木々の葉がひらひらと落ち、ひんやりした冷たい空気が立ち込め、どんよりとした雲に覆われる…ちょうど秋から冬への変わり目、あなたは今、どんな気持ちでしょうか?

 もし、寂しさや虚しさ、悲しさという感情が湧き上がってきたのなら、それは落ち葉や冷気、そして灰色の雲と、私たち人間の肉体的、そして精神的な衰退や転落、そして喪失に重ね合わせたからでしょうか。自殺対策推進室(内閣府)によると平成27年中の自殺件数は8月(1901件)、9月(1882件)より、10月(2016件)と推移していますが、夏から秋に向けては「死」を連想してしまう人が増えるのでしょうか。

そんな矢先の10月23日、宇都宮の連続爆発事件が起こりました。

 自殺した容疑者のSNSによると、家庭裁判所から今までの子育てを全否定され、しつけをDVだと誤解された揚句、財産の大半を失うという条件で離婚するよう命じられたと主張しており、これらの不満が事件の動機ではないかと報じられています。

「死ぬほどつらい」
心に傷、人生が狂った夫たち

 世の男たちは「妻との離婚」によって何を失うのでしょうか?そのことを否が応でも考えさせられる事件でした。私は10年間で1万件以上の離婚相談を受けてきましたが、経験上、妻子を失ったせいで、「死」と意識するほど心に深い傷を負い、人生が狂ってしまったケースは決して珍しくはありません。

 ここで考えてみたいのは「妻を失うという喪失感」は、爆破事件の容疑者のように「社会への復讐」という憎悪を芽生えさせ、犯行の計画を思いつき、そして最終的に実行に移してしまうほど男にとって「つらい過去」なのか?ということです。

「鬼嫁と離婚できて、せいせいしたわ!」「ようやく自由の身になったから、もっといい女を探そう!」「金を家に入れなくていいから、ぜんぶ俺のこづかいだ!」と、妻との離婚を楽観的にとらえ、人生の再出発だと思い、前向きに進んでいくことができれば「つらい過去」とは言えません。しかし、私のところには「もう死んだ方がマシ!」と自暴自棄な感じで相談しに来る男性も多くいます。

「死ぬほどつらい」状態とは、具体的にどのくらいの苦痛なのでしょうか?心の傷はどのくらい深く、大きく、暗いのか…傍から見るとピンとこないので、やはり経験者の話を紹介するのが手っ取り早いでしょう。今回は死にたいほど追いつめられた男性の相談実例をプライド、秘密、そしてお金という3つの切り口で紹介していきます。

妻がマイカー不倫
ショックで酒浸りの生活に

「1人になると死にたくなるんです!」と苦しい胸のうちを打ち明けてくれたのは鈴村亮さん(36歳)。亮さん夫婦は結婚13年目で10歳の娘さんとの3人暮らし。一家の家長である亮さんが今、どうして死にたくなるほど精神的に追いつめられているのでしょうか?きっかけは妻の男遊びでした。

「僕は嫁の様子がおかしいと思い、何度も問いただしたのですが、嫁は『そんなことはない』の一点張り。しばらくの間、白黒がはっきりしないまま、嫁に対する不信感が募るばかりで…」

 そんな矢先、事の真偽が明らかに。亮さん一家はマイカーを1台所有しており、平日は妻、休日は亮さんが使ってました。亮さんはあろうことか発見してしまったのです。車内に男性の精液らしき痕跡が付着しているのを。

「ようやく嫁が白状したんです!4月から9月までの4ヵ月間、別の男と車のなかでヤッていたことを!!」

 亮さんは今まで通り、何事もなかったかのように車内が不倫の現場となったこの車を運転し続けることができるでしょうか?きっと車に乗ると妻と男の情事を想像してしまうでしょうし、そのたびに過去の悪夢がフラッシュバックするに違いありません。この車にはまだ60万円のローンが残っていましたが、亮さんは損をするのを覚悟の上で売却せざるを得なかったようです。

 そして妻の裏切りがよほどショックだったのか、夜になっても寝付けないことが多くなり、夜な夜なお酒に頼ってしまい、朝になっても全く疲れが抜けず蓄積していくばかり。そして亮さんはしばしば会社を欠勤するという酒浸りの生活に足を突っ込んでしまったのです。

 亮さんの悩みの種は当然のことながら、妻と男との関係。亮さんは居ても立ってもいられず、妻に男と会わせるよう頼んだそうです。そして隣町のファミレスで三者が一堂に会しました。

妻は下を向き、黙りこくったまま、ほとんど一言も話さず…一方の男は男で「他にも女はいるんだよ。彼女(妻)はそのなかの1人に過ぎない」と平然とカミングアウトする始末。

 亮さんは2人の無責任な態度を目の当りにし、開いた口がふさがらず、呆れ果てました。せっかく気持ちを整理するべく、わざわざ直談判の場を設けたのに、完全に逆効果。そのせいで亮さんの心理状態はむしろ悪化の一途をたどっていきました。

 亮さんはいっそのこと、妻を捨てて、完全に縁を切り、一切連絡を取らないようにした方がだいぶ気楽だったでしょう。しかし、亮さんの娘はまだ10歳でかわいい盛りですし、妻は男に遊ばれたせいで傷ついており、放っておくわけにはいかず、結局のところ、亮さんのなかに「離婚」という選択肢は存在しなかったのです。

 妻のことを許せないのに、離婚もしないという玉虫色の決着をせざるを得ず、離婚したいけれどできないというジレンマは、ますます亮さんの心を蝕んでいったのです。亮さんは行き場のない怒りを鎮めるため、どんどん酒に頼るようになり、太陽が昇ってもベットから起き上がることもままならず、出社できないという日々が続きました。最終的には会社から解雇を通告され、会社員としての地位、今まで築いてきた人脈、そして安定した収入を失う羽目に。

 亮さんが私のところに相談しに来たとき、ガリガリに痩せ細った異常な体型だったので心配したのですが、後日の報告では、ようやく深夜の飲酒を断ち切ることができたとのこと。とはいえ亮さんが気持ちを落ち着け、もう一度やる気を取り戻した上で再就職活動に取り組み、そして妻との間の信頼関係を再構築するのは、まだまだ時間がかかりそうです。

趣味サークルで女性と親密に
妻にバレても関係を続け…

 次に2人目の男性が「死ぬほどつらい」理由は“秘密”です。

「死にたいような思いで暮らしていたところ、露木先生のブログを拝見しました。相談させていただけませんか?」と藁にもすがる感じでメールをくれたのは海藤聡さん(46歳)。聡さん夫婦は結婚13年目で18歳の息子さんとの3人暮らし。何が聡さんを死にたくなるほど追い込んでいたのでしょうか?聡さんの場合、最初は身から出た錆でした。

>>(下)に続く

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