『べしゃり暮らし』半裸で雪の夜道を歩く破滅型芸人の姿に、早逝...の画像はこちら >>
テレビ朝日『べしゃり暮らし』

 8月25日に放送された『べしゃり暮らし』(テレビ朝日系)の第5話。エピソードの1つ1つが現実世界とリンクし、観ていてつらさを感じる瞬間もあった。

第5話あらすじ 雪が降る夜道に半裸で飛び出した中堅芸人

 上妻圭右(間宮祥太朗)の“天然な面白さ”をデジタルきんぎょの金本浩史(駿河太郎)は認めている。一方、金本の相方・藤川則夫(尾上寛之)は「エセ関西弁のせいで面白さが半減している」と指摘。やめろと注意するよう辻本潤(渡辺大知)に促していた。しかし、圭右の過去を知る辻本は、そのダメ出しが相方の人生を否定するように思え、言い出せないでいる。

 漫才日本一を決めるコンテスト・NMC(ニッポン漫才クラシック)の会場で、圭右は藤川の妻・尚美(黒坂真美)と息子の球児に出会った。かつては自分より人気が先行する金本に嫉妬した藤川だったが、妻の悪口で笑いを取る自虐ネタでブレーク。そんな芸風の父を嫌う球児は会場から出ようとするが、「お前の父ちゃんが一番面白いからよく見ておけ」と、圭右は引きとめる。

イベント終了後、デジきんの楽屋に行った球児は父に「お父ちゃんの漫才、ごっつおもろい!」と伝え、藤川は涙を流した。その後、圭右の言葉遣いを聞いた藤川は「その変な関西弁、やめたほうがええ」と忠告する。

 翌日、藤川は1人で酒を飲みながらNMC結果発表を待っていた。そして、デジきんが決勝進出したと連絡を受けた藤川は大喜び。服を脱ぎ始め、雪が降る夜道に飛び出していった。そのまま階段に座り込んだ藤川は眠り込み、藤川の体の上に雪が降り積もった。

「1回しか言わんぞ」尾上が念を押した意味

“あるある”という視点から、第5話を振り返っていきたい。

 関東で育ったお笑い好きが好きな芸人に影響を受け、エセ関西弁を話すのは昔からのあるあるのひとつだ。それを間宮にやめさせるよう、尾上は渡辺に強く言った。しかし、渡辺は言い出せない。間宮のこだわるデリケートな部分だとわかっている。衝突を嫌う渡辺は指摘できないでいるのだ(小芝風花とのコンビも、好きになった小柴と衝突して嫌いになりたくないから解散を選んだ)。後日、まだ渡辺が間宮に注意していないと知った尾上は、本人に直接切り出した。

「1回しか言わんぞ。自分、その変な関西弁、絶対やめたほうがええ」

「1回しか言わんぞ」が、後に起こる展開への重大な伏線になっている。

「じゃないほう芸人」という言葉がある。コンビ間に格差が生じるのは、お笑い界のあるあるのひとつだ。ネタを作り、人気も自分より先行する駿河に嫉妬した尾上。でも、悔しさを覚えながら、誰よりも駿河を認め尊敬している。

それでいて、笑いに真摯で面倒見のいい人間性。複雑で魅力的な役柄を、尾上は好演した。「俺が金本の一番のファンや」の言葉は明らかに本音で、それだけに余計つらさが増してくる。

 その後、次第に尾上が台頭し、2人は不仲になった。しかし、間宮との出会いでデジきんは打ち解け、NMCで決勝に進出した。母をディスる父のネタを嫌った息子も尾上を尊敬し、仕事も家庭もようやくうまく行き始める。

東京進出を視野に入れた尾上は、都内の物件をリサーチした。1人で上京してワンルームに住むか、家族を引き連れて2LDKに住むか。悩む尾上に向けて、駿河から『べしゃり暮らし』屈指の名言が飛び出す。

「2LDKにしとけ。優勝したら文句言わんやろ、嫁も子どもも」

破滅的に命を落とす芸人、残された芸人

 仕事が好調の芸人が、何かのトラブルで世間的に抹殺されたり、テレビに出れなくなったり、事故に巻き込まれて急ブレーキが掛かる。悲しいかな、これもあるあるのひとつだ。

 1人で酒を飲み泥酔していた尾上は、NMCで決勝に進出したと知り大喜び。酔うと脱ぎ癖が出る彼は服を脱ぎ捨て、雪の降る冬の往来を半裸で徘徊した。足元はおぼつかず、車に轢かれそうになる姿は見るからに危なっかしい。この光景に、唐突にかぶさるクリスマスソングのBGMが、逆に不穏さを喚起する。裸で外の階段に腰を下ろした尾上に雪が降り積もった。そのまま、彼は眠ってしまった。

『べしゃり暮らし』ホームページが、ちょっとひどい。第6話ストーリーのページに訪れると、思いっきり重要部分のネタバレをしているのだ。はっきりと「突然、藤川の訃報が入る」と明かしている。

 2人きりのコンビなのに、先に逝ってしまった尾上。上機嫌になって、半裸で「散歩行く!」とバーから飛び出す流れ。酒に酔い、「トラックと相撲を取る」と言い残して交通事故で他界した林家小染(4代目)を思い出させる。

 相方に旅立たれ、その後はピン芸人として活動する駿河。命の落とし方はまったく違うが、境遇としてカンニング竹山を思い出す。これらすべて、悲しみをはらむ芸人特有の生き方として挙げられると思う。

 注目するべきは残された側、駿河の姿だ。相方がいなくなった後、芸人はどうするのか? 次回は、『べしゃり暮らし』における最大のピークともいえるエピソード。駿河の激情と熱演を期待したい。

(文=寺西ジャジューカ)