2015年4月から深夜帯を中心に不定期特番として人気を博してきた『有吉の壁』(日本テレビ系)。深夜だからこそできるお祭りに見えた同番組が、今年4月から水曜夜7時のゴールデンのレギュラー番組になり半年が経つ。

深夜番組がゴールデンでレギュラー化されることにより、番組の持つ雰囲気が変わってしまうことが多い。それだけに番組ファンにとっては期待半分、不安半分といったところだったろう。しかし、レギュラー化してもスタンスは変わらず、ますます珍妙な企画を連発している。なぜゴールデンでも「変わらないこと」が可能なのか。同番組の横澤俊之プロデューサー(以下、横澤P)に話を聞いた。

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 「正直、僕たちは『有吉の壁』について『ゴールデンでレギュラー化させてください』と1回も言ったことがないんです。僕は、有吉さんと総合演出の橋本和明と一緒に『有吉ゼミ』をやらせていただいているんですが、『有吉の壁』についてはもともと各所から『レギュラー向きじゃない』とも言われていましたし、有吉さんも含めて、恒例特番としてお笑いがやれればと思っていたんです。

 でも、昨年10月に平日夜9時から特番をやったとき、親子ですごく熱狂してくれて…。その反響も受けたのか、『こういう番組こそ若い子がテレビを観なくなっている今の時代に必要だろう』ということで、編成から『水曜7時でどうだ?』という話をいただいたんです」。

■ゴールデンでも絶対に守りたかったこと

 とはいえ、この打診に最初は「バカなの?と思った」と笑う横澤P。そもそも『有吉の壁』は、芸人たちが必死で汗水たらし、こん身のバカ騒ぎでぶつかる「お祭り」のような番組だ。にもかかわらず、レギュラー化したら肝心のお祭り感が消えるんじゃないかという不安もあった。


 「その上で、『レギュラーでやるとしても、番組を変えるつもりは一切ない。もともとファンの方に愛してもらっている番組なんだから、ダメなら中身を変えずに打ち切りにしてくれ』と言い、その思いを有吉さんに伝えたら、有吉さんも賛同してくださいました。『クイズやったり、おいしいモノを食べに行ったりするくらいなら、この番組をやめよう。怒られたら、また深夜に戻ろう』と僕らと同じように思っていただいたんです」と明かす横澤P。

 絶対に守ろうとしたのは「芸人が主役」であることと、「お笑い」ということ。加えて、若者のテレビ離れを止めるため、若い世代が学校で話題にするような番組を作らなければいけないという使命感を背負って、レギュラー化に踏み切った。

 毎週1時間のバラエティ番組を作るのは、予算が潤沢になく、手間もなかなかかけられない今の時代には大変なことだ。「前半だけ面白い」「最初と最後は面白い」という番組もある中で、頭からお尻まで全部面白い番組は、実は『有吉の壁』だけではないかと個人的に思っている。そう告げると横澤Pはこんな内情を語ってくれた。

 「実際、この番組はなかなか過酷で、有吉さんも含めて朝7時くらいに入り、終わるのは夜みたいなスケジュールの日もあります。大変ですが、そこは芸人さんの心意気と有吉さんのおかげで成立しています。とはいえ、普通、お笑い番組には緩急があって、ずっと爆笑ネタなわけではないんです。
例えば、とにかく明るい安村さんやワタリ119さん、パンサー尾形さんなど、バツをもらってしまうことが多い人たちは本来、『バツ=つまらない』の判定なので、普通は放送しづらいネタになるはずなのですが、そこで有吉さんが『なんかあるだろ、もう1言』などと、スベったネタを料理してくれることで、撮ったものをフル活用できるんです。それでも編集の壁に引っかかってしまうネタももちろんありますけど(苦笑)」。

■“コロナ禍でのスタート”という逆境を乗り越えて

 4月からのレギュラー化は、緊急事態宣言発令でロケができないなど波乱の幕開けとなったが、「コロナ禍で在宅率が上がっているタイミングでレギュラーがスタートして、普段水曜夜7時にテレビの前にいない方にも番組を知っていただくことができましたし、新しいファンが増えたことを実感します」と前向きにとらえている横澤P。

 「実は芸人さんたちも最初はレギュラー化を喜ぶ一方で、『月1回とかで休み入れてもらってもいいですよね?』と弱気でした(笑)。それが次第に『毎週合宿だと思って一緒に頑張りましょう』と変化していきました。番組への反響が大きくなったからこそ、芸人さんたちのモチベーションも変わり、一致団結できるようになったんだと思います」。

 コロナ禍はリモートでのテレビ出演が増えた芸人だが、そのおかげで「これまでは新宿ルミネに行って、ライブ終わりに打ち合わせなどしていたのが、リモートによって芸人さんやマネージャーさんと逆にコミュニケーションをとりやすくなりました」とも話す。

 テーマパークやスーパー銭湯などの施設を利用するのも大きな特徴で、現在は営業状態を鑑みて、オープン前に収録を行っている。会場のセレクトについては、番組から打診するのが基本だが、最近は施設側からいただける話も出てきているという。コロナ禍で来場者数が減少する施設を利用するのは、ウィンウィンの関係ではないだろうか。

 「広報さんなどに一人くらい番組のファンの方がいてくださって、喜んでいただけることもあります。ただ、それが施設のPRになっているかというと、甚だ怪しいんですが(笑)。
それでも、スーパー銭湯『スパジアムジャポン』さんなどは、(放送直後)サイトがダウン寸前になるくらいアクセスが殺到したようです。僕たちも協力していただく以上、『この施設、粋だな』『こんなこと、よく許したな。いい会社だな』と視聴者の方が思ってくれることを願っています」。@@separator■『有吉の壁』ならではのコラボとゲストの扱い方

