『コントが始まる』(日本テレビ系)では有村架純の妹役を好演、出演映画『偶然と想像』が、第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞するなど、躍進の1年を過ごした女優の古川琴音。2022年はミュージカル『INTO THE WOODS ‐イントゥ・ザ・ウッズ‐』出演という新たなチャレンジで幕を開ける。

充実した稽古を送る古川に話を聞くと、女優業に対する熱い思いがあふれ出した。

【写真】古川琴音、キュートな笑顔!

オーディションを受けるにあたり防音の部屋に引っ越し

 本作は、『赤ずきん』『シンデレラ』『ジャックと豆の木』『塔の上のラプンツェル』など、誰もが知る童話の登場人物たちが同時に存在する世界で、それぞれの有名なおとぎ話をなぞりながら、物語が交錯するミュージカル。クラシック音楽やオペラにも造詣が深い熊林弘高が演出を務める。原作は、先日惜しまれながら逝去したスティーヴン・ソンドハイムが作曲・作詞を手掛け、ジェームズ・ラパインが脚本を担当した1987年初演の同名ブロードウェイミュージカル。出演には、望海風斗羽野晶紀福士誠治ら個性と実力を兼ね備えたキャストが名を連ね、古川はオーディションを経て、シンデレラ役を勝ち取った。

――今回、ミュージカル初挑戦となりますが、お話を聞いた時の心境をお聞かせください。

古川:もともと『雨に唄えば』とか、映画でも好きな作品があったので、ミュージカルには漠然とした憧れがありました。中高大と演劇をやってきて、映像よりも舞台になじみがあると思っているので違和感はなく、挑戦の一環として自然の流れでした。

オーディションのお話を頂いて映像を拝見すると、すごくユーモラスだったんですよね。曲もマーチ調で楽しいんですけど、ストーリーをじっと凝らして見ると、教訓めいたものが多くて。なじみのあるシンデレラや童話のキャラクターが現実を語るっていうのがすごく皮肉で面白いなって思ったんです。個性の強いものになると思って、ぜひその世界観に入りたいなと思いました。


会話だけでのコミュニケーションを超えたものが音楽を通して伝わってくるのと、言葉だけじゃなく音楽に触れることによって見てる人の想像力が膨らむのがミュージカルの魅力。現実と現実を離れた世界のちょうど間というか、ファンタジーに寄りすぎもせず、ファンタジーの世界を実感を持って旅できるというか、そういう力を持つのがミュージカルだと思っています。

――オーディションを受けられるにあたって、防音設備の整ったお部屋に引っ越しされたとか。

古川:そうなんです。オーディションのお話を頂けるのもありがたい機会だと思ったので、自分がまずできることをすべて悔いなく挑戦したうえで、オーディションに臨みたかったんです。お話を聞いたその日に物件を探し始めました(笑)。

“ザ・プリンセス”ではなく人間らしい現実的なシンデレラに

――お稽古も始まって、演じられるシンデレラはどんな人物だと捉えられていますか?

古川:演じる前に演出の熊林さんから頂いた資料に、『シンデレラ』は“少女がアイデンティティを確立するまでの物語”と書いてあったんです。今まで持っていた“ザ・プリンセス”みたいなイメージとは違って、もっと人間らしい現実的なキャラクターにしていきたいと思いました。

――シンデレラの家族には、継母に毬谷友子さん、義理の姉に湖月わたるさん、朝海ひかるさんと宝塚歌劇団出身のパワフルな皆さんが顔をそろえていますね。

古川:はい、皆さん、強烈でパワーがすごくて(笑)。あの複雑な音楽の中にあんなに自由に個性を出せるなって…。皆さん普段はすてきな方なんですけど、舞台では悪役なので毒がないといけないじゃないですか。
その毒をすごく明るく、パッション強めに演じていらっしゃるんです。現状ではまだシンデレラが弱く見えるかもしれないので、この舞台のシンデレラは強さがあってしたたかな部分も見せたく、もっと対抗できないといけないなって思っています。

――ボイストレーニングにも通われているとのことですが、歌に対する思いはいかがですか?

