みなみかわ(松竹芸能公式サイトより)

 8月11日放送『ダウンタウンDX』(日本テレビ系)にて行われたのは、題して「今こそ絡み時な芸人SP コイツら仕上がってます!」。今回、「絡み時の芸人」として登場したのはTAIGA、バイク川崎バイク、5GAP、みなみかわの4組だった。

 正直言うと、この中でみなみかわだけはすでに売れている。ネクストブレイクが期待される芸人に混じり、彼だけはほぼブレイクしかけていると思うのだ。

TKO木本の“恋愛ゴシップ”(事実無根)を流布して激怒される

 みなみかわは松竹芸能所属、芸歴18年目の芸人だ。2005年に吉田寛とのコンビ「ピーマンズスタンダード」でデビューするも、2019年にコンビ解散。韓流あるあるを披露するピン芸「アイヒマンスタンダード」が話題になったこともあったが、ブレイクには至らなかった。

 そんな彼が近年名を上げたきっかけは、“松竹の悪口”、“事務所の先輩の悪口”だ。しかし、そんな彼にもアンタッチャブルはあるらしい。

陣内智則が「(TKOの)木本さんの話したら嫌がるんですよ」と明かすと、「ほんま、木本さんの話だけはやめてください。木本さんはもうお笑いにできないんです」と途端に渋い表情になったのだ。

 以前は、そんなことはなかった。かつて、彼は事実無根の“ありそうなゴシップ”を作る遊びに興じており、その中の代表的なネタは「TKOの木本が森口博子と付き合っている」だったのだ。

 繰り返すが、架空のゴシップである。しかし、東京から大阪の芸人にそのゴシップを発信すると、巡り巡って2日で東京に噂が戻ってきて、ついには本人の耳に到達。

木本にブチ切れられたというから、穏やかじゃない。他にも「よゐこ有野はアソコに真珠を入れている」「○○○○(有名俳優)はウンコが好き」といった架空ゴシップも流布しており、手がつけられない。

みなみかわはなぜシステマを習得したのか?

 現在、「悪口」という特異な方向から人気を獲得していったみなみかわ。だが、最初に知名度を上げたのはコンビ時代だ。相方・吉田から打撃を食らっても、ロシアの格闘技「システマ」による独特な呼吸法で痛みを感じない“システマ芸”でチャンスを掴みかけていた。

 なぜ、このような芸が生まれたのか? その経緯について明かされているのは、雑誌『KAMINOGE』vol.110(玄文社)における、みなみかわインタビューだ。

 ある年、松竹の忘年会に出席したピーマンズスタンダード。そこで吉田がベロベロに酔っ払い、店内でツバを吐き始めてしまった。みなみかわは吉田を外に連れ出したものの、相方がブチ切れてケンカに発展。結果、当時キックボクシングを習っていたみなみかわが吉田をボコボコにしてしまったという。すると、今度は吉田が柔術を習い始め、それを聞いたみなみかわは負けじとクラヴマガを習い出し、そうしたら吉田が総合格闘技を習うようになり、みなみかわがシステマを習い出した……という流れのようだ。

「システマをやり出したらあとはもう、っていう。

何をやられても効かないし、ナイフの捌き方を知ってるので、刺されても大丈夫(笑)」(みなみかわ)

 しゃべりもイケるし、体も張れる。それだけでもかなりのタマだが、みなみかわはハートも強い。若手時代、放送作家の倉本美津留に啖呵を切ったという伝説を持っているのだ。

 本当に、そんなことをしたのだろうか? 再び、『KAMINOGE』vol.110のインタビューを引用する。

「松竹芸能がネタ見せで倉本さんを呼んだんですけど、僕らがトップバッターやったんですね。倉本さんがドーンと座ってはって、僕らはそのとき自分たちが1番好きなネタをやったんですよ。

それをやって終わったら、『あー、お前らどうなりたいんだよ?』って言われて。初対面の人にいきなり『どうなりたいんだよ?』って言われて『俺はこうなりたいんですよ』って言うのが恥ずかしくてごまかしてたら、『あっ、もうダメやわ。辞めたほうがいいわ』っていきなり言われて、『えっ!?』となって。『そんなん、すぐに言われへんかったら辞めたほうがええねん。もう辞めろ、辞めろ!』って」

「そこまではまだよかったんですよ。そうしたら『ピーマンズスタンダードで12、13年やってるって、俺は名前も聞いたことないし、知らんってことは、お前らはおもろないってことやねん』って言われて、そのあたりから『おー。

