去る9月13日未明、ジャニーズ事務所が、タッキー&翼の解散を発表した。滝沢秀明は年内で芸能界を引退し、ジャニー喜多川社長の後継者として若手育成やプロデュースなどの裏方に回り、一方の今井翼は事務所を退所するという。
2016年に勃発したSMAP解散騒動以降、ジャニーズ事務所の実権は、ジャニー社長とメリー喜多川副社長から、藤島ジュリー景子副社長に移ったといわれている。しかし今年に入ってから、TOKIO(当時)・山口達也が未成年への強制わいせつ事件で退所、NEWS・小山慶一郎が未成年との飲酒騒動で活動自粛といった不祥事が相次ぎ、また、関ジャニ∞・渋谷すばるが年内いっぱいで退所、Hey!Say!JUMP・岡本圭人が留学と、人材流出も続き、ジュリー氏の経営手腕を問題視するジャニーズファンも少なくなかった。
そんな中、突如、滝沢がジャニー氏の後を継いでプロデュース業に専念すると発表されたとあって、ファンは大騒ぎに。当然のことながら、ユニットの解散や滝沢の引退、今井の退所を惜しむ声がネット上に溢れたが、一方で、「タッキーがジャニーズを建て直してくれることに期待したい」という前向きな意見も出ている。ジャニーズに入所して23年、デビュー前からジャニーズJr.を取りまとめ、近年は後輩Jr.の育成に尽力してきた“小さなジャニーさん”こと滝沢が、今後どんな働きをするのかは、確かにファンならずと気になるところだろう。
そこで今回、企業コンサルタント・大関暁夫氏に、滝沢がジャニーズ事務所を盛り立てるためにどういった点を意識すべきか、アドバイスをいただいた。
――滝沢秀明さんがタレントを引退し、ジャニー社長の後継者になることが発表されました。この決定について、率直な感想をお聞かせください。
大関暁夫氏(以下、大関) ジャニー氏は、大した経営者だとあらためて感心しました。というのも、滝沢くんを自身の後釜にすることで、「事務所を安定させ、長く成長・発展させるための体制」を整えたと感じたからです。一般のメーカー企業には、それぞれ「技術・開発部門」と「管理部門」があり、その両輪がうまく回らないと経営が立ち行かなくなるものなのですが、これをジャニーズ事務所に当てはめると、長年ジャニー氏が「技術・開発部門」のトップを、メリー氏が「管理部門」のトップを担ってきたのではないかと、私は理解しています。ジャニー氏は、次の世代でも同様の役割分担を行うべきと考え、「管理部門」のトップをジュリー氏に、そして「技術・開発部門」のトップを滝沢くんに担わせる体制を作ろうとしたのではないでしょうか。
表向きは、滝沢くんが自ら手を挙げたとされていますが、果たして本当にそうなのか、ジャニー氏の方から提案したのではないかと、個人的には思いましたね。以前から、自分の感覚を理解できる、現場を知っている人に後を継いでもらいたいと考えていたでしょうし、SMAP解散騒動以降、事務所の雲行きが怪しい中、今がそのタイミングだと、ジャニー氏自身が決断したのでは。
――滝沢さんは、社長の座ではなく、あくまで“ジャニー氏の業務”を受け継ぐと発表しています。
大関 滝沢くんは、いわゆる“現場担当の責任者”“社内でのナンバー2”の立ち場になるのかなという印象です。その中で、ジュリー氏と滝沢くんという2人の体制がうまくいくのか、うまくいかない場合、どちらに問題があるのか、それとも双方に問題があるのかなど、ジャニー氏は自分の目が黒いうちに見極めようと思ったのかもしれませんね。
ジャニー氏は、滝沢くんに「プレイングマネージャーの選択肢もある」と伝えたそうですが、一般企業においても、プレイングマネージャーというのは基本的にうまくいかないもの。というのも、マネジメントがうまく行かなくなったときに、「僕は現場で稼げているから」と言い訳ができてしまうんです。逃げ道を作らずに裏方に徹するという道を選んだのは素晴らしかったと思いますね。滝沢くんからの申し出だったそうですが、それはあくまで表向きで、もしかしたらジャニー氏側からの提案だったかもしれないと、私は見ましたが。
――週刊誌では、ジュリー氏と滝沢さんが対立関係になるのでは……などと予想する記事も出ています。
大関 決して、対立するというような悪い話ではないと思いますよ。むしろジャニーズ事務所にとっては、次の時代への第一歩を踏み出したといえます。
――「技術・開発部門」と「管理部門」で役割分担をするのは、一般的にもメリットが大きいようですが、逆にデメリットはないのでしょうか。
大関 確かに、トップに相互理解がないと、派閥化することがあります。一般企業でよくあるのが、営業部と開発部が反駁しあうケース。例えば、技術担当者は自分たちの思う“いいモノ”を作っているのに、お客様の要望を聞く営業担当者からはNGが出てしまう。そうすると技術担当者は「お客の言いなりになっていては、本当にいいモノは作れない!」と反発するでしょうし、一方の営業担当者も「お前ら、お客様に食わせてもらってるのに、勝手なこと言ってんじゃない! 営業が伝えるモノを作れ!」と言わずにはいられなくなり、結果的に、企業全体が軌道に乗らなくなってしまいます。なので、ジュリー氏と滝沢くんは、今後コミュニケーションを取り合い、互いを尊重して、“2人で物事を考える”のが重要になると思います。もしそれができなければ……と考えると、確かにリスクと隣り合わせの状態になるでしょうね。
