最近、TwitterやFacebookなどで頻繁に見かけるようになった、個人投稿の「行方不明者捜索願」。「拡散希望」のハッシュタグからは、「一刻も早く見つけたい」という、捜索側の切なる思いが伝わってくる。
今回は、行方不明者の捜索を支援する「特定非営利活動法人 日本行方不明者捜索・地域安全支援協会(MPS)」の理事長・田原弘氏に、日本の行方不明者の実態についてインタビューを行い、SNSなどでの捜索願投稿の是非に関しても話を聞いた。 カウントされない潜在行方不明者
――警察庁の発表では、ここ何年かは、毎年8万人の行方不明者が出ているといいますが、この数字をどのようにご覧になりますか?
田原弘氏(以下、田原) 警察庁発表の数字は、警察に届出された「行方不明者届」が元になっています。そのため、届出されていない行方不明者を含めれば、実際は1.5倍ほどの12~13万人くらいになると思われます。最近、もっとも多いのは、認知症による高齢者の行方不明です。また、若者では、パチンコなどのギャンブルにのめり込んでサラ金での借金がかさむなど、経済的に困窮して失踪するケースが多いですね。
――突然家族がいなくなったら、パニックに陥ると思うのですが、警察に届け出ないケースがあるのはなぜですか?
田原 若者の場合は、離れて暮らす家族が気づいていないことも多々あります。数カ月分の学費や家賃の督促がきて、初めて失踪に気づいたという親御さんも少なくありません。特に近年は、携帯電話の普及により、1人暮らしの家に固定電話を引かなくなったため、失踪に気づくのが遅れるパターンもあります。「大学からこんな知らせが来た」と親が子どもに携帯で伝え、「払い忘れていた。すぐに払う」と言われ、それを信じていると、さらに督促が来る。これはおかしいと思って、子どもの住むアパートに行ってみると、もぬけの殻だったというケースです。
高齢者の場合、一昔前は身内に認知症患者がいることを恥ずかしく感じている人が多く、届を出せずにいた。警察を介することで近所に知られてしまうことを懸念して、内々で捜すケースが多く見受けられたんです。ただ、最近は世間の認知症への理解が深まり、SNSなどで認知症の家族の捜索願を目にする機会も珍しくなくなったことから、警察へ届け出る家族が増えています。平成26年から増加傾向にあるのも、そのためだと思います。
――「知り合いが行方不明になった」という話はあまり聞いたことがないので、年間10万人以上が行方不明になっているというのはかなり驚きです。
田原 言ってみれば、駅や河川敷などでよく見かけるホームレスの方々も、ほとんどが行方不明者ですからね。
――行方不明者数が減らないのはなぜですか?
田原 100人いれば100通りの事情がありますが、家族が捜しているのをわかっていてもホームレス生活を続けている人が少なくないからでしょう。ホームレスは3日やるとやめられなくなるんですよ。自立支援団体やボランティアなどによる食事提供や就職支援、さらには生活保護の受給などで、働かなくても日々の生活に困らない環境に身を置ける。
――警察に届け出ていれば、ホームレスであっても警察官が見つけ出したりはしないのでしょうか?
田原 警察に行方不明者届を出すと、詳細な身体的特徴を聞かれます。そのため、家族は「見つけてくれそう」と安心してしまうのですが、実際には、“身元不明の遺体が発見されたときに照合するため”に聞いているんです。成人で事件性のない行方不明者の場合は、届を受理してデータベースに入力するだけで、積極的に捜索するわけではありません。「職務質問をして照合したら、行方不明届が出ていた」などのケースであれば、帰宅を促したり、その場で家族へ連絡して直接話せるようにしたりすることはあるものの、どこまで介入するかは警察官次第。もし発見した行方不明者を無理やり警察署へ連れ帰ったり、帰宅を強要したりすると、自由権の侵害にあたってしまうため、そこまではできないんです。
――警察に届け出さえすれば、捜してくれるものだと思っていました。ただ待っているだけではダメということでしょうか。
田原 はい。なので、警察に届を出すことは大切ですが、家族も積極的に捜索をしなければ、発見率を上げることはできません。
――もし身近な人が行方不明になった場合は、どうしたらいいのでしょうか?
田原 まずは警察に行方不明者届を出し、信頼のおける捜索協力団体などに援助を求めてください。
――最近はSNSで行方不明になった家族の捜索を呼び掛ける投稿をよく目にします。これらの方法をどう思われますか?
田原 多くの人の目に留まるという意味では、有効なこともあるでしょう。ただ、個人の連絡先などを記載すると、いたずら電話をかけられたり、写真から自宅を突き止められたりと、危険な側面も多いです。苦しんでいる家族に嫌がらせなんて……と思うでしょうが、“他人の不幸は蜜の味”なんですね。それに、たとえ連絡先を警察にしたとしても、先ほども言った通り、警察は事件性のない成人の行方不明者を積極的に捜すことはないため、寄せられた全ての情報が家族へ伝わる保証はありません。なので、私どものような捜索協力団体など、代理の連絡先を掲載することをおすすめします。それに、むやみやたらにSNSで情報を集うよりも、本人の行動範囲などを考えた上で、出没しそうな場所をある程度予測し、駅周辺でビラを配るなどした方が発見率は高いと思います。
あと問題なのは、解決した後のことです。インターネットは完全に情報を削除することが難しいため、無事に発見された後も、捜索願の投稿がネット上を漂ってしまう恐れも。先々のこともよく考えた上で、投稿を判断する必要があります。
――捜索を呼びかける投稿を見る側が注意することはありますか?
田原 個人が投稿する捜索願の中には、家族を偽ったストーカーや借金取り、また、DVから避難したパートナーを捜している加害者本人のケースなどもあります。良心から拡散した結果、犯罪に加担してしまったということもあり得るので、慎重になるべきかと思います。実際にMPSに依頼に来た人の中にも、「怪しい」「借金取りではないか」と感じ、お断りしたことがありましたよ。この時は、「警察には行方不明者届を出していない」というので、「そういう場合は、依頼を受け付けないことになっています」「警察に届出をしてからにしてください」とお伝えしたのですが、SNSではその辺の事情はわからないですからね。
(後編につづく)