 「場所」から生まれる笑いもこの番組ならではだ。例えば、「水に落ちる」ネタの多いパンサー尾形やワタリ119などに考慮してか水場のある施設でのロケが多いが、芸人がどのようにネタを考えるのだろうか。

 「水場はだいたい尾形さんが選ぶだろうとか、ほかの芸人さんが遠慮することもありますね(笑)。芸人さん同士、現場で事前に相談していたり、『ここだけ手伝ってもらえませんか』なんてこともよくあって、それでスベらされて『お前とはもう一緒にやんない!』とか(笑)。尾形さんとワタリ119さんなんて、あんなにケンカしているのに、結局いつも一緒にやっているんですよね(笑)」。

 グループも所属事務所も超えたコラボには「友情」に似たものも見える。例えば、かが屋の加賀翔が体調不良で療養したり、ハナコ岡部がドラマで抜けたりするときには、そこを埋めるようにほかの芸人たちとコラボする姿が見られ、ちょっと胸が熱くなってしまう。

 「ネタに関しても、誰と組むかも、こちらでは絶対に言わないんですよ。だから、賀屋くんも一人でも考えるし、一緒にやったほうが面白いと思ったらコラボする。
岡部くんがドラマで出られない期間も、秋山くんも菊田くん2人でぜひ出たいと言ってくれました。一人ひとりが責任感と連帯感を持っているんですよね」。

 また、有名人ゲストの扱いもこの番組ならではだ。ゲストは番宣に来て、「ただワイプでVTRを見るだけ」みたいなことを一切しない。あくまで笑いの一部なのだ。

 「レギュラー初回でKing & Prince平野紫耀さんに出演いただいたときも、ご本人登場だから事前に出演告知ができないし、出るのも1分半くらい。正直旨味はなさそうなんですが、そこは『出たい』と言って下さる方の心意気で、一緒に楽しんでいただいています。YouTubeで先出しさせていただいているオープニングで安村さんのところに原田龍二さんが出たいと連絡が来たり、Mr.パーカーJr.が好きだということで杏子さんが出演していただいたのも、『出たい』と言っていただけたから。

 映画やドラマのPRがあるから『この人だよね』というのとは違うブッキングの仕方というのをご理解いただけていると思いますし、あくまで主役は芸人さんで、その軸は絶対にブレないようにしたいと思っています」。

■芸人たちを救う有吉の“切れ味”と佐藤栞里の“癒やし”的存在

 また、番組の「楽しさ」を語る上で、アシスタントMCを務める佐藤栞里の存在はやはり欠かせない。

 「栞里さんが一番すごいのは、とにかく楽しみに現場に来て、『楽しかった!』と終わっていくところです。(出演準備する芸人と)楽屋とかですれ違ってしまう可能性もあるので、栞里さんには素直に喜びを感じてもらえるよう、極力事前に見せないようにしています。
有吉さんがバツを出しても、栞里さんだけは笑ってくれてるんです。栞里さんがいることが、芸人さんたちにとっては救いであり、女神。朝から晩まで過酷な収録にずっと笑顔で付き合ってくれるのはありがたいです」。

 なかには、伝わりにくい難しいネタもある。例えば、「なりきりの壁を越えろ!」の米米CLUBネタで、ご本人登場として芸人・ライスが出たり、の「Monster」で、池谷直樹が「モンスターボックス」(『筋肉番付』の跳び箱)を披露したり。有吉が拾ってくれることで成立しているネタも多いのではないだろうか。

 「『モンスターボックス』の回答速度は、僕らもビックリしました。僕らは一切誰が出るか伝えていないんですが、有吉さんの切れ味があるからこそ、芸人さんたちも喜ぶんですよね。aikoさんの歌でご本人に(元プロ野球選手)愛甲猛さんが出てくるのも、子どもには全く意味わからない。あれも大久保(佳代子)さんのたっての願いでした(笑)」。

 『有吉の壁』で若手・中堅芸人を育成する有吉の姿に、かつて彼が出演していた『内村プロデュース』(テレビ朝日系)を重ねて観る人も多いだろう。自身も苦労を経験しているだけに、芸人たちへの熱い思いがそうさせるのか。


 一番象徴的だったのは4月8日に『有吉の壁』がスタートしたとき、有吉がツイッターで番組告知とともに、自身が『内村プロデュース』(『内P』)でやっていたキャラクターの「ネコ男爵」写真を添えていたことだろうか。ちょうど20年前の2000年4月8日は『内P』がスタートした日だった。有吉が『中堅も若手もぜひ呼んでほしい』と言うのは、そうした思いもあるのかもしれない。

 自身のツイッターでは収録数日前から「楽しみ」とつぶやくこともある有吉。芸人を育てる狙いとともに、自身の癒やしにもなっているのだろうか。

 「そう思っていただけたら、すごくありがたいです。朝6時から夜10時というスケジュールの日もザラにある中、MCが毎週1日フルでやって下さるのはなかなかないことですから、本当にありがたいです」。

 最後に、番組ファンの方に向けて、横澤Pからこんなメッセージをいただいた。

 「『有吉の壁』は、キラキラしたスターも出てこないし、ビックリするほど低予算な小道具で笑いをとろうとする番組です。でも、面白いことをやろうという心意気だけはみんなが持っていますので、下ネタも多めですが、温かい目でご支持いただければと思います」。(取材・文:田幸和歌子)

 『有吉の壁』は日本テレビ系で毎週水曜19時放送。30日は『有吉の壁 ギャラクシーの壁を越えろ!2時間SP』を放送する。

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