『週刊ダイヤモンド』4月25日号の第1特集は、「コロナで激変! 世界経済&投資術」です。新型コロナウイルスの猛威が止まりません。
過去100年で最悪に
グレート・ロックダウン――国際通貨基金(IMF)は新型コロナウイルスの感染拡大による世界不況をこう名付けた。今回の不況は、2008年からの世界金融危機(グレート・リセッション)を超え、1930年代の大恐慌(グレート・ディプレッション)以来、最悪の景気後退局面となりそうだという。ウイルスの感染力、毒性はもちろん怖い。だが世界の経済を瀕死状態にしている直接的な要因は、各国政府が行う経済活動の抑制だ。IMFは一連の経済活動の抑制を「大封鎖」と表現している。
日本の緊急事態宣言による経済活動の抑制も、大封鎖のひとつだ。安倍晋三首相は16日、緊急事態宣言の対象を全国に広げると発表した。全国の飲食業や旅行業、交通産業などが大きな痛手を被るのは必至。
このままでは、ウイルスによってではなく、経済大封鎖で人が死ぬ。そう連想する人は、企業のマネジメント層にも従業員層にも少なくないだろう。「人命か経済か」の二者択一で人命を選べば、長期的には人を飢えさせて殺してしまう。そんな懸念だ。
ところがこの連想に真っ向から対立する論文が米国で発表され、米国内外の政策立案者やエコノミストの間で静かな議論を呼んでいる。
より長く措置を講じたら雇用はむしろ増える?
米連邦準備理事会(FRB)のエコノミスト、セルジオ・コレイア氏らが3月26日に公開した論文がそれだ。1918年のスペイン風邪(インフルエンザの世界的大流行)当時の米国での大封鎖措置と経済の回復度を分析。その上で、「より早期に、より積極的に大封鎖を行ったほうが、パンデミック終息後の雇用や製造業の生産、金融にプラスになる」と結論付けている。
スペイン風邪の当時も米国では人の隔離、劇場や教会の閉鎖、集会の禁止、店舗などの営業時間の短縮といった措置が講じられた。論文ではニューヨーク、サンフランシスコなど43都市について、インフルエンザ感染者の発生や死亡率に対してどれだけの速さで大封鎖を講じたかを数値化。
注意が必要なのは、この論文は約100年前の限られたデータを基にしている。当時は定期的な雇用統計が現在ほど精緻ではなかった。また海外との経済・貿易関係は現在のほうが複雑だが、他国の大封鎖措置が自国経済に与える影響は論文には織り込まれていない。またスペイン風邪が2つの世界大戦の間という特殊な時期に発生したことも、現在との比較を難しくしている。またこの論文は査読(学術論文を専門家が読み、その内容を評価すること)を経ていない段階であり、学術的にも、この論文の結論を全面的に正しいと見なすのは、実のところ危険な行為だ。
ただ、FRBエコノミストらによるこの論文に代表されるような「今は厳格な経済活動の制約をするほうが、後々問題が少ない」と考える向きは、「ほどほどの制約で、経済活動のダメージをうまくコントロールしよう」という向きよりも、各国の当局で主導権を握るようになっている。この事実を前提に、今後の展望を見通すことが現実的なのだ。これは個人が資産を守る上でも重要な基礎認識になる。