――各部門のトップ同士がいがみ合っている企業は、多いのでしょうか。
大関 結構ありますよ。
――逆に言うと、今後、ジュリー氏と滝沢さんが同じ目標を持てないと、会社としては厳しいということでしょうか。
大関 そうですね。2人がそれぞれの小さな目標を達成しようとすると、ぶつかり合ってしまうことはあると思います。そうなると組織は崩壊していきますから、2人が共通の大きなビジョン、一般的には中長期的な「めざす姿」と言いますが、これを持って協力すること、そしてその姿をタレントやスタッフに見せることが、ツートップ体制では重要なことなのです。
――ちなみに現状、ジャニー氏は「私の意思を継承してくれるタレントを絶え間なく育成する養成所を設立する」という構想を公表しています。
大関 現段階で、試作の1つとして養成所構想があるならば、滝沢くんだけでなく、ジュリー氏、そしてジャニー社長も交えて、次のステップとして何を目指すのか、どれだけの人を世に出し、どのように活躍させていくのかまで、考えるべきだと思います。数をデビューさせても、現在、メインの活動場になっている地上波のテレビは局数が限られているので、例えば、吉本興業のように、日本全国にジャニーズ劇場をつくり、地域の文化発展に寄与していく、お金儲けの企業ではなく日本文化に根ざすような活動を行う企業というイメージに変えていくなど、そういったビジョンを共有する必要があります。
――ほかに気になるのは、ジャニーズ事務所が同族会社だという点です。そこに同族ではない滝沢さんが関わると、いずれ追放劇のようなことが起こるのではないかと。
大関 確かに、元SMAPのチーフマネジャー・飯島三智氏も、次期トップ候補と言われながら、結局、追放された形になってしまいました。しかし飯島氏は、先ほどの「技術・開発部門」「管理部門」の例で言えば、ジュリー氏と同じ「管理部門」の人間。そうすると、ジュリー氏としては、飯島氏に対して「同じフィールドでどちらが上に立つのか」といった意識が芽生え、最終的に「あなた、いなくてもいいです」ということになったように見えました。しかし、滝沢くんは、「管理部門」ではなく「技術・開発部門」の人間になるわけですし、これまでさまざまな企業を見てきましたが、「管理者が技術者の人事に口を出すこと」は、基本的にできないものなんです。もちろん、共有のビジョンが持てず、業績が悪化した際、ジャニーズ事務所は株主の大部分を同族が占めているため、ジュリー氏が“個人的な感情”で、滝沢くんを合法的に辞めさせることはできますが、滝沢くんが技術者として経営の一翼を担う働きを見せれば、そんなことは起こらないと思います。
――これまでのお話をまとめると、滝沢さんは何よりもまず「ジュリー氏と仲良くすること」が大命題ということでしょうか。
大関 そうです、それが一番大事。
ジュリー氏に対しての接し方ですが、年齢は彼女の方が上ですし、やはり滝沢くんは“立てていく”ことが大切でしょう。自己主張だけで突っ走るのではなく、組織の長となるジュリー氏と同じビジョンを持ちながら、うまく自分の知識・経験を生かしてもらうよう働きかける……という。難しいことですが、滝沢くんはそれが「できる」と見込まれいるのだと思います。逆に言うと、近藤真彦さんや東山紀之さんは、「できない」と判断されたのかもしれません。
――ちなみに、滝沢さんの周囲が気を配るべき点はありますか?
大関 周囲の人たちも、最初から派閥を煽るような形で、「フロント入りした滝沢くんを盛り上げていこう」とすると、ジュリー氏はへそを曲げてしまいますから注意が必要です。「滝沢が私を悪く言っている」などの誤解が生みかねませんし、それは最も避けるべきこと。“会社をひとつまとめる”という大きな目標のために、“現場をまとめるポジション”を滝沢くんが担った……と、周囲も捉えなければいけないと思います。
先ほども言いましたが、恐らく今後、今の主戦場であるテレビの価値というものも、変わっていくでしょう。そんな中で、どうやったらジャニーズが、日本文化の中で重要なポジションになれるのかといったところまで、滝沢くんはジュリー氏と一緒に考えていかなければいけないでしょう。それがタレントやスタッフに伝わり、またタレントの言動からファンに広がっていくことで、「ジャニーズを応援したい」という人が増えていくのが理想ですよね。
取材協力:大関暁夫(おおぜき・あけお)
All About「組織マネジメント」ガイド。東北大学卒。横浜銀行入行後、支店長として数多くの企業の組織活動のアドバイザリーを務めるとともに、本部勤務時代には経営企画部門、マーケティング部門を歴任し自社の組織運営にも腕をふるった。独立後は、企業コンサルタントの傍ら上場企業役員として企業運営に携わる。