【写真】香川照之、市川猿之助、片岡愛之助…キャラクターと怪演で魅了する「池井戸ヴィラン」たち
直木賞作家・池井戸潤の名をお茶の間レベルで浸透させたのは、2013年に放送された『半沢直樹』(TBS系)だ。堺雅人演じる主人公・半沢の最大の敵として立ちふさがったのが、香川照之扮する大和田暁。大和田は東京中央銀行の常務取締役として頭取の座を虎視眈々と狙う人物として登場。若かりし頃の大和田が半沢の父・慎之助(笑福亭鶴瓶)を自死に追いやったという過去の因縁に加え、自身の不正に半沢が気付いたことから2人は対立。半沢の厳しい追及をふてぶてしい態度と絶妙な顔芸でかわし続ける大和田だったが、最終回では20分以上にわたるクライマックスの土下座シーンで陥落。1作目のラスボスだった大和田の“敗北宣言”に多くの視聴者が快哉(かいさい)を叫んだのは言うまでもない。
そんな香川演じる大和田と双璧をなすヴィランと言えるのが、片岡愛之助が演じた金融庁検査局の黒崎駿一だ。片岡が扮した黒崎はフェミニンな口調で半沢をはじめ東京中央銀行の面々を追い詰めつつ、激怒すると部下の股間を豪快にわしづかみにするという、ひときわクセの強いキャラクター。黒崎役で振り切った怪演を見せた片岡は、本作で大ブレイクを果たしテレビドラマにも欠かせない人気俳優の地位を確立した。
シリーズ最新作では、香川も片岡も同じ役柄で続投。大和田、黒崎と半沢がどんな絡みを見せてくれるのか見逃せないが、今回新たに登場する敵役にも注目したい。
『半沢直樹』とならぶ人気シリーズとして2015年と2018年に実写ドラマ化されたのが、町工場・佃製作所の2代目・佃航平(阿部寛)の闘いを描いた『下町ロケット』(TBS系)。2015年放送のシリーズ第1作で航平のライバルにして物語後半のキーマンとして登場したのが、小泉孝太郎演じるサヤマ製作所社長・椎名直之だ。椎名はNASAの技術者出身という異例の経歴を武器に、徹底した実力主義を振りかざす経営者という役柄。好青年のイメージが定着していた小泉が、主人公への執拗(しつよう)な妨害工作を仕掛けるヴィランを熱演することで、クライマックスの盛り上がりにも寄与し、さらに俳優としての新境地も切り開いた。
2018年放送の続編には、フリーアナウンサーの古舘伊知郎が敵役として参戦。古舘が扮したのは小型エンジンメーカー「ダイダロス」の代表取締役・重田登志行。古舘は代名詞とも言えるプロレス実況で培ったエモーショナルな語り口を活かして、帝国重工に対して強烈なルサンチマンをたぎらせる男を好演した。
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また現在放送中のNHK連続テレビ小説『エール』で“ミュージックティーチャー”こと歌の先生・御手洗役で話題を集めている古川雄大も2018年放送の続編に登場していた。
また足袋作り百年の老舗が存続をかけてランニングシューズ開発に挑む姿を描いた2017年放送の役所広司主演『陸王』(TBS系)では、ミュージシャン、タレント、俳優として活躍していたピエール瀧が外資系スポーツ用品メーカーの営業部長・小原賢治役で登場。厳しい顔面と抑制された演技で利益至上主義の男を演じ、新たな一面をのぞかせた。
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さらにラグビーワールドカップ2019の開催直前に放送され話題を集めた大泉洋主演『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)では、中村芝翫が物語後半に登場。父親から会社を受け継いだ3代目のボンボン社長・風間有也をユーモラスに演じ、池井戸ドラマと歌舞伎役者の相性の良さを体現した。
このように、どの登場人物も、演者の怪演により、主人公への感情移入とストーリーへの没入感を増幅させてくれた、憎たらしいのに憎み切れないキャラクターばかり。『半沢直樹』も、香川、愛之助、猿之助のほか、古田新太、池田成志、柄本明、江口のりこなどクセの強めなキャストが顔をならべている。俳優陣の演技合戦で、また新たな記憶に残るヴィランの誕生が期待できそうだ。(文:スズキヒロシ)