FOD配信ページより

 とても前向きな気持にはなれないが……。

 町田啓太主演のフジテレビ系水曜ドラマ『テッパチ!』がいよいよ14日に最終回を迎えるが、最終回直前となる第10話の内容が「胸糞すぎる」と視聴者の不興を買っている。

 フジテレビが6年ぶりに復活させた水曜22時のドラマ枠第2弾として7月6日から放送されている『テッパチ!』は、陸上自衛隊を舞台にしたオリジナルドラマ。第6話までの第一部は自衛官候補生時代、第7話からの第二部は自衛官時代のストーリーとなっており、防衛省の全面協力のもと、「明るくて楽しくて熱い、イケメン熱血青春ドラマ」を描く。

 破天荒ぎみだが単純で熱い主人公「チュウ」こと国生宙を町田が、宙のバディを務める生真面目な馬場良成を佐野勇斗が演じるほか、第一部では佐藤寛太、一ノ瀬颯ら、第二部では工藤阿須加桐山漣、水沢林太郎らイケメン俳優たちを取り揃えている。

放送開始から“サービスショット”が物議

 だが、放送開始当初から演出やストーリーに不評の声が相次いだ。栗原美和子プロデューサーが「シックスパックイケメンが勢ぞろいしての、肉体を駆使して一人前の自衛隊員になっていく姿を描きます」と語り、ドラマの謳い文句に「町田さんの肉体ポテンシャル全開!」などとあったように、初回から自衛官候補生たちのシャワーシーンが挿入され、イケメンたちの筋肉美を舐め回すようなカメラワークと共にこうした“サービスショット”が毎回のようにあったが、“こうすれば女性ファンが喜ぶ”という安直な考えが透けた演出に批判の声が噴出した。

 7月16日放送の『週刊フジテレビ批評』でも、早稲田大学文化構想学部教授の岡室美奈子氏からこうした“サービスショット”について「制作者側の感覚がアップデートされていないんじゃないか」と厳しく指摘された。同ドラマの企画を担当した渡辺恒也編成担当は「現場の若手スタッフからもいくつか『描写として必要なのか』という疑問の声は上がってきています」と弁解し、今後調整していくとしていたが、やはり批判の声が大きいと感じたのか、上裸が出てくるシーンは次第に減り、皆無となっていった。

 ほかにも、あまりにも“チャラい”自衛官候補生の描写、女性蔑視的なセリフなどさまざまな「問題点」が挙げられる作品だが、中でも9月7日に放送された第10話は問題作だったと言えるだろう。

長年の夢が「性悪女に台無しにされる」という理不尽展開

 第10話は、音楽隊を目指している馬場(佐野勇斗)がメインのストーリーだった。本気で馬場が音楽隊に入れると信じ、応援しているという宙(町田啓太)の言葉を受け、桜間冬美1等陸尉(白石麻衣)は東部方面隊・第1師団・第1音楽隊にトランペット1名の欠員が出ていることを見つけ、馬場に勧める。音大卒ではない馬場には難しい挑戦だが、めったにないチャンスということで前向きに練習に励む馬場。同じ「大木班」の仲間も協力し、両親からも応援され、練習に熱が入る。だが、オーディション当日、馬場が姿を消す。

受付はしたものの、オーディションを受けていないのだという。寮にも戻っておらず、連絡がつかない。そこで宙は、広報活動の一環として参加したテレビ番組のお見合い企画で、馬場が葵(矢作穂香)という真面目そうな女性と知り合い、その後も交流が続いていたことを思い出す。

 宙が葵に連絡すると、衝撃的な事実が。葵はオーディションがあることを知っていて、酒の席の賭け事として、馬場が自分からの突然の呼び出しに応じるか試したという。オーディション直前の馬場に「助けて」「もうやだ……死にたい……」「私なんて生きてる価値なんてない」と意味深な電話をかけた葵。

馬場が慌てて駆けつけると、そこで見たのは酔っ払った葵が賭けに勝ったと喜ぶ姿だった。葵の話に宙は「なんでそんなこと……!」と怒るが、葵は「だって酔っ払ってんだもん。ゲームくらいするっしょ」「まさかホントに来ると思わなかったけど」と笑い、まるで悪びれない。宙が馬場の自宅に駆けつけると、そこには自殺をはかり倒れた馬場の姿があった。命は取り留めたが、いろんな人の協力を得て掴んだ大事なチャンスをふいにした馬場は、退職願を出してしまうのだった――。

 このまさかの展開に、視聴者からは「胸糞すぎてテレビの画面割りそう」「音楽隊に憧れて自衛官になった人の末路がこれって胸糞悪すぎない?」「この展開クソすぎて無理すぎる」「イライラ回の中でもイライラ回すぎてほんと無理」「演技はいいのに、話の内容にイライラさせられたまま最終回か……」と、怒りと悲しみの声が続出した。

