渡辺えりとキムラ緑子による“有頂天シリーズ”の第4弾「《喜劇名作劇場》恋ぶみ屋一葉『有頂天作家』」が2月1日から東京・新橋演舞場で上演される。本作は、名優、杉村春子さんのために書き下ろされた「恋ぶみ屋一葉」のタイトルを改め、渡辺とキムラならではの掛け合いで、女性の友情や三角関係を笑いと涙たっぷりに描く喜劇。

2020年3、4月に上演予定だったが、新型コロナの影響を受けて延期に。そして2年越しにいよいよ新橋演舞場公演の初日を迎える。取材時から息のあった掛け合いを見せる2人に公演への意気込みや作品への思い、さらには“有頂天”なエピソードを聞いた。

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女性同士の友情は永遠でかけがえのないもの

――2020年の公演中止を経て、念願の上演となりますね。まずは、本作への思いを聞かせてください。

渡辺:この戯曲に出合ったのは30年前でした。
号泣して、感動しながら公演を見て…(脚本・演出の)齋藤(雅文)さんを紹介していただいたのですが、こんなに若い人が書いたんだなと感嘆していました。当時は、(齋藤は)少女漫画から抜け出してきたような美青年だったんですよ。この方がお書きになったのかと強く印象に残っています。

この作品は男社会の中で、女性がなかなか仕事を持てなかった時代を舞台としていますが、文学界での女性の生きざまを描いていることに感銘を受けました。私が演じる小菊は、元芸者で(渡辺徹が演じる、流行作家の)涼月先生に恋をしながら結ばれず、川越の農家に嫁ぐという人物です。ずっと親友に会いたいと思っていたけれども、会うことができないでいた。
信頼している親友と20年ぶりに会えたらどんなに幸せかということを想像しながら演じようと思います。私は、女性の友情は恋愛よりも濃くて強くて揺るぎないと思っています。何も言わなくても分かる。そんなものを表現したいです。

キムラ:やっと再び上演できることになり、(観客に)絶対に楽しんでもらいたいという気持ちが強く湧き上がっていくのを感じました。“有頂天シリーズ”でご一緒させていただいているえりさんが、この2年、他の方と共演されているのを観て、ジェラシーみたいな思いも感じていました。
改めて今回、えりさんと一緒にお芝居ができるということもうれしいですし、前回、公演が中止になった分、さらに深みのある芝居ができると思います。

――2020年には、なんとか開幕しようとスケジュールを何度も変更し、ゲネプロ(通し稽古)を4回も行ったそうですね。

渡辺:そうなんです。ですが、今はもう当時覚えたセリフも動きも忘れてしまっているんですよ(笑)。数回、お稽古をすれば思い出してくるとは思いますが、2年も経って、私たちも年を取っているので、できるかなという不安はあります(笑)。

キムラ:2年弱が経ち、私も確実に年を取っているなと感じました。
ただ、それも良い意味で捉えて、芝居を“寝かせる”という作業をしたんだと思っています。体の奥の方にセリフが入っていて、それが湧き上がって芝居をしている感覚があるので、以前とは全く違うものになっていると思います。きっと表面的ではないものになると思います。

――先ほど、渡辺さんから本作は「女同士の友情の物語」という説明がありましたが、渡辺さんとキムラさんは、お互いにどんな存在ですか?

渡辺:コロナ禍のこの2年間、“有頂天シリーズ”の公演を行うことができず、何かにつけて思い出していました。他の方と共演すると「緑子ちゃんだったらどうするんだろう」と考えてしまう。そういう存在だったことを改めて気付かされました。
当たり前のようにコンビを組んでいましたが、けんかしたり、助言し合ったりできる、私にとって大きな存在の女優さんです。最近は、(キムラは)歌う役も多く、どんどん成長しているのを感じます。この2年で、さらに懐が大きくなって、役者さんとして一皮も二皮もむけたように思います。私自身も、命懸けで、体を張ってコロナ禍でも上演を続けてきたので、きっと成長していると思いますし、そこで得たものがあると思うので、今回はそれを出せたらと思います。

キムラ:(渡辺の言葉を聞いていたら)泣けてきちゃった(笑)。私にとってえりさんはすごい方。
たくさん刺激を受けますし、目指す存在で、いつも厳しく明るくたくましい方です。一緒に丁々発止でお芝居をさせていただけることはあまりないので、貴重な経験で、人生の大切な時期にいるんだなと思います。えりさんと一緒にお芝居できる時間を大切にしたいと思っています。

――お互いに尊敬し合うすてきな関係ですね。では、そもそもの「女の友情」についてはどんな思いがありますか?

