(写真/Getty Imagesより)

 世界が注目する日本のビッグプロジェクトが、重大な局面を迎えている――。JR東海は3月29日、リニア中央新幹線の東京~名古屋間について、これまで目標としていた2027年の開業を断念し、早くても2034年以降にずれ込むことを示唆。

前後して、リニア反対派の急先鋒だった静岡県の川勝平太知事が失言で辞職に追い込まれ、これで障害はなくなったように見えるが、実際には全く楽観できる状況ではない。

「川勝知事がリニアに反対する主な主張は、自然環境や大井川の水資源への影響。これにより静岡県内の工事は全く進んでいませんが、川勝氏の退場により一気に工事が進むものと期待されています。しかし、ことはそう簡単ではありません。今回の川勝氏の失言には県民も呆れ果てており、退陣を惜しむ声は全く上がっていませんが、リニアに関しては話が別。依然としてリニアを快く思わない人は数多く存在します。

その根底にあるのはJR東海に対するある種の恨みです。静岡県民はずっと、東海道新幹線の『のぞみ』が県内に停まらないことにイライラしてきたのに、リニアも県内に駅は設置されず、ただ通過するだけ。それならリニアは不要です。川勝氏辞任を受けて、次々と立候補者が現れていますが、当然リニアは争点になる。次もリニア反対派が当選してしまうかもしれません」(ビジネス誌記者)

 JR東海にとっては“目の上のたんこぶ”が消えた形だが、状況は大して変わっていないということ。しかも、川勝氏退陣で新たな問題が一気にクローズアップされる可能性がある。

鉄道業界に詳しいフリーのジャーナリストはいう。

「リニア開業については、これまで静岡県内の問題ばかり取り沙汰されてきましたが、実は他の工区でも遅れが出ています。長野県内でも工期の遅れは指摘されていますし、起点となる品川駅付近でも工事は難航していて、その他、ルート上の1都6県全てで何らかの遅滞が発生している。これまでは静岡問題が隠れ蓑(みの)になりましたが、静岡からGOサインが出ればJR東海はもう言い訳ができなくなります」

 もともと2027年開業は“絵に描いた餅”だった可能性が高いということ。「最速でも2034年」という見通しも示され、JR東海を取り囲む状況は非常に厳しい。

「工期が延びれば当然建設費はかさみ、それは料金に転嫁される。

当初、リニアの料金は『のぞみプラス数百円~千円程度』というプランが提示されましたが、今では『倍近くになるだろう』という意見が大勢を占めています。そうなれば客足は鈍り、減価償却に果てしない時間が掛かる。JR東海の経営に大きな影響が出るのは間違いありません。しかもその影響はJR東海だけの問題に留まりません。JR東海が傾けば名古屋経済に影響が出ますし、あまりに工期が延びるようなら、追加で国費が投入される展開も十分にあり得る。つまり国民の税金で民間企業のプロジェクトを進めるということです。
そうなれば当然、JR東海は強い批判を浴び、矢面に立つことになるでしょう。さらに、リニアは名古屋がゴールではなく、大阪まで作らないと意味がありませんが、大阪まで到達するのはいよいよ何年後か分かりません。その間にはコロナのような未曾有(みぞう)のトラブルもあるでしょうし、大地震のリスクもある。想像できないほど人口減少が進んでいる可能性もある。完成する前から“壮大な負の遺産”になる可能性がプンプンと漂っています」(同)

 ちなみに大阪のリニア開業予定は2037年だが、これも当然、大幅に遅れるはず。東京から名古屋まで40分強、大阪まで約1時間という移動時間は魅力だが、その恩恵に預かれるのが遠い未来なのは間違いないようだ。