テクノロジーの進化でさらなる激変期に突入したメディア業界の最前線を追う本連載。第14回は、『週刊ダイヤモンド』10月27日号の特集「メディアの新序列」で掲載した、押し紙影響度と効率性、健全性を基に作成した地方紙経営脆弱度ランキングを、ダイヤモンド・オンラインで特別公開します。
地方紙新聞社といえば、各地方の名門企業であり、創業家である大石家が大きな影響力を持つ静岡新聞社などオーナー企業も多く、地方銀行や電力会社などと並び、“地域エスタブリッシュメント”の一角を占めてきた。
今回、本誌ではその地方紙について、全国33社の経営脆弱度をランキングした。作成方法の詳細は下の「ランキングの作成方法」に譲るが、朝日新聞東京本社の販売管理部長を務めた畑尾一知氏が上梓した『新聞社崩壊』における新聞社の経営評価指標である以下の3指標に基づいて算出している。
(1)押し紙影響度指数(潜在的経営リスク指標)
(2)従業員1人当たり売上高(効率性指標)
(3)自己資本比率(健全性指標)
前出書内では各指標を5段階評価し、15点満点の評点によって評価していたが、本誌では33社間における各指標の相対的な高低に基づく総合力で「総合偏差値」を求め、その値によって独自のワーストランキングを作成した。
ワースト上位には首都圏・近畿圏の周辺地方紙が並ぶ
その結果のワースト5が下表だ。ワースト上位の新聞各社を見ると、東京都市圏(首都圏)と大阪都市圏(近畿圏)の周縁県・府に本社を置く地方紙新聞社が並んだ。大都市圏の周辺は地元意識が低く全国紙が幅を利かせるため、地方紙が経営を脅かされているエリア。「大都会に近い地域の地方紙は経営が厳しい」(前出書の著者、畑尾氏)という結果となった。
その中でワースト1位となったのが京都新聞社だ。財務指標である効率性と健全性の2指標で33社中最下位という結果が響いた。ただ、「京都新聞は経営指標をどう見るか判断が難しい」(全国紙新聞社元幹部)という事情がある。
2006年、京都新聞社はグループ経営を標榜し、京都新聞社と京都新聞COM(販売・広告営業)、京都新聞印刷の3社体制に移行。
今回評価の対象としたのは、この新設会社であり、「地方紙でここまでやるというのは、経営が相当きついことの裏返しだろう」(同)という見方はあるものの、HD全体で財務指標を見ると自己資本比率は70%超と健全性が高い点などには留意が必要だ。
一方、ワースト2位の神奈川新聞社は、「大都会に近いために経営が苦しい地方紙」の典型的なパターン。33社中、都道府県別の購買率(ビデオリサーチ調べ)と普及率(日本ABC協会調べ)で共に4%台で最下位だった。
逆に、ワースト3位となった上毛新聞社(群馬県)は、その購買率・普及率で共に県内トップの座を占める。関東地方で高いシェアを誇る「読売新聞」の猛攻に耐えしのぐその実力には、業界関係者たちからも一目を置かれている。
ただ、購買率を普及率で除して求めた(1)押し紙影響度指数は、33社中最低の1.04という数値となった。試算値ではあるものの、数値が低いほど33社の中で相対的に押し紙の影響が大きいと推察される指標であり、ここでの低得点が特に足を引っ張ったかたちだ。
そして、この指標で1.83という最大値を取ったのが、北海道新聞社だ。同社は「今から40~50年前に、新聞への信用を失墜させるという理由から押し紙を廃止した」(前出の全国紙新聞社元幹部)というから、納得の結果だろう。
そこでの高得点がワーストランキング32位、つまりベストランキングで2位になるという高評価につながった。
経営脆弱度の格差は、“地域エスタブリッシュメント”すらも上層と下層に引き裂こうとしている。
(週刊ダイヤモンド編集部)