女優の吉岡里帆が、いのうえ歌舞伎『狐晴明九尾狩(きつねせいめいきゅうびがり)』で狐の霊役に抜てきされ、『劇団☆新感線』の舞台に初参戦を果たす。CMで愛らしい狐にふんして人々のハートをわしづかみにしてきた吉岡だけに「狐歴が長いんです」とほほ笑みながら、「狐がこういったご縁を作ってくれたのかなと思うと、頑張ってきてよかったなと思います」と感激しきり。
【写真】吉岡里帆のキュートな笑顔に癒やされる!
◆狐との縁に喜び「今回は、戦える狐です!」
『劇団☆新感線』の41周年興行となる本舞台。平安時代を舞台に、宮廷陰陽師として都に仕える安倍晴明(中村倫也)と、陰陽師に化けた九尾の狐(向井理)が手練手管の頭脳戦を繰り広げる伝奇ファンタジーだ。中島かずき脚本、いのうえひでのりが演出を手がける。
吉岡が演じるのは、九尾の狐と因縁のある狐霊のタオフーリン役。「狐が今回の縁を作ってくれたのかな。狐に恩があるので、稲荷神社にお参りにいこうかなと思います」と目尻を下げた吉岡。「今回の狐はもうちょっと凶暴で、戦える狐」とCMで演じてきた狐とはまた一味異なるようだが、「どのようなシッポをつけるか、私自身も楽しみです。どれだけモフモフとしているのか、シッポがとても大事」と、狐歴が長いだけに特別なこだわりもある様子だ。
製作発表会見の場で、いのうえが「フルスペックの『劇団☆新感線』で、全力でやる」と意気込んでいたように、アクションや歌、ダンス、笑いがふんだんに盛り込まれる。吉岡は、「舞台で殺陣をやるのは、初挑戦」とのこと。
◆女優の原点 精力的に舞台に挑むワケ
映画、ドラマにと出演作を重ねている吉岡だが、大学在学中より小劇場のステージに立つなど、舞台は彼女にとって原点とも言える場所だ。近年は『FORTUNE』『ベイジルタウンの女神』『白昼夢』、そして今回の『狐晴明九尾狩』とテイストの異なるさまざまな舞台にトライしており、その現状について「意識的に、舞台のお仕事をやるようにしています」と語る。
「映画やドラマに出演させていただきながら、なかなか舞台に立つことができない時期が続いていたんですが、“年に1本か2本はコンスタントに舞台をやりたい”とずっと感じていました。映画、ドラマ、舞台と、同じだけの熱量で、それぞれに触れていたいなと思っていたんです。なので、今の状態はとても理想的」と充実の表情を見せ、「舞台の良さは、稽古があるというところ。舞台は準備をして、鍛錬してきたものを、お客様に楽しんでもらう場所。“観たい”と選んで来てくださったお客さんが集まる場所でもあるので、こちらも大きなエネルギーをいただきます」と観客の熱気も力になるという。
いち観客としてもあらゆる舞台に触れてきた吉岡。「一度は『劇団☆新感線』に出てみたいという気持ちはありました」と憧れもありながら、同時に「とても華やかな場所で、私には縁遠いのかなと思っていた」そう。「『劇団☆新感線』の舞台は本当に豪華で、まず目を楽しませてくれますよね。
『劇団☆新感線』の稽古は「みんなから、“ものすごく大変だ”と聞くんですよ」と言いながらも、どこか楽しそうな吉岡。「お客様に笑ってほしいし、楽しんでほしいし、日常の疲れが一瞬でも吹き飛ぶような舞台ができたら、本当にうれしいです。舞台に立って、お客様にエンタメを届けられることが、めちゃくちゃ幸せ」と役者魂をみなぎらせる。
ポジティブなオーラをあふれさせた吉岡だが、「20代前半は、“ちゃんと結果を出せているのかな”とか、いろいろと悩んで、縮こまっていたようなところがある。ずっと“変わりたい、もっと柔軟になりたい”と思っていました」と告白。現在28歳となり、30代が見えてきた今、うれしい変化があったという。
吉岡は「“結果を出せているのかな”と振り返るよりも、“この先、もっと良くしていくためにはどうしたらいいんだろう”という方に意識を向けられるようになった」と切り出し、悩みを吹っ切るきっかけのひとつとなったのは、父親からのある言葉だと続ける。「父はよく、“夏休みって、あと数えられるほどしかないよね”という話をするんです。確かに“もう数えるほどしか、年間行事ってないんだな”と思うと、“この短い時間をどうやって使ったらいいんだろう。
さらに「悩んでいるよりは、“まぁ、いいか!”と思えることが増えた」と笑いながら、「そうすると気持ちも楽になって、不思議と仕事の波もよくなっていくように思います。20代前半に抱えていた悩みがちっぽけに感じるようにもなりましたし、そうやって心が強くなっている感覚が、ものすごく好きです」と実感を込める。
30代に向かう心境を尋ねてみても「今、年齢を重ねていくことがとても楽しみなんです」となんとも明るい表情を見せた彼女。「周りには“こういう女性になりたい”と思うような魅力的な先輩方がたくさんいますが、そういったお姉様方からは、“20代は学びの時期で、できるだけ大変な思いをした方がいい”というお話や、“30代になると楽だし、年々楽しくなるよ”と聞くことが多くて。“年齢を重ねることはすてきだな、楽しみだな”と思うようになりました」と目を輝かせ、「私の目標は、そのときにしかできない、年相応の役をきちんとやっていくこと。30代はもっと包容力のある表現ができるようになったらうれしいなと思っています」と語っていた。(取材・文:成田おり枝 写真:松林満美)
2021年劇団☆新感線41周年興行 秋公演 いのうえ歌舞伎『狐晴明九尾狩』は、9月17日~10月17日東京・TBS赤坂ACTシアターにて、10月27日~11月11日大阪・オリックス劇場にて上演。