菅田将暉×神木隆之介×仲野太賀×有村架純の全員達者な“1993年生まれ”と、実力派役者が揃う「ユマニテ」の注目株・古川琴音が出演、脚本を『俺の話は長い』などの金子茂樹が手掛けるドラマ『コントが始まる』(日本テレビ系)。4月期一の注目作とも思われていたが、放送が始まってみると、「もっと明るい、笑える話だと思った」などの感想も散見される。
【写真】有村架純の泥酔演技に「かわいすぎる」と反響 『コントが始まる』第1話
コントグループ「マクベス」のネタ作り担当でリーダーの高岩春斗(菅田)と、春斗を文化祭のコントに誘った相棒・美濃輪潤平(仲野)、高校3年の夏に「ぷよぷよ」で日本一となり、プロゲーマーを経て途中加入する朝吹瞬太(神木)の3人。一流企業を辞め、ファミレスでアルバイトをしつつ、「マクベス」を人生の支えとする中浜里穂子(有村)。「姉の世話をする」という名目で共同生活をしつつ、目標も未来への希望もなくスナックで働く妹・つむぎ(古川)。
物語は「マクベス」が「10年経って売れなかったら解散する」という約束のリミットを目前に解散宣言したところから、結成当初~現在までの約10年間の時間を行き来する。毎回冒頭とラストのコントに挟まれるかたちで本編が展開される構成は、実に粋で、見応えがある。冒頭でのコントがフリとなり、本編とさまざまな部分でリンクしつつ伏線が回収されていき、締めのコントが冒頭と違った意味に見えてくる。
しかも、真剣にもがく彼らの姿には胸が熱くなるのに、引きで観ると滑稽な「コント」に見えるのだ。
最初に描かれるのは、「マクベス」と中浜里穂子(有村)の接点だ。
第一話は、「水のトラブル」。神木演じる店員が触ると、水が全部メロンソーダになってしまうというシュールなコントの動画を里穂子が熱心に観ている。しかし、「面白いと思っていないよ。
そもそも里穂子が「マクベス」にハマったきっかけは、ファミレスに毎週同じ時間に3人で来て、ネタ作りをしている姿、雨の中で稽古する姿などを見るようになったことから。そのうち、3人が隣のマンションで共同生活をしていることを知り、グループの名前などを知りたくなり、大手事務所のHPから順に探しまくって、1週間後にようやく見つけ、思わず笑う。そして、「ようやく探し当てた達成感からなのか、浪費した時間のむなしさからなのか」(モノローグ)、会社を辞めて1年ぶりに泣くのだ。
ファミレスで毎週顔を合わせる本人たちに直接尋ねるなんて発想は全くない。なぜなら、会社を辞め、空虚感を抱えて生きていた里穂子にとって、彼らは人生の支えとなっているのだから。
ところが、里穂子からの一方的な目線に気づかず、先に彼女を認識していたのは、「マクベス」のリーダー・高岩春斗(菅田)のほうだった。実は2人は、マクベスが解散宣言する1年半前に出会っていた。しかも、公園のベンチで泥酔して寝ていた里穂子を心配し、ミネラルウォーターを手渡したが、翌日置かれたままの容器にはなぜかメロンソーダが入っていたのである。
不思議に思っていた矢先、新しくできたファミレスでバイトを始めた里穂子と再会するが、覚えている様子はなく、「メロンソーダ」は謎のまま。しかし、マクベスがライブで解散宣言した夜、客席に里穂子の姿があったことから、初めて「ファミレス店員と客」としてでなく会話をし、あの夜は里穂子が会社を辞めた日だったこと、「メロンソーダ」は彼女が大手食品メーカーで担当していた駄菓子屋の粉末ジュースだったらしいことを知る。そして、それがマクベスのコント「水のトラブル」につながったことを、里穂子も知るのだ。
一方、「マクベス結成」と、鳴かず飛ばずの5年目にプロゲーマーだった瞬太が加入する「新生・マクベス結成」、「解散宣言」の地点で、それぞれの思いや見ているモノの違いが、第1話、第2話を通して明らかになってくる。マクベス結成のきっかけは、春斗と潤平が二人で文化祭のライブでコントをしたこと。前年の舞台の台本を春斗が書き、爆笑をさらって、文化祭のグランプリをとる。
その手応えもあって、潤平からコントに誘われた春斗は応じるが、実は春斗は「ぷよぷよ」の大会のために断った瞬太の次候補、それも「第三希望」だったという事実を、「マクベス」解散宣言後になって知ってしまう。また、春斗がお笑いの道を志すきっかけは、普段怒られてばかりの真壁先生(鈴木浩介)に「めちゃくちゃ面白かった」と褒められたことだったのに対し、潤平は片想いしていた奈津美(芳根京子)を振り向かせたい一心だった。加えて、奈津美を笑わせたくて始めたコントなのに、辞めようと思っているのも、奈津美に苦労させたくない思いからという皮肉な状況になっている。 さらに、第一話を観た時点では、春斗と潤平の「相棒」感に比べて、若干距離がありそうに見えた瞬太の心情が第二話に明らかになる。
「ぷよぷよ」日本一になった瞬太は、実は10年前、春斗にお笑いの道に誘われ、「相方、お前しか考えらんないわ」と言われた潤平のことが、心底うらやましかった。そこから5年後、二人の前で「若い子に歯が立たなくなった」とこぼし、プロゲーマーを引退すると宣言したことで、春斗はマクベスに瞬太を誘うが、実は大会では大差で優勝していて、にもかかわらず「むなしかった」。だから、お酒の力を借りてでもマクベスに入れてほしいと懇願するつもりだったのだ。
それは「優勝しても孤独なゲームの世界より、連敗続きで光が見えないと嘆く二人のステージのほうが輝いて見えた」(モノローグ)からだ。
また、マクベス結成のときと解散を決めるとき、「大事な発言をするとき、いつもラーメン食い終わった後」という春斗のクセも、奈津美に告白するとき、コントの設定を借りてアドリブで春斗に謝罪するとき、「気合の入った場面でいつでもアキレス腱をのばす」潤平のクセも、笑いと涙で回収される。
さらに、春斗・潤平の二人と、瞬太が仲良くなったきっかけが、瞬太がひそかに屋上から死のうと考えていたときに春斗に声をかけられたことだったことも、コント「屋上」とリンクして明らかになるのだ。
互いの行動パターンやクセは嫌というほど理解し合っているのに、肝心なことは言葉で伝えられない不器用な3人。そして、そんなすれ違いを引き留め、つなぎ合わせるのが、彼らを「推し」として見守り続け、過去のインタビューや別名義で密かに書いていたブログなどもくまなくチェックするファン・里穂子だ。
そんな里穂子は、自身を「たぶん疫病神」という。好きになった雑誌が廃刊、アパレルメーカーは倒産、入った会社も株価が暴落したのに、自分が辞めてから右肩上がり。応援するマクベスも、自分が初めてライブに来たら解散。好きになったり接触したりすると不幸なことが起こるというのが彼女の持論である。しかし、里穂子が一方的に見守ってきたはずのマクベスに、実はネタを提供していたように、「10年間」のさまざまな地点が、反対側から見ると全く別の意味を持ち始める。
そう思うと、「疫病神」の里穂子はマクベスにとって幸運の女神であり、「解散宣言」はきっと「始まりの場所」なのではないか。彼らの始まったばかりの物語の先が、気になって仕方ない。(文:田幸和歌子)
<田幸和歌子>
1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。