渡辺:私は、高校1年生の時から時間も悩みも共有してきた親友を亡くしました。その時に初めて、もう会えない、もう話ができない、共有する時間を持てないというのは、自分の一部もなくなることだと気付きました。もちろん、これからも話の合う友達はできるかもしれませんが、やはり何でも話して、同じ時間を過ごしてきた親友はそうそうできるわけではありません。多感な青春時代を一緒に過ごし、思想も音楽の好みも似ていて、演劇の話もできる。そんな彼女がいなくなってしまったことは私にはとてつもなく大きなことでした。これからは、劇中で奈津が手紙を書いたように、私の場合は戯曲を書いたり、歌詞を書いたりして、その中に彼女との思い出を入れていくしかない。そうやって親友を復活させるしかないんです。それは自分が死ぬまで続くのかなと思います。そうやって思い出が育っていくんです。

ただ、そういうことができるのは同性の友達だからこそ。私は、(十八代目 中村)勘三郎さんとも生前、大変親しくさせていただいていましたが、男女だといくら友情だと言っても世間が信用してくれないんですよ。恋人だったんじゃないかと思われてしまうんです。私は女同士でも男女でも変わりはないのですが、周りからそう見てもらえないのは今でも悲しいです。そう考えると、やはり女性同士の友情というのは永遠だと思いますし、たとえ会えない期間があっても会えばまた同じように話せる。深入りして付き合うことができるかけがえのないものだと思います。

キムラ:私は親友を亡くした経験はありませんが、えりさんのお話を聞いていたら、やはり青春時代を共に過ごした、趣味や思想が合う友達を亡くすのは本当にきついなと思いますね。えりさんの心中を思うと、すごいことだなと。自分の中の大切な一部をもぎ取られるような感覚になりやしないかと、私も大切な友達がいますので想像がつきます。

やっぱり女友達は大切なものです。劇中で、涼月先生を取られてしまうんではないかとヤキモチを焼いて、小菊を邪険にするシーンがありますが、それすら、女同士の友情があれば全て許せる関係になることができるんですよね。相手を受け入れる間口の広さがあるのが女同士の友情かもしれません。

渡辺えり&キムラ緑子が振り返る“有頂天”だったあの時

――“有頂天シリーズ”は本作が第4弾となりますが、“有頂天”という言葉にはどんな思いや意味が込められているのでしょうか?

渡辺:このシリーズは「有頂天になっていこう」という思いが込められているのだと思いますが、“有頂天”という状態は、ある意味“気の狂った状態”ですよね?(笑) なので、私は狂ったような状態まで持っていくお芝居と捉えています。狂気的なほど突き抜けた芝居をするんだと私は思っていましたが、違うんでしょうか?

キムラ:それはそうだと思います(笑)。私はただ、そこまでは考えていなくて、「楽しそう」とか「ここに行けば楽しいことがあるんじゃないか」という響きを感じていました。

――では、お二人は今までその“有頂天の状態”になった経験はありましたか?

キムラ:今、振り返ると30代、40代の時はなっていたのかなと思います。その時は分からなかったですが、調子に乗っていたなって(笑)。怖いものがなくて、自分は天才だと思っていましたから(笑)。役者は自分にすごい才能があると思わないとできない仕事だと思っていたので、私もそう思って調子に乗っていました。今思えば、恥ずかしいエピソードがいっぱいあります(笑)。

渡辺:私は、昔、ジュリー(沢田研二)とお芝居のことで打ち合わせをすることになった時に、本当に有頂天になってしまって自滅したということがありました(笑)。大ファンなんですよ。なので、仕事の打ち合わせをしなければならないのに、自分がいかにファンだったかということを3時間、本人にしゃべり続けて、打ち合わせは一つもしなかったんです(苦笑)。気が狂ったような状態になってしまって。終わってから、本当に反省しました。きっと、「この人はなんなんだろう」と思ったと思います。いまだに胃が痛くなる思い出の“有頂天”です。

キムラ:一緒に仕事をする人に「好き」って言っちゃダメなんですよ(笑)。ひた隠しにして近づいていかないと。ストレートに言い過ぎです、えりさんは(笑)。(キムラの夫であり、脚本家・演出家の)マキノノゾミも、(沢田の)ものすごいファンなんですよ。えりさんに負けないと思います。ですが、一緒に仕事をする時には一言もファンだと言わなかったそうです。一緒にカラオケに行った時に、(マキノが)ジュリーの曲ばかり歌うからバレてしまったらしいですが、それまではバレていなかった。言わないのが鉄則だと言っていました(笑)。

渡辺:マキノさんにも自業自得だと言われました(笑)。でも、(沢田とマキノは)ずっと仲良くしていられるんだから、マキノさんはずっと有頂天ですよね。

キムラ:そうね、ずっと有頂天なんだと思います(笑)。(取材・文:嶋田真己 写真:高野広美)

 《喜劇名作劇場》恋ぶみ屋一葉『有頂天作家』は東京・新橋演舞場にて2月1日~15日に上演。