『週刊ダイヤモンド』4月21日号の第一特集は「マンガと決算書でわかる 会社のしくみ」です。92ページの特大特集で、そのうち40ページがマンガ。
任天堂の業績が、新型ゲーム機「ニンテンドースイッチ」のヒットで急回復している。業績が悪化しても、研究開発を継続しヒット商品につなげることができたのはなぜだったのか。
任天堂の中興の祖である山内溥元社長(故人)は、かつて任天堂の決算について「天国か地獄しかない」と語ったことがある。この言葉に象徴されるように、同社の業績は変動幅が大きい(図参照)。
2009年3月期には売上高は1兆8386億円、営業利益は5552億円のピークを付けたが、その後、ゲーム機の世代交代と新型ゲーム機「Wii U」の失速、円高により、12年3月期には売上高は3分の1になり、3期連続の営業赤字に陥った。だが、17年3月に発売された「ニンテンドースイッチ」のヒットで、18年3月期は売上高、営業利益がそれぞれ前年同期比2.1倍、5.4倍に急回復する見通しだ。
ではなぜ、任天堂はスイッチを生み出すことができたのか。まずはフリーキャッシュフローを見てみよう。フリーキャッシューフローとは、営業キャッシュフローと投資キャッシュフローを足し合わせたもの。
フリーキャッシュフローが増えているときは問題ないが、マイナスになったときが要注意だ。投資の余力がなくなり、既存事業を維持するための設備投資に必要な資金を借り入れに依存しなければならないケースが出てくる。本業が収益を上げられない中で、借り入れに頼れば、資金繰りの悪化につながるからだ。
もっとも、フリーキャッシュフローがマイナスになったからといって問題にならないこともある。例えば、大型設備投資を行った場合、投資した期は投資キャッシュフローのマイナス幅が大きくなり、フリーキャッシュフローはマイナスになるが、それが妥当な投資であるなら、3~5年のスパンで見れば売上高の拡大、コストダウンにつながり、営業キャッシュフローが増加し、フリーキャッシュフローはプラスになる。
有利子負債が0キャッシュをためて研究開発に積極投入
さらに、任天堂のようにストックが豊富な場合、09年3月期以降、5期もフリーキャッシュフローがマイナスになったにもかかわらず、経営危機に陥ることもなく、研究開発費を減らすこともなかった。本業で稼いだキャッシュをため込み、無借金経営を貫いてきたためだ。17年3月期の有利子負債は0だ。その結果、自己資本比率も85%と高い。
「明日がどうなるか分からない産業に銀行がまともに貸してくれるはずがない」という山内氏の考えが根底にある。年間で稼いだキャッシュを投資に回さず、いつでも使えるようにストックしておき、赤字になったときには銀行から借りずにストックから補填するという格好だ。
実際、同社の現金および現金同等物の期末残高は、過去最高益を計上した09年には8941億円あったが、17年3月末には3309億円に減少している。
山内氏からの指名で就任した岩田聡前社長(故人)も、過去最高益や3期連続の赤字を経験したが、強いバランスシートを守った。
任天堂の研究開発費は17年3月期で592億円、売上高研究開発費比率は12.1%に達する。業績が悪化した14年3月期(売上高が5717億円、営業損益は464億円の赤字)には、研究開発費は717億円と、むしろ高水準にあった。そんな思い切った戦略を取れたのもストックがあったからこそで、ついにスイッチが生まれたのだった。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 大坪稚子)