北朝鮮政府が発行する「トンピョ」は「兌換券」と訳され、紙幣の代用として使われている。従来の紙幣は2009年11月の貨幣改革(デノミネーション)のときに発行されたもので、16年も経ってテカテカになってしまった。

新しい紙幣を印刷、発行しようにも時は折しもコロナ禍。朝鮮中央銀行は、貿易停止に伴う財政難で、中国からインクや紙が輸入できなくなったことに対応するため、国産の原材料を使って発行を始めた。

ただでさえ信用の低い北朝鮮ウォンの劣化コピーである「トンピョ」は、消費者からの信頼を得られず、額面の8割程度で取引されるようになり、市場から徐々に姿を消したと伝えられていた。

だが、しぶとく生き残り、偽造されたものが発見されたと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋によると、今月初めに新浦(シンポ)市で額面5万北朝鮮ウォン(約388円)の偽造トンピョが発見された。

市内在住の女性が夕食のおかずの買い物に出かけて、支払いをしようと5万北朝鮮ウォンのトンピョを取り出したところ、手触りがおかしくよく見てみたところ偽造であることに気づいたという。

女性は市場で商売をしており、そのときに客から受け取ったものだが、だれから受け取ったかを思い出せず、結局は無用な詮索を恐れて通報しなかったということだ。下手に通報すると長時間の取り調べに苦しめられ、最悪の場合、濡れ衣を着せられかねないからだ。

偽造されたものは、過去にも何度か発見されたことがあるとのことだ。

北朝鮮ウォン紙幣の最高額は5000ウォン(約39円)だが、トンピョは5000ウォンと5万ウォンの2種類が存在する。トンピョの紙質は従来の紙幣より薄く、少し力を入れて引っ張ると簡単に破けてしまう。

原材料は国産のものだが、急場しのぎに投入されたもので、質が悪いため、偽造が容易だと情報筋は説明した。

また、同様の偽造トンピョ事件を何度か聞いたことがあるとも述べた。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋も、このトンピョの偽造事件が相次いで起こったと伝えた。特に夜間に多く起きるそうだ。

食料品を売る屋台を開いている親戚は今年3月のある日の夜、5000北朝鮮ウォンの偽造トンピョを差し出されたが、すぐに気づいた。相手が子どもだったので通報はせずに、叱るだけで済ませたとのことだ。

電力事情の悪い北朝鮮の夜は非常に暗いため、トンピョの真贋を見定めるのは難しい。だからといって、日が暮れたからと店を閉めれば生活が成り立たないため、商人たちは偽造トンピョを押し付けられないかとビクビクしているという。

情報筋は、「15年以上使われてボロ切れよりもボロボロになった古い本物の紙幣を偽造する方がむしろ難しいように思える」と述べ、「現在使われている紙幣には偽造防止のために花模様2種や浮き彫り文字などが施されているが、それでも偽札が続々と出てくるのが懸念される」と語りました。

また、「トンピョが使われてから数年経つが、人々は本物の紙幣より劣っていると認識している。デザインに品がなく、紙質も悪いためだ」と述べた。

情報筋は、「5万ウォンの偽札を受け取ってしまえば、その日の商売は台無しになる。だから人々は紙幣を受け取る際、中央銀行の文字と発行年がある部分を必ず指で触って確認し、日光に透かしてから受け取るようにしている」と語った。

偽造トンピョが出回る現状について情報筋は、「ここ数年で暮らしがますます苦しくなった。金を稼ぐのがいっそう難しくなっているからだ」と述べた。

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