玉子の需要は夏場は少なく、冬に入ると増加する。

 では、供給量はどうか。

ニワトリは食卓の都合に合わせて夏場に卵を少なめに産んで、冬場にたくさん産むといった器用なことはできない。そのため供給量は1年を通じてほぼ一定だ。

 そのため玉子の価格は夏場に安く、冬場に上昇する傾向がある。

 この価格差に商機を見出したのが、玉子の販売大手のイフジ産業(2924)だ。

需要と供給の季ずれを解決した
玉子の保管・販売方法とは

 たとえば、野菜は栽培する地域ごとに収穫時期をずらすことで、需要の過多に応じた供給量を確保できる。食肉も冷凍保存することで、安定した供給が可能だ。

 野菜や食肉の価格は1年を通じて安定しているのはそのためだ。

 しかし、玉子は供給量が一定なうえ、鮮度が勝負な食品であるため、夏場の売れ残った玉子を、冬になって販売することは不可能だ。殻つきのままではでは冷凍保存もできない。

 この問題を解決したのが、鶏卵を液卵に加工して保存・販売する方法だ。イフジ産業は液卵の独立系最大手だ。

 液卵とは玉子を入荷後ただちに割卵し、それを全卵、卵黄、卵白などに加工(分離)したものだ。

冷凍保存され、需要に応じて順次、販売される。

安心・安全、手間いらずの液卵需要は
製菓・製パン業界向けに旺盛続く

 玉子を液卵に加工して保存・販売するメリットは、需要の増加・減少に柔軟に対応した出荷が可能になることだ。

 それ以外にも、雑菌の多い殻を完全殺菌し、機械化によって殻に触れることなく割卵、さらに完全な衛生管理のもとでの保管・出荷・輸送によって、食の安全と良質の品質を維持できることなどだ。

 液卵の主な販売先は、玉子を原料として大量に使用する洋菓子メーカーやパンメーカーなどで、イフジ産業の販売先には山崎製パン(2212)など大手メーカーか顔を揃える。

 イフジ産業の2012年4~9月の上半期の業績動向は、販売数量が前年同期比3.2%増加した一方で売上高は同10%減少、でありながら経常利益は同37%増加という、やや複雑な結果となった。

 販売が好調なもと、なぜ、売上げが減少したのか?

売上高の減少は鶏卵相場の下落が要因
懸念材料にはならない

 結論から言うと、売上高の減少はマイナス要素にはならない。

 玉子は中間流通段階では仕入値に一定のマージンを乗せて販売される。このため玉子の価格が上昇しても下落しても、一定の利益があげられる構造になっている。

 販売量が増加したにもかかわらず、価格ベースの売上高が減少したのは、4~9月の鶏卵価格が前年に比べて下落したため、マージンを上乗せ後の販売価格が低下したためだ。下図をみてほしい。 

 これは2011年と2012年の各月ごとの鶏卵の取引価格を示したものだ。4月の鶏卵価格をみてみると、2011年が1キログラム当たり245円であったのに対して、2012年は182円へ26%あまり下落。

その後、9月までいずれも鶏卵価格は前年を下回って推移した。

 販売価格はこの取引価格に一定のマージンを上乗せしたものになる。名目価格ベースの売上高が前年より低下したのはこのためだ。

 このため価額ベースの売上高は減少したが、売上原価も低下したため、利益が拡大したわけだ。 

夏に安く、冬に高い鶏卵価格の
価格差を利用した販売戦略も奏功

 さらに鶏卵価格が安い夏場と、上昇する冬場の価格差が大きいことも収益にプラス貢献する。下図をみてほしい。 

 このようにイフジ産業の基本戦略は鶏卵価格の安い夏場に大量に買付けて、価格の上昇する冬場に販売するマージン拡大戦略だ。

 玉子を価格の安いときに大量に購入し、価格が上昇してから販売する ――― 。

 一見、簡単そうに思えるが、なかなかそうではない。なぜか。

大規模設備が必要な液卵ビジネスへの
他社の参入は容易ではない

 家庭の購買行動を考えてみよう。仮に冬に玉子の価格が上昇するとわかっているとき、夏場に大量に買い溜めるだろうか。

むろん、そのようなことはしない。玉子ほど新鮮さが重要な食品はないからだ。

 これは街のケーキ屋でも、パン屋でも同じ。できるかぎり新鮮なものを使う。

 結局は、夏場に購入した玉子を新鮮なまま、冬まで保管できるかどうかがポイントになる。イフジ産業は年間8億個、1日200万個あまりの鶏卵を、洗浄、割卵、全卵および卵黄・卵白への分離、そして冷凍保存を、茨城、愛知、京都、福岡の4工場で行っている。

 この設備は国内では最大級で、こうした大規模な専用設備が液卵ビジネスには不可欠。他社が容易に参入できないのもそのためだ。

 2012年3月期の会社計画の売上高は前期比2.5%増の110億7800万円、経常利益は同12%増の9億2100万円だが、10月以降、鶏卵価格が昨年の水準を上回って推移していることを考慮すると、会社計画を上回る可能性は大きい。

 株価はほぼ順調な右肩上がりで、現在500円台中盤。配当利回りは4%台後半で、短期の値幅取り、長期保有の両面作戦で狙える銘柄だ。

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