青いシャツにボブカット、狂気すらはらんだ笑顔で訴えるラッセン愛……。つい数年前までは知る人ぞ知る芸人だった永野が今、満を持してブレークの時を迎えている。

今回「1,000枚予約達成したら」という条件付きで「完全に完璧な」(※永野談)DVDが発売されると聞き、急遽インタビューを敢行。アングラからの「裏切り者」「魂売りやがって」という声に、永野はどう答えるのか。そもそもDVDは、発売なるのか……?

――「完全で完璧な」DVD……中身が気になります。

永野 世の中には、変なネタを集めたDVDはいっぱいありますけど、DVD自体が変わっているっていうのは新たな試みだと思います。

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――DVD自体が変わっているとは?

永野 DVD自体がおかしいっていう作りです。どうしようかな、これも言っちゃおうかな……。
いや、実はパクリなんですけどね。石井聰亙(現:石井岳龍)監督の『爆裂都市 BURST CITY』からパクッたんですけど。ここで初めてバラします。

――パクり!?

永野 サイゾーさんならいつかバレると思うんで話しますと、陣内孝則さんとかが出てた『爆裂都市』のキャッチコピー<これは暴動の映画ではない、映画の暴動である>から、パクッたんですよ。<これは変なDVDではない、DVDが変である>。初告白しますけど、オリジナリティがまるでないんです、僕は。
全部パクリなんすよ!

――永野さんはオリジナリティの塊だというのが、世間一般の認識だと思いますが。

永野 僕は今まで、ロフトプラスワンに集う、若い多感なサブカル好きな人たちをだましてきました。本当はなんにもなかったんですよ。だから40過ぎて、本当のことを言っていこうと思って。

――だましているという感覚はあったんですか?

永野 そうですね。確かにこの20年間は、目が死んだ連中が支えてくれてたんですけどね。
だけど、彼らはまったくお金を落とさないことに、あるとき気づいたんですよ。それで歌ネタにシフトチェンジして、最近ではお子さんやご年配の方までが覚えてくれるようになりました。しかし……その方たちは、DVDを買うという欲求がないのです。

――DVDの予約状況は?

永野 今日の時点で、まだ500枚しかない。こういうの、発表と同時にガッと600枚ぐらいまでいくべきじゃないですか。そこから足踏みして、1,000枚達成……だと思うんですけど、僕の場合、ガッといって200枚。
それからあの手この手で500枚売って、もう限界値まで来てるんじゃないですかね。ドーピング打ちすぎた馬みたいな。

――いやいや、ここからですよ!

永野 だから今日は、今年に入ってからずっと背を向けてきたサブカル連中に、もう一度立ち上がってくれないかっていうお願いのインタビューなんです。

――自分から裏切っておいて(笑)。

永野 黒いジャケット着て、ロフトの地下で「こんなことやっていいの?」ってネタをやってた人間が、もう整形手術したみたいに口角上げて、金稼いでるわけですよ。だから、サイゾーさんを通して彼らに「僕が一回君たちから離れたのは、大きくなって戻ってくるためだよ」って伝えたい。
「ふざけんな! あんなセルアウトした人間が」って思ってるやつらに。

――セルアウトですか。

永野 僕、40過ぎてからエミネムに出会って、ヒップホップの思想に入りまして。人生は「ゲット・ザ・マネー」だと知り、生き方を変えたんすよ。僕は74年生まれですが、若い頃、貧乏くさいパンクがはやってたんですよ。資本主義が敵、みたいな。
でも、よかった。40過ぎてヒップホップに出会って、資本主義者になれたから。お金はまだついて来てないですけど、主義は資本主義です。資本主義者なのです。あ、ここ太字でお願いします。

――黒人ラッパーが、キレイなチャンネーをでっかい車に乗せてる発想ですね。

永野 一方パンクロッカーって、痩せてて恐ろしいじゃないですか。ずっとパンクやってる人は50代でもガリガリで、周りもそういうのだらけだから、自分も病理に気づいてない。あんなのね、地方行ったらおばけですよ。人間太らないとだめです、男も女も。年取れば取るほどね。とまぁ、エミネムとの出会いが、僕をDVDリリースへと駆り立てたんですよ。

――集大成としてのDVDなんですね。

永野 いろいろあっての集大成ですね。歌ネタばっかりのDVDではないです。かといって、昔の感じの尖ったものだけでもないです。その両方を足して、ダークな僕とポップな僕って、そんな単純な構図でもない。すごいです、これはもう。何が起こるかわからない。僕自身、わからない……。

