10月から放送予定だったテレビアニメ『二度目の人生を異世界で』に出演予定だった声優が6月6日、次々と降板を発表した騒動は、さらに波紋を広げている。 

 騒動の発端となったのは、原作となる同名ライトノベルの著者・まいん氏が2013~14年にかけTwitter上で繰り返し行っていた、韓国と中国への差別発言だ。

ここで、まいん氏は中国を「虫国」、韓国を「姦国」などと揶揄。

 こうした過去の差別ツイートが“発見”されたのと前後して、同作の主人公が、前世の“世界大戦”において大勢の人を斬った、という設定が「日中戦争を指しているのでは」と邪推され拡散。中国のネットユーザーの間では、作者本人だけでなく参加声優にも殺害予告をする者が次々と現れた。

 これを受け、出演予定だった声優の増田俊樹、山下七海、中島愛、安野希世乃らが6日、SNS公式サイトで降板を発表。

 さらに同日、製作委員会はアニメの放送・製作中止を発表。原作を出版するホビージャパンは、すでに100万部近くを売り上げている原作シリーズの出荷停止という「なにもそこまで……」というところまで、自体は波及している。


 今回の騒動での製作委員会や出版社の対応とは別に問題になっているのが、「なろう系」出身者の危うさだ。

 「なろう系」とは、「小説家になろう」をはじめとする小説投稿サイトを出自とした作品・作者の総称。小説投稿サイトは、誰でも自分の書いた作品を、自由に発表することができる場である。そこで人気を得た作品が出版社の目にとまり、書籍化されるという流れは、ライトノベル界隈ではよく知られたことだ。

「投稿された時点で、すでに原稿が出来上がっている『なろう系』の作家は、出版社としても便利。年に数度の新人賞の応募作から逸材を探すとか、新人を育てるよりも、手間がかからないのですから」(編集者)

 作家にイチから原稿を書いてもらう手間を省くことができる「なろう系」の投稿作品は、出版社としてもコストを削減できる便利な存在。


 ただし、ネットで手軽に読める作品が人気を得やすい状況ゆえに、その内容は「主人公が多数のヒロインにモテモテのハーレム展開」「最初から主人公だけが異常に強いご都合設定」などが、ほとんど。安易な内容のものばかりが書籍化されていく状況を批判する向きも強いが、一定の売り上げが見込めることから、多数のラノベレーベルが「なろう系」に依存するという状態は、長らく続いている。

 だが、次々とスカウトされデビューする「なろう系」出身作家の中には、困った人物も多い。

 「なろう系」出身作家の中で最もありがちな問題は、展開に行き詰まるというもの。「なろう系」投稿サイトでは、連載形式で投稿している作家も多い。まだ完結していない作品であっても、スカウトして出版するのが当たり前だ。
だが、スカウト後に投稿サイトでの連載がストップ、連絡をしてもまったく音沙汰がない、という作品も多い。

「最初の設定やアイデアには優れているけれども、先の展開を考えずに勢いだけで書いている“出オチ作品”も多いのです。作家本人も、展開に困って書けなくなる場合は多々あります」(大手レーベル編集者)

 中には、そのまま連絡が取れなくなってしまう作家も。準大手レーベルの編集者は、こんな体験をしたそう。

「メールも電話も、まったく返事が来なくなってしまったので自宅に尋ねてみたら実家暮らし。両親が応対してくれたのですが、『まあ、うちの子がそんな仕事を……。
会話もしないから、全然知らなくて』と、驚きながら謝られたこともあります」

 また、たった1冊出版されただけで「勘違い」してしまう作者も多い。

「書店に並んだ翌週から、毎日のように『アニメ化の話はまだですか』と、連絡をしてくるんです。そういう作家に限って、返本率が高かったり……」(中堅レーベルの編集者)

 売れ行きが悪ければ、次はないのは当たり前。それでも「自分は商業出版をした」ことを鼻にかける作家も多い。

「よっぽど話題作でもなければ、数カ月で作品は忘れ去られてしまいます。なのに、何年も前の、たった1冊の本を自慢げに看板にしている作家もいます。
名刺に書いたり、SNSの自己紹介欄に書いたり」(ラノベに詳しいライター)

 もっとも恥ずかしいのは、無名レーベルから1冊出版した程度なのにSNSで作家然として振る舞っているケースだ。

「Twitterなんかで、時事ネタを引用しながら、偏った思想や極論を語ってみせる人は多いですよね。誰も、いいねとかリツイートしてくれるわけでもないのに。そういった人に限って、名前欄に唯一の著書名を載せて、“作家”であることを誇示している。世間に、まったく注目されてないことを自分でアピールしているワケですから、やめたほうがいいです」(ネット事情に詳しいライター)

 「なろう系」出身……というよりは「なろう系」に投稿してしまったがために、ひょんなことからデビューしてしまった作家の醜態は、尽きることがない。それでも出版社による「なろう系」の利用は、やむことがない。


「書店の棚を確保するために、毎月決まった数の本を刊行しなくてはなりません。しかし、作家を育てるのは時間がかかりますし、スケジュール通りに書き上げることができる便利な作家は少ないんです。だから、最初から原稿がある『なろう系』は、便利なんです」(前出・大手レーベル編集者)

 今回の『二度目の人生を異世界で』の騒動を経て、今後「なろう系」出身者に対して、出版社のチェックが厳しくなることは確実だ。デビューするにあたっては「デビュー前のアカウントを消せ」と指示される作家も出てくるかもしれない。 

 ただ、前述の大手レーベル編集者はいう。

「こういった騒動は、『なろう系』出身者であろうとなかろうと、大なり小なり起こり得るもの。その後の対処の話として、単に世間を知らないだけなら、編集者の指示を聞いてくれる場合は多いんです。困るのは、一度はホントにヒットして『大先生』になってしまった作家ですよ……」
 
「なろう系」に限らず、ラノベ作家そのものが、困った人が多い職業なのか。 
(文=隅田歌子)