってしまう。もう24時間足して72時間がいいのでは?という理由で決まったと言われていています(笑)」。
とはいえ、映し出される映像には、豊かな世界が広がっている。「取材をしていて、目の前を通り過ぎていく人に、当たり前ですけどいろいろなドラマがあるものだなということを気付かされました。偶然が重なり素晴らしいものが撮れる回もあるし、正直、物足りないとご指摘を受けるときもあります。そこも含めて『72時間』らしさなのかもしれません」。
また、「制作していて心掛けているのは臨場感。取材者が打ち解けていく様子を、視聴者と一緒に体験できるような感覚と言いますか。キレイに美しく映画のように撮る必要はないと思っています。ナレーションも必要最低限。編集は時系列で繋いで、なるべく素材のまま出すよう意識しています。3日間を通じて制作サイドの我々がどう解釈したのかを伝えられたら、という思いを込めて制作しています」。
相沢氏が現場に出ていた9年前と現在では、世相の変化を感じることがあるそう。「9年前は多少世の中がキラキラしていた。要因は色々あると思いますが、震災前だったいうこともあるのかもしれません。震災以降は、身の回りの環境が厳しいとおっしゃる方が多くなったと。世知辛い世の中になってしまったけど、辛い境遇を笑顔で語ってくれたり、苦しいけどがんばろうと言って去って行ったりする。人間の強さを感じられることも多いですね」。
映し出される人々が頑張る姿や思いがけないひと言にカタルシスを覚えたり、人生を顧みたりする。鑑賞後は、また頑張ろうという気になれるカンフル剤のような番組。過去の番組が気になるなら、NHKオンデマンドやオンデマンド内の特選ライブラリでチェックしてみて。へこんだときに観れば、下手な慰めよりもずっと身に染みる言葉に出会えるかもしれない。(取材・文:小竹亜紀)