 馬場が音楽隊志望なのは初回からだ。視聴者は彼の夢をずっと知っていた。彼がずっと努力してきたことも。倍率の高さ、応募枠の少なさなどで一時は夢を諦めかけていたが、このドラマの数少ない良心である八女純一中隊長(北村一輝)のはからいで、馬場同様に音大卒ではないが音楽隊入りを果たした隊員を紹介してもらい、ふたたび情熱を取り戻した矢先のことだった。「彼は根本的に(自衛隊員に)向いてないかもしれない」「早めに他の仕事を選ばせてあげたほうが彼のためっていう考え方もある」という冬美のセリフから、夢が叶わない展開になることは予想できたが、それにしても「性格の悪い女に騙され、オーディションすら受けられない」という、これ以上ない理不尽が降りかかるとは。これがこのドラマが謳う、「未熟な若者たち」がぶつかる「現実の厳しさ」なのだろうか。

せめて、葵が本当に馬場のような生真面目な女性で、数話前から真剣に交際をしており、その葵が何か命の危険に巻き込まれ、近くにいた友人か誰かが馬場にSOSを出し、馬場は迷った末にオーディション会場を出ていってしまった……といった事情なら、こんなにモヤモヤすることはなかったのだが。(1/2 こちら

 自殺未遂をしてしまうという展開も、どうなのだろう。葵に騙されたことを知り、オーディションにも間に合わなかったことに気づいた馬場は、宙の応援によって冬美がオーディションを見つけてきてくれたこと、練習の時間の捻出のために仲間たちも協力してくれたこと、両親が心から応援してくれたことを振り返り、追い詰められてしまった。葵のもとに駆けつけたのも、自分は自衛官に向いていないのではないかという葛藤を抱えていたからこそ、「こんな自分でも誰かを助けられるかも」と思ったからだ。その決断が、多くの人の想いを裏切る結果となってしまい、思わず衝動的な選択をしてしまった心情はわからないでもない。

 だが、それでも疑問符を付けたくなるのは、これまでのエピソードにおける問題――特に第3話があったからだ。

 宙、馬場ら教育隊の第一班の仲間には武藤一哉(一ノ瀬颯)という男がいた。武藤はまったく周囲に溶け込もうとせず、ろくに口もきかず、謎めいた人物だった。だが、実は幼少期に父親からひどいDVを受け、そのトラウマを抱えていたことが第3話で明らかになる。そのため大人の男に声を荒げられると当時の記憶が蘇ってしまい、訓練中、武藤は男性教官の叱責でフラッシュバックを起こしてしまう。事情を知った宙は、このトラウマを乗り越えられるようにと、1時間にわたって第一班のメンバーが武藤を取り囲んで罵声を浴びせ続けるという「訓練」を行い、これによって武藤はトラウマを克服。第3話ラストでは、20歳の誕生日を迎えた武藤が、これまでの一匹狼キャラとは真逆の笑顔ではしゃぐのだった……。

 かつての辛い記憶と同じような体験を受けさせてトラウマを乗り越えさせるという根性論的な手法もさることながら、あっさりと克服してしまい、しかも性格まで一変してしまう展開に開いた口が塞がらなかった。いくらフィクションとはいえ、いくら「エンタメ」とはいえ、実際に苦しんでいる当事者たちがいる問題を、これほど無神経に描くのはどうなのか。当時、視聴者からも多くの疑問の声が上がっていた。そういう作品だからこそ、馬場が自殺未遂を起こすという展開も、本当にその必然性があるのだろうか、安易に悲劇的に描こうとしているだけではないかと気になってしまうのだ。

 理不尽といえば、スケートボードのオリンピック候補生・芝山勝也(水沢林太郎)もそうだ。第7話で、災害派遣要請を受けて出動し、初めての避難誘導に戸惑う宙。現場を離れている間、避難住人を乗せたトラックにいた芝山が、弟からトイレに行きたいとせかされ、指示を無視してトラックの甲板が下がるのを待たずに降りようとして落下。右足を骨折する事態となった。怪我によってスポンサーも離れてプロでなくなった芝山は、謝罪に来る宙を「お前のせいだ!」といつも責め立てるが、確かに現場を離れた宙に問題があったのは間違いないものの、自衛官の指示を無視して勝手に降りようとしたのは芝山だ。まだ19歳の彼は誰かに責任を押し付けたいのだろうが、第10話でも宙が厳しい言葉を投げつけられる状況に、「イライラする」「テッパチ、胸糞展開が多すぎる」といった声も少なくない。

 それでも、出演者の演技には見応えがある。すぐに物事を投げ出すクセのあった宙はかつて、ちょっとしたことで自衛官候補生を辞めようとし、それをバディの馬場が留め、支えてきた。「俺はどんなに辛くても、途中で投げ出したりはしない。自分で決めた道だから」と語りかけて自分を説得したかつての馬場を思い出し、声を上げて涙する町田啓太の宙。自ら馬場をスカウトし、ずっと面倒を見てきたからこそ、「お前の優しさ、そして思いやり。これはお前の武器になる。しかし時として仇となることを忘れるな」という忠告どおりの結末になってしまったことに、やるせない思いを抱える北村一輝の八女。終盤のシーンの、ふたりの対照的な泣きの演技は、グっとくるものがあった。馬場に突然降りかかった理不尽という“ノイズ”がなければ、なおよかったのだが……。

 企画の渡辺氏は「前向きな力をもらえるドラマ」にすると語っていたが、今のところ視聴者にはイライラやモヤモヤが積もっているだろう。これらが一気に晴れる最終回となることを期待したい。

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