若手演技派男優として、真っ先に名前が挙がるのが池松壮亮です。R指定映画『愛の渦』『海を感じる時』(ともに13年)では門脇麦市川由衣を相手に過激な濡れ場を演じて話題を呼びました。

演技面できっちりリードするので、共演女優たちからは信頼されています。官能系映画で汗を流す一方、時代の流れに迎合できずにいる現代の若者像をナイーブに描いた石井裕也監督の『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(17年)でも主演しています。ベッドで腰を振りながら、自分が生きている意味を模索し続ける俳優、それが池松壮亮です。社会人1年生の宮本浩が恋に仕事に全力で悩む『宮本から君へ』(テレビ東京系)はそんな彼にぴったりの深夜ドラマです。ヒロインとのベッドシーンが用意された第4話を振り返ってみましょう。

(前回までのレビューはこちらから)



 宮本浩(池松壮亮)は都内の小さな文具メーカーに勤める新人営業マンです。
通勤電車で顔を合わせる大手自動車メーカーの受付嬢・甲田美沙子(華村あすか)と仲良くなり、職場近くのカフェで早朝デートするようになりました。初キスは済ませましたが、初SEXはまだ。友達以上恋人未満という微妙な距離感を、宮本は悶々としながらも楽しんでいるようです。

 出社前から宮本と美沙子がイチャイチャしている光景を見かけた宮本の同僚・田島(柄本時生)は、「お前はええのう。おもろない生活から逃げ道ができて」とついつい嫌味のひとつも言いたくなります。営業マンとしてはまだ半人前であるのは宮本も一緒です。
美沙子と過ごす時間を心の支えにしながらも、「美沙子=逃げ道」という田島の指摘が気になってしまいます。美沙子とエッチしたい。でも美沙子への欲望は純粋な愛情ではなく、仕事にやりがいを見出せない現実からの逃避なのかと宮本は思い悩むのでした。

 第1話に続き、昭和感漂う居酒屋「酔の助」での呑み会。職場の仲間たちと呑んでいても、やっぱり宮本の顔は浮かないままです。美沙子との交際がスタートしたのに、美沙子を抱くのは自分が営業マンとして一人前になってからと宮本は決めています。
妙にストイックな宮本に対し、「何べんでもSEXすればいい。人間のすることに完全なんかない。気持ちは後から付いてくるよ」と上司の小田課長(星田英利)は優しく諭します。でも、意地っ張りな宮本はついつい反論してしまうのでした。「人間なら完全になれると信じたいです。やってみなくちゃ、分からないでしょ!?」と酒の席でシャウトするのでした。


 美沙子とのデートの日が訪れました。渋谷のバーで、2人っきりの時間を過ごす宮本と美沙子。この日の美沙子はいつになく積極的でした。「宮本さんは紳士なの? けだもの?」「私は淑女なの? それとも……」。何度も何度も思わせぶりな「今夜はOKだよ」サインを発する美沙子でした。でも、美沙子とのSEXをつまらない仕事の逃げ道にしたくない宮本は、美沙子の甘い誘いになかなか乗ってきません。
ついに業を煮やした美沙子は「今夜は帰らないって、家族には言ってきたから」と男が断れない最後の決め台詞を吐くのでした。

 美沙子は分かりやすい女です。学生時代から付き合ってきた彼に振られて間もない美沙子は「私を捕まえて。私、宮本さんを逃げ道にするから」と堂々と言い放ちます。元彼のことを忘れるくらい強く激しく愛してほしいと、宮本のハートと股間に剛速球を投げ込みます。ここまで女に言わせたら、もう宮本も帰るわけにはいきません。
「行くぞッ!」と取って付けたような男らしさでラブホに向かうのでした。

■未練がましい? 最初で最後となる美沙子のいる職場への訪問



 ラブホではバスローブ姿になった美沙子が、ベッドで待っていた宮本の横に座り、しなだれ掛かります。自身の男性器が勃起していることを確認した宮本は、美沙子のバスローブを剥ぎ取りました。美沙子の巧妙なマインドコントロールによって、宮本はあっさり「一人前になるまで美沙子は抱かない」という自分への誓いを破ってしまいます。宮本との初SEXを済ませ、満足したのか美沙子は大きな鼻息を立てながら、ぐっすりと眠っています。美沙子の寝顔を見つめながら「……けだもの」と呟く宮本でしたが、ようやく美沙子と身も心も繋がったという充足感も感じているのでした。

 美沙子と一線を越える仲になったも束の間、宮本は天国から地獄へと突き落とされます。宮本を地獄送りにしたのは、誰であろう美沙子に他なりません。毎朝、一緒に電車通勤していたのに、いきなり美沙子は姿を見せなくなったのです。考えられる理由はひとつです。日曜日に短大時代のサークルの集まりに参加すると話していた美沙子は、元彼も来るかもしれないけど……と宮本にお伺いを立てていました。美沙子と初SEXしたばかりの宮本は、「行けばいいよ」と男の寛容さを誇示したのですが、これが命取りでした。「私を捕まえて」と美沙子が言っていた言葉の重みを反芻する宮本ですが、今さらもう手遅れです。

 元彼はそんなにいい男なのでしょうか? 宮本とは比べものにならないくらの高給取りなのでしょうか? 宮本よりも抜群にSEXがうまいのでしょうか? 宮本は美沙子に棄てられたという現実を直視することができず、美沙子に電話をかけることすらできません。美沙子と音信不通になって数日後、駅で美沙子を宮本は見かけますが、美沙子は無言のまま目を合わせようとしません。美沙子の乗った電車を宮本はみっともなく追いかけるものの、無情にも扉が閉まった電車は遥か遠くへと去っていきます。

 翌日の朝方、美沙子からメッセージが届きました。元彼から「やり直したい」と言われたそうです。「自分勝手で本当にごめんなさい」と綴られたメッセージだけでは、どうにも宮本の心は落ち着きません。土砂降りの雨の中、美沙子の勤める大手自動車メーカーの本社を訪ねる宮本でした。もちろんアポなしです。エントランスで大きく深呼吸した宮本は、美沙子のいる受付けへと進んでいきます。「僕の名前は宮本浩です!」「用はありません!」「さようなら!」。短い3つのフレーズに、自分の思いの丈を存分に込めて叫ぶ宮本でした。この奇妙で愚直な宮本の行動を、受付嬢である美沙子は「はい」「ありがとうございました」と懸命に泣くのをこらえながら対応するのでした。

 最後にお辞儀しながら、宮本は美沙子に見送られます。このお辞儀は、真っすぐに生きることを何よりも尊んだ青春時代との別れの挨拶でもありました。宮本は元彼のもとに走った美沙子への怒りよりも、美沙子の逃げ道にすらなれなかった自分の器の小ささに対する不甲斐なさでいっぱいです。美沙子を大切に思うあまりSEXを控えていた宮本は、美沙子に押し切られてSEXしますが、その直後に棄てられてしまいました。何という不条理でしょう。この世界は理不尽さに溢れています。でも、そんな理不尽さのひとつひとつを、社会人1年生の宮本はこれからも噛み砕きながら前へ進んでいくしかありません。

 これにて『宮本から君へ』の序章は終了。次回からはカリスマ営業マンの神保(松山ケンイチ)が登場し、宮本にサラリーマン稼業の真髄を叩き込むことになります。原作者である漫画家・新井英樹も宮本の父親役で出演するようです。いよいよ本章が幕を開ける『宮本から君へ』第5話は要チェックです。
(文=長野辰次)