【写真】美しい...松雪泰子の撮り下ろしフォト集
◇“天才”でもエキセントリックになりすぎないように
「失敗学」とは、失敗の責任を追及することが主眼ではなく、直接の原因と、背景的・社会的な原因の両方を究明し、知識化することで、再発防止に役立てる学問。真奈子は、「失敗学」を武器に、マイペースでわが道を行く“ザ・研究者”という側面を持ちつつ「いま失敗したことを、100年後の人類に対してどう生かしていくか」という崇高な目標も持つ多面的な女性だ。
「私の周りにも“天才”をイメージさせる方々は何人かいますが、皆さん独特の雰囲気を持っている中でも、どこか上品で物腰が柔らかい。ドラマだからと言って、あまりエキセントリックになりすぎるよりは、そこに存在している人物造形にしたかったんです。“天才”の出し方のさじ加減は、細かく話し合いながら演じています」と役へのアプローチを述べる。
松雪の言葉通り、劇中の真奈子は周囲を驚かせるような言動を見せつつも、失敗という事象を通じて、人々にとってよりよい社会になるように…という強い信念が垣間見える。その意味で、非常にヒューマンなキャラクターとも言える。松雪も「真奈子が発するセリフは、事件の対象者へというよりは、社会全体に発している感覚があり、とても重い」とエンターテインメントでありながらも、重厚なテーマに身が引き締まる思いだという。
◇若い頃は“完璧主義”「ミスをしたくないという思いが強かった」
また本作で「失敗学」を意識したことで、改めて考えさせられたという松雪。「若い頃は、完璧主義で、絶対ミスをしたくないという思いが強かったんです」と語り出すと「でも、それだけだと生きていけないところもありますよね。特に多くの人が関わってくると、自分が関与していないところで起きた問題によって、失敗が表面化することもあります。
物事には失敗がつきものであるが、なぜ完璧を求めてしまうのか――。松雪は「20代の時は、何か武装をしなければ自分自身が不安定だったりするので、完璧を求めて、しっかり準備したり、ロジックに頼ったりしていた」と自己分析するが、そうすることによって、自身で作り上げたものにがんじがらめになってしまい、結局は自由度が失われてしまうというのだ。◇変わったきっかけは海外の演出家との仕事
松雪が大きく変わるきっかけとなったのが、海外の演出家との仕事だった。「アプローチの方法がまったく違うし、演出家によってやり方も多種多様だということが経験できました。固定概念に縛られないことで、感覚で捉えて体現することもできます」。
演じる役柄に対してしっかりとしたプランを持ちつつも、臨機応変に対応する能力――。ときには“失敗すること”で多くのことが得られる。特に舞台はトライ&エラーによってブラッシュアップされていく。「たとえ100個失敗しても、その失敗の中にはエラーではない領域もあります。
松雪は、デビュー以来30年近いキャリアを誇るが「今とてもお芝居を楽しめています」と清々しい表情で語る。芝居に対して好奇心旺盛に向き合うことにより、身についたさまざまな表現方法が、新しい役柄に命を吹き込んでいく。特に今回演じている真奈子というキャラクターは、松雪の知的好奇心をくすぐるような存在なのだろう。「このタイミングで出会えたことに感謝しています」と語った満足そうな松雪の表情から、この作品の質の高さがうかがえる。(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)
ドラマ『ミス・ジコチョー~天才・天ノ教授の調査ファイル~』はNHK総合にて毎週金曜22時放送。