銀行の「脱スーツ」、泣き面に蜂
前回の「各都道府県で最も赤字が大きい会社ランキング2019中間決算」で、7位となった広島県の青山商事を取り上げた。紳士服大手の同社は、2019年4~9月期の営業損益が15億円の赤字。
同社は業績悪化の要因として「職場のカジュアル化が進んだことが一番大きかった」(総合企画部)と説明した。担当者が「大手銀行が脱スーツを前面に出してリリースした影響が出た」と話していたのが印象的だった。
「お堅い銀行が、そこまでするなら」とのマインドが広がり、他の業種や中小企業の職場において服装の自由化の流れが一層強まったというのである。
そこで今回は、上場している紳士服大手4社(青山商事、AOKIホールディングス〈HD〉、コナカ、はるやまホールディングス〈HD〉)の既存店売上高や業績を分析してみることにした。
まずは、その前に銀行業界で今年広がったカジュアル化の流れを確認しておこう。
最もインパクトが大きかったのは、6月下旬にテレビ局や全国紙が大きく取り上げた三井住友銀行の施策だ。7月から夏季限定で、本店の営業部門以外の行員(約3500人)を対象に、スーツ着用を原則とする服装規定をなくす試みを始めたのだ。
継続を求める行員が多く、同行は9月から通年で自由な服装での勤務を容認した(対象も約7000人に拡大)。
このほか、三菱UFJフィナンシャル・グループは、5月から通年でノーネクタイを認める「ビジネスカジュアル」を導入。みずほフィナンシャルグループも、11月中旬からドレスコードの緩和に踏み切っている。
7月の落ち込みは10%超!紳士服4社の既存店売上高
青山商事の既存店売上高の4~9月の推移を見ると、7月が12.5%減と最もマイナスが大きくなっている。
7月以外では、4月も減少幅が大きく目立つ。ただ、これは「4月1日が日曜日であったかどうかの影響が大きい」(AOKIHDのIR担当者)。
紳士服業界にとって、新入社員向けにスーツが大量に売れる2~3月は書き入れ時だ。昨年は4月1日が日曜日だったため、この需要が4月までずれ込んだ。一方、今年は4月1日が月曜日だったため、この効果が消えてしまった。
4月の既存店売上高は、青山商事が12.0%減、AOKIHDは11.8%減となっている。このうち4月1日に日曜日がずれ込んだ影響は青山で5.4%、AOKIで約8%あったという。
つまり、これを除いて考えれば、やはり7月の落ち込みが突出している。銀行のカジュアル化効果の大きさがうかがえる結果になっているというわけだ。
一方、8~9月は全社で既存店売上高がプラスとなっている。
本来、今年はこの追い風があるわけだから、4~9月期の既存店売上高は、何としてもプラスを確保しておきたかった。
だが、4社の4~9月期の実績はいずれも1.5~6.8%のマイナス。10月は消費税の増税に加え、台風の影響もあり大幅に落ち込んだ(17.2~27.9%減)。10月以降、厳しくなるのは目に見えていたのだ。
2019年3月期の通期決算で各社が苦戦するのは不可避の情勢である(なお、コナカだけ通期決算が9月期)。
なお、ダイヤモンド・オンラインでさらに詳細な分析を加えた完全版記事も同時公開している。
(ダイヤモンド編集部 清水理裕)