福島第一原子力発電所事故の損害賠償をめぐり、大規模なリストラを迫られている東京電力。資産売却だけで6000億円以上の資産売却を目指すなか、本誌は東電グループが保有する不動産126物件のリストを極秘入手した。
めったにない出物が大量に放出されるだけに不動産業界は色めきだっている。

 100年に1度の大規模な土地開発が動き出す――。


 東京・内幸町に鎮座する東京電力本社ビル。地上16階、地下5階、延べ床面積は5万9527平方メートルにも及ぶ巨大な建物だ。

 東電はそのすぐ近くにも、新幸橋ビルディング、東新ビルという2つの不動産を保有する。いずれもオフィスが立ち並ぶ都心の一等地にある超優良物件だ。

 じつは今、この3物件をめぐり、不動産業界が色めき立っている。それもそのはずで、東電が売却する可能性が高まっているからだ。

 周知の通り東電は、福島第一原子力発電所事故の損害賠償をめぐり、資金捻出のための大規模なリストラを迫られている。

 政府の要求に加え、増税や電気料金引き上げに対する国民からの反発もあって、5月20日の決算発表の席上、6000億円以上の資産売却を明言。この3物件だけで1000億円は下らないと見られ、売却の対象となるのは確実とささやかれているのだ。「これほど大規模な再開発が可能となる出物は二度とない。
大手不動産はどこも間違いなく欲しがる物件だ」(不動産会社幹部)

 じつはこの東電本社ビル界隈(日比谷エリア)、以前から三井不動産が大規模再開発の構想を練っている。三井不が保有する日比谷三井ビルは解体工事の真っただ中で、隣の三信ビル跡地との一体開発を目指しているし、帝国ホテルに至っては33.2%の大株主になっている。NBF日比谷ビルも日本ビルファンド投資法人のリート物件で、メインスポンサーは三井不だ。

 そんな折に飛び出した東電案件だけに、三井不が隣のビル群を保有するNTTなどタッグを組んだうえで、3物件の取得にも名乗りを上げ、「ついに日比谷エリア一体開発に着手か」との見方も浮上している。

 不動産業界の注目は、このエリアだけではない。本誌は今回、メガバンクが多額の融資を行う際に調査した、東電グループの保有不動産価格査定リストを独自入手した。そこには、不動産会社であれば誰しも喉から手が出るほど欲しがるような優良物件がズラリと並ぶ。その数、合わせて126物件、金額にして総額3119億円にも上る。全物件の詳細が記載されているリストの中身は、6月6日発売の本誌2011年6月11日号をご覧いただきたい。

 このなかでも注目されるのは、想定価格が100億円を上回る7物件。先の新橋駅前3物件のほかに最初に目を引くのは、三田中学校仮校舎跡地(港区三田)だ。

 場所はJR山手線の田町駅から徒歩10分足らずで、その隣には日本板硝子など多くの大企業がオフィスを構える住友不動産三田ツインビルがそびえ立つなど、オフィスビルにはもってこいの立地。
しかも1万3000平方メートルと、とにかく広い。

 さらに、残る校舎の解体費用は「港区が負担する条件」(港区企画経営部)になっているというから至れり尽くせりの物件だ。むろん想定価格は300億円とずば抜けて高い。想定価格こそ28億円と高くはないが、東京・銀座のど真ん中にある旧テプコ銀座館も再開発ビジネスの“台風の目”だ。

 ここは百貨店の松坂屋が進めている再開発地域の一角。不動産会社がここを取得して再開発の一員として食い込めば、ビル管理で管理料を取り続けることができる「おいしいビジネス」(不動産会社幹部)になるわけだ。 このほか、104億円の芝浦アークビルや銀座のG-7ビルディングといった優良賃貸オフィスに加え、賃貸住宅、老人ホームなどが売却候補として挙げられる。

 もっとも、これらの物件に興味はあるものの、「現状では皆、手を出すのを怖がっている」(不動産業界関係者)のも事実。「かんぽの宿を買い叩いたオリックスが世間の批判を浴びたから、賠償責任を負っている東電の物件を買い叩けばなおさら」(同)だからだ。

 そのため国民の納得を得るという意味では、物件をひとまとめにして安く売却するバルク形式ではなく、1件ずつ入札を行う可能性も高く、売却価格は想定よりさらに高額になるかもしれない。

 だとすれば、不動産購入目的に対する銀行融資の審査の厳しさも相まって、買い手に名乗りを上げるのは資金力のある大手不動産のほか、商社、生命保険、ゼネコン、銀行、ファンドや外資勢など50社程度と見られる。

 このリストに含まれる物件以外にも、「まだまだ優良不動産を保有している」(政府筋)との見方も残る。
とりわけ未上場子会社の東電不動産が保有する物件は「ここにあるものがすべてではない」(同)という。東電が迫られるリストラは、稀に見る優良物件の一斉放出という視点に立てば、不動産会社など買い手にとって千載一遇の好機となるのは間違いない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史、小島健志)

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