バカリズム

 小説家の黒羽ミコ(篠原涼子)と刑事の森野(バカリズム)、その2人がともにイップスを患っていて、小説が書けなかったり捜査ができなかったりするという設定のドラマ『イップス』(フジテレビ系)も、いよいよラス前の第10話。

 今回は野村周平を犯人ゲストに迎えて、いつも通りの倒叙型ミステリーが描かれました。

いつも通りミコさんは事件現場に堂々といるし、いつも通り森野が冴えた捜査で事件を解決します。

 ぜんぜんイップスじゃないんだよなぁ、森野。振り返りましょう。

■天誅か復讐か、それが問題だ

 今回の事件は、ジャーナリスト・誠くん(野村)が県議会議員と建設会社社長を拳銃で殺害。この2人のおじさんは10年前に崩落事故を起こしたトンネルの建設にかかわっていて、談合と手抜き工事のせいで誠くんは両親を亡くしていたのでした。

 第1の事件現場は神奈川県内の高級クラブが入った雑居ビル。被害者はエレベータの中で頭を撃ち抜かれて死んでおり、その場には「令和のねずみ男」からの犯行声明が貼り紙されていましたが、こちらは特に捜査の様子は描かれません。

神奈川県警の管轄なので、警視庁の刑事である森野には関係がないからね。

 第2の事件は都内のホテルの一室。ジャーナリストの誠くんは建設会社社長の行動パターンを調べ上げ、金曜の夜には愛人とこのホテルで過ごすことを突き止めていました。そこで誠くんはホテルのポーターの制服を調達し、社長の部屋で犯行に及びます。その際、誠くんは彼女とスマホの位置情報を共有することで、死亡推定時刻には大阪に向かう夜行バスの中にいたというアリバイを作り上げました。

 この誠くんの彼女が森野の姪っ子だったことから森野が事件にかかわり、いつものように冴えた推理で事件を解決に導いたのでした。

『イップス』のレビューでは、主にミステリーとしての謎解きの出来についての話をしてきましたが、今回はまあ、それはいいや。おもしろくはなかったです。

■バカリズムを激昂させる、という見どころ

 今回の脚本家はオークラさん。主演のバカリズムとは同時期に都内のお笑いライブで切磋琢磨していた盟友です。それだけに、オークラさんはバカリズムにやらせたいシーンというものがあるようで、第1話では「刑事と言えば全力疾走」とでもいわんばかりにバカリズムが短い手足で夜の街を激走するシーンが描かれました。あのころは、楽しいドラマになりそうだなぁなんて予感を抱いたものです。

 今回は、森野が激昂する場面がありました。愛する姪っ子をアリバイ工作の道具にされ、怒りに震える森野。目ん玉をひん剥いて犯人に怒号をたたきつける姿には迫力がありました。

 クールで感情を表に出さない刑事が憤怒するシーンといえば、思い浮かぶのは今ちょうど再放送している『警部補・古畑任三郎』(同)の木村拓哉の回です。観覧車を爆破したキムタクの身勝手な動機を聞いた古畑がキムタクをビンタした場面、「おお……」となったのをよく覚えています。

 オークラさんがバカリズムの憤怒を表現したかったんだろうな、というのはすごくよくわかります。

 でも、誠さんの犯行動機は、そんなに怒るような話でもないんですよね。誠さんはトンネル事故の原因を作った2人に天誅を下したという、森野はそれを「天誅ではなく、ただの復讐だ」と言って怒るわけですが、ただの復讐って動機としては全然ありうる話なんです。むしろ天誅より復讐のほうが、ミステリーとしては「犯行動機の純度」が高い。悲しいけど、「復讐じゃないか!」なんて怒るのは変な話なんです。

 キムタクが観覧車を爆破した理由は「部屋から時計台が見えなくなっちゃった」ですからね。古畑が怒った理由にも納得感がある。

 それと、田村正和は普段から感情をあまり出さない俳優さんでしたけど、バカリズムって別にエキセントリックなネタや芝居やってますからね。今さら激昂したところで別に珍しくないんです。

 例えばバカリズムを全然知らないで、そのうえでこの『イップス』というドラマの森野という刑事を夢中で追いかけている人がいたとしたら、今回の激昂シーンは刺さったと思うんです。あの森野が! って。でも、そんな視聴者はいないでしょう。

 そんなこんなで、あんまりいい感じにならないまま次回は最終回。

期待したんだけどなぁ。

(文=どらまっ子AKIちゃん)