――11月28日には、DVD関連のイベントも開催されます。

永野 これはですね、料金はかからないんですけど、その代わりその場でDVD(4,000円)の予約をしてください、と。おのずと、DVDの予約につながるというシステムです。ゲット・ザ・マネーの発想です。「もうDVD予約したわよ!」という熱心なファンには「もう1枚買いなさい」って、そういうイベントなんですよ。パンクの発想とかないです。みんな楽しんでってくれよ! とか、そんなのもないです。「金を落とせ、4,000円」。落としていけ、この永野に。話がそれましたけど、来ていただいたお客様のために、新ネタを交えた単独ライブ形式でやろうと思っています。単独ライブって年に1回やるかやらないかぐらいですけど、なんと急遽やります。いまアメブロ(http://ameblo.jp/cawaiinecochan/)をやってるんですけど、世に出てから急にサイバーエージェントと手を組んで、“ザ・芸能人”みたいな(笑)。「永野と踊ろう!」っていう動画をアップしているんですけど、イベントに来てくださった方と、それを一緒に踊ろうと思っています。

――ただの怪しいセミナーみたいな感じかと思ったら、めちゃくちゃ内容濃いですね。

永野 やりますよ。新ネタを交えた単独プラス、ふれあいの会もして。僕ね、営業とかで「わ! 永野さん来てくれた」って、そういうの大好きなんですよ。今までなかったことなので。ただ、これは声を大にして言いたいんですけど、東京のライブでは終わったら帰ってください! ライブの後に来られるの、すっごい嫌なんですよ。ライブのお客さんって、狭い感じというか、重い感じで近づいてくるから。イベントは100%全力でやりますから、終わったらすぐ帰れ! 

――(笑)。

永野 あと、これも言っておきたいんですけど、4,000円って、ちょっと高いと思うでしょ。お笑いのDVDっていま、ロープライス化してるから。でも2,000円だったら、2,000円の内容しか作れない。まあ、これも脱毛キャンペーンの車内広告からパクッたんですけど。<安い脱毛からは安い達成感しか得られない>って。でも、本当にそうだなあって。実際このDVD出したら、“今後ライブやる意味あんのか説”が急浮上してるんですよね。なぜなら、これは生でもない映像でもない、新しいDVDなんで。今後、生の意味が弱くなると思う。表現手段としてね。ヘタしたら、11月28日がラストライブになる可能性もある。

――……そこまでご自身を追い詰めて、大丈夫ですか?

永野 中流家庭で育ったんですけど、思想はゲットー育ちなんで。お母さんが作ってくれた温かいご飯を食べて育ってきましたけど。実際アングラでやっていた時より、DVDの内容は尖ってます。卑猥なもの、ヤバいことこそ最先端の笑いだっていう時期はとっくに超えてる。

――ヤバいことこそ最先端の笑いっていう風潮は、確かにありますね。

永野 それはもう時期です。思春期や反抗期と一緒で、いつまでもやってられるもんじゃない。若い頃はかっこいいと思うんですけどね、そういうの。でもね、僕は歌もののDVDを出すつもりはない。そういうことじゃないんです。昔より、めちゃくちゃやばいんですよ。

――“お笑いわかってるやつは永野が好き”みたいな意見は、本人としてはどう感じていたんですか?

永野 正直、最初はうれしいじゃないですか。コアな感じって。お笑いを追求するみたいなの、はやってたし。でも、よく考えたら僕、別にお笑い命じゃなかったんですよ。持ち上げられて調子に乗った気持ちと、「あれ?」っていう気持ちと、両方ありましたね。

――「カルト」の称号って、表に出さないための鎖みたいな意味もありますよね。

永野 バナナマンさんのラジオに呼んでいただいたときに、そういう話になったんですよ。昔は孤高の芸人とかカルト芸人とか言われて、でも本当の僕はテレビに出たかったって話をしたら、バナナマンさんが「すっごいわかる」って。自分たちも、もともとはテレビに出てやりたかったのに、いつのまにかストイックな単独をかけて、お笑いを追求するみたいな方向に行っちゃったんだけど、ある時「別にそうじゃなかったよね」って思い出したと。本当はテレビに出てわーってやりたかったのに、売れないもんだからひねくれちゃって、お笑いを求道する方向に行っちゃって、そこで評価されると抜け出せなくなる。

――永野さんは、その紆余曲折に悲哀感がないのが素敵です。

永野 一番嫌いです、もう。悲哀とか最悪。テクノも通ってたんで、僕は。テクノに悲哀はないから。何度も言いますが、悲哀は最悪。芸人のいい話とか、あれが暗くさせるんですよ。お笑いを、日本を。そんなの独り言でいいのに、Twitterとかでわざわざ「あーもっと漫才うまくなりてえ」ってつぶやく芸人いるじゃないですか。知らねえよ、バカ! って。それにファンも「頑張ってください」とか「すごいストイックですね」とか、あぁ気持ち悪い。なんなのそれ? とか思っちゃって。もっと言うと最近、本当にそういう連中とは違う人種だなって。

――違う人種というのは?

