『週刊ダイヤモンド』4月3日号の第一特集は「EV・電池・半導体 脱炭素の最強カード」です。半導体ルネサスエレクトロニクスの火災発生で、自動車産業は半導体「払底」の恐怖に怯えています。
半導体強奪バトルの号砲が鳴った
悪夢の再来としか言いようがない――。大手自動車メーカーのエンジニアは、落胆の表情を浮かべた。
3月19日、半導体大手ルネサスエレクトロニクスの主力生産拠点である那珂工場(茨城県)で火災が発生し、車載半導体などを作る生産ラインが停止した。
ちょうど10年前にも悲運に見舞われた。東日本大震災で那珂工場が被災して生産を停止し、国内自動車メーカーが深刻な半導体不足に陥ったのだ。その当時の悪夢がよみがえったかのようである。
今回、被害を受けたラインで生産されている製品のうち、実に66%が自動車向けだ。さらにその内訳は、車の走行を制御するマイコンが64%、自動運転システム向けなどのシステムオンチップ(SoC)が34%となっている。
タイミングは最悪だ。
まず、今年に入りホンダや日産自動車、独フォルクスワーゲンなど世界の自動車メーカーが半導体不足を理由に減産を強いられていたところだった。
コロナ禍後に半導体市場は完全に売り手市場となった。そして、スマートフォンメーカーやIoT(モノのインターネット)関連産業などバイイングパワーのあるプレーヤーが世界の半導体を買い占めている。要するに、「半導体争奪戦」において、自動車メーカーは買い負けているのだ。
不運は続く。2月には、記録的な大寒波が米テキサス州を襲い停電を誘発。蘭NXPや独インフィニオンなど車載半導体大手が工場の稼働停止を余儀なくされてしまった。
半導体が手に入らない――。空前の需給逼迫により、自動車メーカーが悲鳴をあげていたところに発生したのが、今回のルネサスの火災である。
自動車メーカーが被る負のインパクトは甚大だ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券は、2022年3月期上期(21年4~9月)に、日系自動車メーカーの減産規模は165万台に上るとの試算を示している。
世界の争奪戦は始まっていた
半導体を“産業のコメ”とは、先人はよく言ったものだ。車載半導体の不足がここまで深刻化する前から、主要国・地域による半導体の囲い込みは始まっていた。
米中対立の高まりを境に、主要国・地域は半導体産業をハイテク覇権の対象として、かつ軍事転用可能な機微技術の対象とみなし、自陣で囲い込む傾向が強まっていた。あるいは、同盟国と共に強靱なグローバル・サプライチェーンを構築する動きが加速していた。
日米が誘致合戦を繰り広げる世界最大のファウンドリー(製造受託企業)、台湾積体電路製造(TSMC)が売れっ子になっているのもそのためだ。すでに、地球規模での半導体「強奪バトル」が始まっていたのだ。
国内半導体メーカーにかつて世界一を誇った輝きはないものの、日本の部材メーカーの国際競争力は高く、世界で半導体争奪戦が繰り広げられる中で、重要な“交渉材料”となり得る。
昨年、世界の潮流は、環境第一主義、脱炭素へと完全にシフトした。
19年に「グリーンディール」を掲げた欧州を筆頭に、環境負荷の低減と経済成長をセットに自国・地域の発展をもくろむ「グリーン経済戦争」が勃発している。
その主戦場となるのが、電気自動車(EV)、電池、半導体だ。これら三大産業のサプライチェーンを構築するために、激しい国家間競争が繰り広げられている。
半導体に続いて主要国・地域でサプライチェーンによる囲い込みが始まっているのが電池だ。世界的なEVシフトにより、EVの性能を左右する基幹デバイスとして、電池の重要性が高まっている。特にEV・電池産業の育成で猛チャージをかけているのが欧州だ。
ガソリン車大国だったドイツを擁する欧州が、今ではEV第一主義に転換している。その背景には、「脱炭素を経済成長のドライバーにする」という欧州委員会の強い意向があったという。
環境第一の政策を土台にして、EVシフトに後ろ向きだった自動車業界を説き伏せ、ゼロから電池産業を育成することに成功したのだ。政策誘導に巨額の補助金が動いたことは言うまでもない。いまだガソリン車技術に投資を傾ける日米に先行して電動化へ舵を切ることで、自動車産業のゲームチェンジを主導しているのだ。

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