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高良健吾演じる主人公の一人・練の職場の先輩・佐引穣次を好演している高橋一生。練をいじめる理不尽なキャラクターでありながらも、心根が優しい一面も見え隠れする。人間臭く物悲しいキャラクターを、奇をてらうわけでもなく、感情を込めすぎるわけでもなく、程よい熱量で表現している。
放送直後の書き込みを見て見ると、「演技に引き込まれる」「ゾッとするぐらい演技が上手い」という演技力に関するものから、「黒髪の佐引さんがかっこよすぎる」「声が好き」といったものまでさまざま。視聴者の反響が大きいのがうかがえる。
今回、改めて“演技派”という印象をお茶の間に浸透させた高橋一生は、1980年生まれ。10歳の頃に子役として映画デビュー。活動を休止していた時もあったが、中学3年生の頃、スタジオジブリ作品『耳をすませば』(95)のヒロインの恋人・天沢聖司役の声優に抜擢。この作品がターニングポイントとなり、俳優の道を目指すことになったという。
テレビドラマや映画ではバイプレイヤーという印象だが、舞台では主役を任されることも多い。2012年、『4four』で第67回文化庁芸術祭賞「新人賞」を受賞するなど、実力はお墨付き。『いつ恋』の脚本を担当した坂元裕二が脚本・演出を手掛けた朗読劇『不帰の初恋、海老名SA』『カラシニコフ不倫海峡』にも出演している。当時の舞台スタッフ曰く「おしゃべりではないのですが、ツンツンしているわけでもない。自然体で人当たりがよい方。本番前は淡白な印象ですが、本読みするや否や男性の色気を醸し出す。坂元さんも一目置いていた気がしました」。 舞台俳優としての実力を「山本耕史など、実力派子役が努めてきた『レ・ミゼラブル』のガブローシュも演じ、歌も演技もできる人」と教えてくれたのは、「アクチュール・ステージ」の川村夕祈子編集長。「昨今の舞台では主に主演で、不条理劇や難解な題材、重厚な物語にも気圧されない存在感や説得力がある俳優さん。印象的なのは、伝説的な劇団・第三舞台の最後の公演『深呼吸する惑星』に、当時のメンバーや出演者以外で、唯一の若手俳優としてキャスティングされたこと。
さらに「海外の戯曲などもよく読んでいて勉強熱心、演出家とも共通言語をもって会話や議論もしているようで、しかし理屈に頼らず、その時々の感覚を大事にしている、と以前取材で聞きました。狂気を孕んだ役でも奇異には映らず、宮藤官九郎のドラマなどでは軽妙かつチャーミングな役が多いのも更に魅力的です」。
手練れた演技スキルやテクニックに頼らず、感覚を大切にする柔軟性と探求心。天才肌でありながら努力家でもある。ゆえにどんな役柄でも新鮮に映るのであろう。年を重ねるごとにさまざまな魅力を纏い、今後、円熟した演技を見せてくれる役者であることは間違いない。(取材・文:小竹亜紀)