永野 もし本当にうまくなりたいって思ってるとしたら、じゃあもう僕、君たちと友達じゃねえわっ。その人たちが「お笑い」なら、僕そもそもお笑いじゃないんじゃないかっていう境地に。単に腰振ってる、変な男でいいかなって。最近出てないですけど、荒木師匠っていたじゃないですか。僕は荒木師匠になりたいんです

――あぁ、荒木師匠! ジュリ扇お立ち台の!

永野 荒木師匠には、悲哀が一切ありません。ただそこにお立ち台があるから、踊る。「♪チャッチャッチャチャッチャ~フゥ!」って、聞くだけでブチアガる名曲とともに。やっぱり自分はあれをやるべきだと思って。

――昨今の賞レースなどで、裏側を見せる演出も、無粋っちゃ無粋ですよね。

永野 そうなんですよ。いつのまにか、そんな流れになってしまった。最近J-POPも芸能人も、「君のそばにいるよ」ってものばっかりなんですよ。だからこそ、このDVDのテーマは「君のそばにいないよ」。荒木師匠はいなかったですもん。だけど、好きでしたもん。隣にいたら気持ち悪いですよ、荒木師匠が。プリンスもそうですよね。プリンスがそばいたら、嫌じゃないですか。プリンスはやっぱ、豪邸に住んでてほしい。もういいよ、身近とか親近感とか。

 アングラで追求した“尖った芸を”って、それもいいんですけど、その尖った芸は人を不快にさせることも多い。深い意味で、荒木師匠は狂ってるじゃないですか。別に毒々しいことも言ってないけど、あんな死んだ目でひたすら踊るって狂ってるし、見ててブチアガる。お笑いは変な方向に行ったら意外とつまんないなっていうのは、勉強になりましたね。元気にはなんないなって。否定もしないですけど。
 
――お笑いに関してやる方も見る方も、「真面目」すぎるのはわかる気がします。

永野 あと「あの人いい人だから応援しよ」とか、もういいですよ。うっとうしい。いい人だからなんなんだよ!? って。なんなんだよ、空気読めって。ホントよくないですよ。荒木師匠なんて、全然空気読んでないですから! そもそも空気読んでたら、すぐお立ち台から降りるわけですから。でも、偉大な人って、みんなそうって聞きますよ。ブルース・リーも。

――空気を読むな、感じろ! と(笑)。

永野 この2人好きなんすよ。荒木師匠とブルース・リー。ブルース・リーも、全然空気読まなかったらしいですよ。ジャッキー・チェンも好きなんですけど、ジャッキー・チェンは読むんですよ。ブルース・リーは、イケイケのまま死にましたからね。調子こいたまま死にましたよね。

――今は調子こいたら、今すぐ叩かれますし。

永野 すぐ叩かれるんですよ。一時期、総合格闘技がはやったじゃないですか。プロレスより、リアルなほうがいいって。でも、みんな飽きていった。やっぱり、本当とかリアルって、ある一定を超えたらつまらないと思うんですよね。ブルース・リーも、ヌンチャクの実用性考えたら、一発敵に「バシン」でいい。それをいちいち振り回し、しかも上半身脱ぐ。そういう無駄こそ、最高なんです。荒木師匠も、婚期に踊り狂ってたんですよ、あの人は。すごい覚悟ですよ。サイゾー読んでるアングラファンにも、目を覚ましてほしい。変な骨董品眺めて喜んでる場合じゃない。

――と、変な骨董品だった永野さんが(笑)。

永野 とにかく11月28日、来たら目ぇ覚まさせますよ!!
(取材・文=西澤千央)

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●永野緊急単独ライブ特別編~会場で発売未定DVDを予約してくれる人限定ライブ~
「すでに予約してるって人はどうすればいいかって?もう一枚予約するしかないっしょ~!!」
日時:11月28日(土)12:30開場 13:00開演 / 18:00開場 18:30開演
会場:ポニーキャニオン本社1Fイベントスペース