この日、井浦新はNHKドラマ10『コントレール~罪と恋~』最終話である第8話の撮影現場にいた。物語は佳境に入り、作品の核ともいえる場面ゆえに、漂う緊張感も並大抵のものではない。
息を詰めてスタッフがじっと井浦の演技を凝視する中、演出家から「カット」「オッケー」の声がかかると、とたんに柔和な表情になり周囲に気を配り言葉を交わす。こんな風景が幾度となく見られた。表現者としてのキャリアを積み上げてきた井浦が語った、役への向き合い方やスタンスとは何か。ゆっくりと丁寧に言葉を紡ぐ、その想いに迫った。

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 NHKドラマ10『コントレール~罪と恋~』は、無差別殺人事件で夫を失い、一人息子を育てながら乾いた日々を送る青木文(石田ゆり子)が、失声症のトラックドライバー・長部瞭司(井浦新)と出会い、その恋の行方を軸に描いた物語。ただし、瞭司はかつて過失で人を殺めており、その当人が文の夫だったという運命のいたずらが二人の仲をさらに思いもよらない方向へと運んでいく。

 シリアスで重いシーンが多いながら、現場では「いい意味で力が抜けた状態でいられて、とても心地よい」と井浦は話す。「組の結束力は芝居だけではないところでも生まれていくんです。それぞれの現場、組、作品の関係性で役へのアプローチは変わっていきますが、今回は特に役をずっと引きずって現場を過ごすというやり方はしたくなかったので、それができて、とても楽しいです」と、オン・オフのスイッチの節度が保たれた環境に表情をゆるめた。 本作の脚本は『セカンドバージン』で一大ブームを巻き起こした大石静が務める。大石とはフジテレビ系ドラマ『蜜の味~A Taste Of Honey~』以来、二度目のタッグとなった。井浦は自身に与えられた役について、「大石さんは、最初“新くんにはスナイパーの役をやらせてみたかった”っておっしゃっていたのですが(笑)、このような役になりました。
想像の男性像で書いているというより、実際に僕の写真を机の前に貼って書いてくださっていたそうなんです。きっと“新にこんな芝居をさせてみたい”という大石さん目線での役に刷り込ませてくれているので、確かに難しいけど、どこかスッとなじんでくる感覚はありました」と、充実感をにじませる。

 そんな大石が、井浦のために書き下ろした長部瞭司という役をどのように咀嚼しているか、改めて問うたところ、「これまで、自分は瞭司に共感できないと言ってきたんですけど」と前置きし、しばし考えこんだ後、堰を切ったようにしゃべりだした。「大石さんもおっしゃっていたのですが、優しい男であればあるほど、根っこは熱くて強い心を持っている人かもしれない、と。自分の罪に対して罰を受けて立ち向かうのが強い男というわけではないのかもしれないな、と役を演じてから感じ始めました。最初にはなかった感情でした」と、役に入ったからこそ出てきた感情の幅や、理解の深度について口にした。

 「役への理解は、あからさまに芝居で出さなくても、感じた時点できっと何かしらで出ているんですよね。(役について)“感じている”という心で芝居をすることで、気持ちが伝わると思っています」。役への責任と愛情を深く持ち続けている井浦だからこそ、多くの視聴者は引き付けられ、その魅力の虜になるのかもしれない。(取材・文・写真:赤山恭子)

 NHKドラマ10『コントレール~罪と恋~』は、NHK総合にて毎週金曜日22時放送。
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