古川:熊林さんのお話を聞いたり、歌詞をしっかり確認していく中で、表現したいものがたくさん増えていくんですけど、それを歌に乗せるのがなかなか難しい…(苦笑)。とても複雑な音楽で、しゃべっているのか歌っているのか分からない、その境界線を縫うようなメロディーで、しかも自分一人でできる音楽ではなく、いろんな人の掛け合いが混ざって、森の中をさまようような混沌としたメロディーなんです。その上にまた自分が表現したいことを乗せないといけないので、やることが目の前にたくさんありすぎる状態です…。でも、稽古期間に学べたことがたくさんあるので、本番を終えた時に自分がどう変わっているのかすごく楽しみでもあります。

ターニングポイントになった『偶然と想像』濱口竜介監督との出会い

――古川さんの舞台出演は2019年の『世界は一人』以来2回目。初舞台で思い出に残っていることはありますか?

古川:もっと緊張するかと思っていたんですけど、すごく楽しんでやっていたことを覚えていてます。公演を重ねるにつれて、自由にリラックスしながらお芝居できるようになっていったなって感覚でした。

共演者の皆さんに刺激を頂いたり、いろんなことを教えてもらいましたね。私、しゃべり方が独特だって言われるんですけど、(初舞台の)最初のころはもっと顕著に出ていたというか…。共演の永山瑛太さんが、「もっと気持ちをナチュラルに乗せながら言えるようになるといいね」「最近できるようになったね」と舞台袖で細かいところを見てくださったり。
松たか子さんの歌声も、なんであんなにすごいんだろうって、言葉を失って! きれいなだけじゃなくて、聴いてる人の体に響くものがあるなって間近で見させていただいて感じていました。

――2021年は充実した1年だったかと思いますが、現在置かれている状況は想像されていましたか?

古川: 20歳になった時はこの仕事をしているとも思ってなかったですし、予想外の展開じゃないですけど、こうやってこの仕事をしながら楽しく生活できていることはありがたいなって思っています。まだデビューして短い期間ですが、もっとお仕事を頑張っていきたいと思います。

――デビューから4年。ターニングポイントのような出会いはありましたか?

古川:『偶然と想像』に出演したことです。この作品に出会って演じ方が変わりました。本番に入るまでに1ヵ月間リハーサルがあったんですけど、そこで素読みってニュアンスを抜いて自分もセリフを言って、相手もセリフを言ってそれを聞くっていうのを繰り返しやったんです。そこで濱口竜介監督が、「相手のおなかの中に鈴が垂れ下がっていて、それを自分の声で揺らすようにセリフを言ってください」とおっしゃって。その鈴の揺れをもうちょっと大きく、もうちょっと小さくとか言われるんですけど、そうすると自分がセリフを言っている時に、自然と相手に集中できるんです。普段話している時って、自分の言葉に集中するんじゃなくて相手に集中するじゃないですか。それと近い状況に素読みを繰り返していくうちになっていって。そうすると相手がどんな反応をしたかキャッチしやすくなりました。
相手に対して反応することができるようになったのはこの役に出会ってからですね。

――充実した毎日のようですが、オンとオフの切り替えはできていますか?

古川:オフが1日だけだと次の日の仕事のことが頭から離れないし、次の仕事の準備もたくさんあるので、なかなか切り替えられていないです(苦笑)。(そんな中、楽しみにしていることは)散歩です! 毎晩お風呂に入る前に散歩するんですけど、歩いてるだけで考えがまとまるというか、不安定だった気持ちもニュートラルになるので好きですね。

――演じることが楽しくて仕方がないという気持ちが伝わってきますが、これからどんな女優・古川琴音が見られそうでしょうか?

古川:これまでいろんな役に出会ってきたんですけど、もっと掘り下げていきたいというか…。ある種客観的に、物語の構造や自分の役割を理解して、もっといろんなことを計算しながら効果的に表現できるようになりたいです。今はまだ物語に入り込んで、役と自分の共通点になるところや、感情のフックになるところを見つけたり、自分や自分の経験に寄せて演じることが多くて…。もっと別人になりきるというか、深いところを動かせる役者になりたいです。

これからも作品を通して、見てくださる方々に自分の芝居がどういう影響を与えられるかちゃんと考えられる大人になりたいです。あとは、頭で考えることが多くなってきたんですけど、もっと自由になって、素直で余裕のある大人になりたいと思っています!(取材・文:編集部 写真:高野広美)

 ミュージカル『INTO THE WOODS ‐イントゥ・ザ・ウッズ‐』は、東京・日生劇場にて1月11~31日、大阪・梅田芸術劇場メインホールにて2月6~13日上演。

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