「普通に生きている僕こそ夢で、舞台をやっているときの方が自分の真実というか…生を実感できるんです」。芝居への熱い思いをそう語るのは、俳優・鈴木勝吾だ。
盟友・池田純矢が手掛ける舞台「エン*ゲキ」シリーズの第3弾『ザ・池田屋!』の上演を控える鈴木に、本作への思いや、生きる意味を見失ってから芝居に救われた過去、役者としての信条などを語ってもらった。

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 鈴木演じる幕末の時代に実在した天才志士・吉田稔麿(としまろ)を中心に、独自の解釈を加えながら「池田屋事件」を軽妙に描く本作。稔麿の魅力を「“平凡であることが自分である”と、そのままを受けとめているのが本当に素敵」と分析する鈴木は「エンタメとして皆が笑顔になれるものを伝えたいなと思います。格好よく殺陣をして、楽しく踊って、賑やかに笑わせて、スパッと終わりたい」と思いを語る。また「舞台にもっと色々な人が来てくれるような作品になればいいなと思います。『演劇ってハードル高いよね』と思われたくない」としたうえで「紀伊國屋はマイクもないですし、生の声がそこで聞けるのは、DVDや映画ではもらえないこと。そういうものを大切に、エンタメを届けられたら」と抱負を明かす。

 劇中では、稔麿、攘夷派、新選組それぞれの信条が、笑いを交えながらぶつかり合っていく。役者としての信条を聞くと、「常に本物でありたい」と答える鈴木は「僕らがやっていることは、どこまで行っても嘘。だからこそ、どこまでも本当を求める気持ちを持っていないと、それはただの嘘になってしまう」と力説。「役の一挙手一投足をどこまでも追及する覚悟をずっと持っていたいですね」と口にする。この言葉からは芝居に対する強いプロ意識が感じ取れるが、この背景には、「自分のやっていることと結果のギャップを感じた時に、これ以上やる意味が分からなくなってしまった」という過去の経験が関係している。


 「全然ご飯も食べれなかったし、否定的な意味での死にたい願望じゃないですが、生きる願望もなくなっていました」と当時を回顧する。そんな中、「今まで以上に搾り出してやってみよう」という思いで臨んだミュージカル「『薄桜鬼』土方歳三 篇」では「カーテンコールで見える景色の色が違った」という。「お芝居に救ってもらった。道義もしくはそれ以上に、舞台や演劇、お芝居というものが僕の中に存在しているからこそ、立ち直れたんです」。 その後、映画『野良犬はダンスを踊る』での窪田将治監督との出会いや、主演作「『薄桜鬼』風間千景 篇」を経て、徐々に舞台の仕事が増えていったとのこと。「何事も一度躓いてからが勝負だなと思いますね」と微笑む鈴木は、芝居をしている自分こそが、本当の自分だとも語る。「以前に舞台の台詞で『うつし世はゆめ よるの夢こそまこと』という江戸川乱歩の言葉があったんですが、普通に生きている僕こそ夢で、舞台をやっているときの方が自分の真実というか…生を実感できるんです」。

 まさしく自身を救った舞台の魅力を聞くと「僕みたいに、死力を尽くしている人を舞台上で見るのは、やっぱりすごく気持ち良い」と話す鈴木。これは極論ですけれど…と前置きしつつ「死ぬシーンで、そのまま死ねたらいいですよね」とも明かす彼には、実際に舞台上で死にかけた経験があったそう。「息も絶え絶えになるシーンをやっていたら、紙吹雪が喉に入ってしまい、呼吸ができなくなって、本当に死ぬかと思ったんです。舞台上で死んでもいいと思っていましたが、『やっぱり怖い』と一瞬感じた。だから、まだまだなんです」。
舞台上で死ぬことすらも厭わないという鈴木。その横顔には、役者としての力強い情熱と、揺るぎない覚悟が漲っていた。(取材・文・写真:岸豊)

 舞台「エン*ゲキ」シリーズ第3弾『ザ・池田屋!』は4月20日から30日まで東京・紀伊國屋ホールにて上演。5月11日から13日まで大阪・ABCホールにて上演。
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