コイツ、言うなあ』と思って。(中略)僕も頭が沸騰しちゃって、『はあ……別にいいっスけどね』とか言って、未成年のヤンキーみたいな立ち振る舞いをしちゃって終わったっていうだけの話ですよ(笑)」

 世に流布された“みなみかわ伝説”とは、内容に少し差異がある。「ダウンタウンに憧れてる奴はいるけど、お前に憧れてる奴なんか1人もおらへんで」と倉本へ言い放ったという噂があるようだが……。

「いやいや、そんなことほんまに言わないですって。それ、とんでもない奴じゃないですか(笑)。僕は何も言わずにふてくされていただけですよ(中略)ヒコロヒーがけっこう大きく言うんすよ。『私、見てました!』とかって。『あのとき、“あんたなんかおもろいと思ったこと1回もないです”って言ってましたね?』って、僕そんなん言ってないっスよ(笑)」

 架空の噂を流すみなみかわが、話に尾ひれをつけられ伝説としてねつ造されたのだからブーメランだ。しかし、「死なばもろとも」的な彼のパブリックイメージと“VS倉本”の噂はあまり大差がなく、信憑性が高く聞こえてくるという不憫な結果を招いてしまっている。

「松竹を破壊する」と、かねてよりとんでもないことを公言しているみなみかわ。それは、本心なのか? 『KAMINOGE』のインタビューで、彼はこう発言していた。

「やっぱ、松竹ってちょうどいい温度でよかったというか。みんな優しいし、怒る先輩もいないし。クロちゃんにもたまにメシ連れて行ってもらえるし、もう最高ッス(笑)」

 その一方で、みなみかわの妻・雅代さんがDMを駆使してあらゆる人物に夫の出演交渉を行ったのは有名な話だ。結果、東野幸治千原ジュニア、佐久間宣行のYouTubeチャンネルにきっちりみなみかわを送り出してみせた。

 その真意については、番組にVTR出演した雅代さん自身が明かしている。

「(みなみかわは)去年の9月に『ゴッドタン』(テレビ東京系)に出て、去年11月に『さんまのお笑い向上委員会』(フジテレビ系)に出たので、『これは売れる!』って思ったのに、1月に25日休みがあったんですよ。『ちょっと待って! なんで!? 今、頑張んなきゃダメじゃん』みたいな。それこそ、吉本さんだったらもうとっくのとうに売れてたんじゃないかなって思っていて。松竹さん、ちょっと売り方が下手クソだったんじゃないかなと思って(笑)」(雅代さん)

 松竹批判が止まらない雅代夫人。しかし、キチッと夫がハマりそうで、かつ力のある先輩芸人に凸撃する選球眼は馬鹿にできない。事実、今のみなみかわの露出は右肩上がりである。

 問題がないわけじゃない。彼女が売り込みをかけているのは松竹芸能に留まらず、他事務所の芸人ばかりなのだ。今はマッコイ斉藤経由で石橋貴明のYouTubeチャンネル「貴ちゃんねるず」出演まで目論んでいるというから、業界内のルールとしては荒唐無稽だ。

「松竹、(妻に)ブチギレなんですよ。だから、何回も『やめろ』って言ってるんですけど、『何が? いや、成功してるし。えっ、東野さんとの仕事取ったことあります?』って言って。今、嫁と松竹バチバチです」(みなみかわ)

「闇営業」ではなく、今は「嫁営業」の時代ということか? ただ、雅代さんがマネージメントするなら、みなみかわは事務所を辞めてフリーになってもいい気もするが……。

 実はみなみかわ、8月9日に配信された自身のYouTubeチャンネルにて、こんな事実を明かしているのだ。

――みなみかわさん、結構本格的に根回しをして、しっかり事務所に交渉して、(松竹を)辞めるって言ってましたよね?
「辞めるって言ってた。で、辞めるつもりやったしな。妻が会社を立ち上げて独立するつもりやったんですけど、『辞める』って言ったら仕事増えたんよ。(中略)ほんで、ほんまに辞めようかなっていうときにとんでもない大事件(TKO木本の騒動)が起きて。俺、このまま辞めたらグルやと思われるから(笑)」

 みなみかわの言動を掘り下げ、整理していくほどに、どこに本音があるかわからなくなってくる。松竹芸能がいい事務所なのか否かも、煙に巻かれている感覚なのだ。ドキュメントを見ているかのような、長いコントを見ているかのような。

 ほぼブレイクしかけているのに、今も不遇を装い続けている姿にも煙に巻かれている感がある。