「銀行の常識は世間の非常識」「厳格に、嘘をつかない、先送りしない」──。メッセージを明確に打ち出しながら断行してきた改革は“細谷改革”と呼ばれ、りそなHD再建の象徴となっている。
細谷氏は、経営危機に陥ったりそな銀行が1兆9600億円の公的資金の注入を受けた2003年、東日本旅客鉄道の副社長からりそなHD会長に転じた。
傘下銀行の営業時間を17時まで延長したり、金融業のサービス業化を推進したりと、メガバンクとは一線を画し、真のリテールバンクを目指して邁進した。
同時に、株価下落により損失計上を迫られる持ち合い株式を1兆円規模で圧縮し、景気に左右されにくい収益体制を確立。さらにOBを説得して企業年金のカットを実現したほか、「しがらみがあって銀行出身者では手が付けられなかった」(りそなHD関係者)関連会社の整理に踏み切るなど、在任9年間で行った施策は数知れない。
これらにより、ピーク時は3.1兆円を超え、金融庁から「返せとは言わないから、追加注入は避けてくれ」と言われるほど返済が絶望的とされた公的資金を、利益の積み上げと増資で残り8716億円にまで減少させた功績は大きい。
そのうち、預金保険法に基づく優先株式4500億円についてはあと4年程度での返済を見込む。が、公的資金が残るうちは海外展開など次の成長エンジンとなる事業を思い切って展開しにくいだけに、いかに早く完済できるかが引き続き第一命題となる。
無論、それには地道な利益の積み上げが必要になるわけだが、ここでの懸念事項を法人向け貸し出しとする指摘がある。「公的資金が注入されたことで信用力を失い、取引が途絶えた企業も多い」(りそなHD幹部)。しかも公的資金が注入されてからというもの、傘下銀行の交際費は「取引先の冠婚葬祭に充てたら終わり」というくらい上限が厳しいといわれるのだ。
ただでさえ、りそなHDが強みとする中小企業の資金需要が減っているこのご時世に、情報収集の有効な手段となる接待ができないとなれば、成長助言や取引先の紹介など、営業力しか頼りはない。
ところが、給与が3割カットされ、「20代後半から30代前半の社員がかなり退職し、いびつな人員構成になってしまった」(りそなHD関係者)上、再建当初は新規採用も抑制。そのため、法人営業部隊は人員の数だけでなく教育体制も万全といえなかった時期があり、金融庁も心配したほどだ。
今、「営業力は回復しつつある」(同)が、貸し出し増には他行も必死。社員の不断の努力を細谷氏も望んでいることだろう。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子、中村正毅)