元来が酒豪を自認するJさん、51歳。年末年始は連日の宴会続き。
そして大晦日、元日と大酒を飲んだ深夜、これまでに経験したことがない激しい腹の痛みに襲われた──。

 アルコールと胆石、これが急性膵炎の2大成因だ。年間の患者数は3万5000人、男性が女性の約2倍で、1日60グラム以上のアルコール(日本酒 3合、もしくはビール中瓶3本以上に相当)を消費する多量飲酒者は発症率が跳ね上がる。もちろんすべての飲酒者が急性膵炎になるわけではない。とはいえ、男性、40歳以上、長年の飲酒歴と条件が揃ってしまったら無茶はしないことだ。

 膵臓はインスリンを分泌する臓器として知られるが、もうひとつ、膵液(消化酵素)をつくる機能がある。膵液は膵臓から十二指腸へ流れ胃液や腸液とブレンドされることで活性化され、消化する能力を獲得する。十二指腸に届く頃には立派に消化酵素として働けるわけだ。

 ところが、なんらかの原因でこの管が詰まると、膵臓の内で活性化が起こり膵臓それ自体を消化してしまう。アルコール性の急性膵炎ではアルコールが直接、膵臓の細胞を壊す以外に、飲酒によるむくみで管が詰まるなど複数の要素が関係していると考えられている。

 急性膵炎の自覚症状はみぞおち付近の痛みと吐き気、嘔吐など。軽症例はすぐに軽快するが、悪条件が重なると、あっという間にほかの臓器に飛び火し重症化することも少なくはない。
多量のお酒を飲んだ後で普段とは明らかに違う腹痛に襲われたら、速やかに消化器内科を受診すること。問診と血液検査、CT検査などで急性膵炎と診断されれば即、入院だ。ちなみに重症の急性膵炎は厚生労働省の特定疾患治療研究事業で難病と指定されているので、医療費の公費負担制度が利用できる。

 軽症例の治療は絶飲食をして膵臓を休ませることが基本。脱水を防ぐための点滴をしながら最低でも2週間はおとなしくしよう。また、退院後はお酒と縁を切ることだ。一般に急性膵炎の経過は悪くないが、飲酒を続ける限り再発のリスクが高くなる。慢性膵炎まで進行すると、膵臓の細胞が硬くなり機能が低下していくばかりだ。

 イヤなことばかり並べたが、急性膵炎から早期膵臓がんが発見されることもある。アルコールなどの原因に心当たりがない場合は膵臓がんを念頭において、しつこく精密な検査をしておこう。早期がんなら根治的な手術ができる。膵臓がんの多くが切除不能・進行がんで発見されることを思えば急性膵炎に感謝したくなるかもしれない。


編集部おすすめ