上場企業が非上場化して配当総額の半分をグループ従業員に配った場合、どれくらい年収を上げられるかをシミュレーションした。今回の対象は東京都に本社を置く企業で、配当総額は直近の実績ベース(22年1月12日現在)、対象期間は2020年9月期~21年8月期とした。
年収3000万円超アップを見込める2社とは
上場企業はどれだけの利益を株主に分配しているのか。直近の実績値を基に配当性向(配当総額÷純利益)を計算したところ、純利益の80%以上を株主に配っている企業が214社に上った。
ローソン、三菱商事、エーザイ、出光興産、東京海上ホールディングス、キヤノン――。214社には、日本を代表するそうそうたる顔触れが並ぶ。これに加え、純損益が赤字なのに配当した企業も308社あった。
投資ファンドを筆頭に、株主への分配を増やすよう求める動きは依然として強い。株主への還元を求められるのは、上場企業の宿命ともいえる。
とはいえ、岸田政権は分配重視や賃上げを掲げ、内閣府が2月7日に公表した報告書「日本経済2021-2022-成長と分配の好循環実現に向けて-」(ミニ白書)は、「投資家への配当金比率が上昇する一方で、人件費比率は低下傾向」と指摘している。
もしも配当として分配されている金額が、給料として従業員に“還元”されたとしたら、給料はどのくらい上がるのだろうか。
そこでダイヤモンド編集部は、東京都に本社を置く上場企業が、非上場化して株主への分配一辺倒ではなくなり、配当総額の半分をグループ従業員に配った場合の「年収上昇可能金額」を試算した。
その結果、年収を300万円以上も上げられる企業が49社に上った。このうち、年収を1000万円以上も上げられる企業は6社あった。
さっそく、上位企業から実名を確認していこう。
年収が「非上場化」で上がる会社ランキング【東京都】で、1位となったのは松井証券。年収上昇可能金額は3337.0万円だった。
次いで2位が日本オラクルで、3048.0万円増だった。年収上昇可能金額が3000万円を超えたのはこの2社のみだ。
松井証券の21年3月期における配当総額は102.8億円。純利益とほぼ同額を配当として株主に分配している。この半分の額を連結従業員数(154人)で割ると、先述の年収上昇可能金額が算出される。
2位の日本オラクルは、松井証券とともに年収上昇可能金額が3000万円を超えているが、連結従業員数が2407人と、松井証券と比べてけた違いに多いのが特徴的だ。配当総額は1467.3億円で、ランキングトップ10社の中では9位のゆうちょ銀行(配当総額1874.4億円)に次いで2番目に多かった。そのため配当総額の半分を従業員数で分割しても、年収上昇可能金額は高水準だった。
日本オラクルの筆頭株主は米オラクルの日本法人で、発行株式の74%超を所有している(21年5月末時点)。
今回のランキングでは、日本オラクルのようないわゆる子会社も上位に多数ランクインした。7位のセブン銀行(799.4万円増)はセブン-イレブン・ジャパン、9位のゆうちょ銀行(752.7万円増)は日本郵政が筆頭株主だ。
また、年収を300万円以上上げられる計算となった49社のうち、連結従業員数が1000人を超えていたのは13社。1万人超の企業としては、9位のゆうちょ銀行が1万2451人だったほか、28位のソフトバンク(429.2万円増)が4万7313人、30位の東京エレクトロン(419.4万円増)が1万4479人だった。
このように多くの従業員を抱える企業で配当の一部を賃上げに回すことができれば、経済に与えるインパクトも大きいといえるだろう。
なお、今回のランキングでは、単体ベースの平均年収も載せた。例えば、1位の松井証券は918.1万円だ。各社は有価証券報告書の中で、平均年収を公開している。ただし、記載されているのは単体ベースの数字のみ。この金額は各社の年収の相場観をつかむためのものであり、あくまで参考値として見てほしい。
加えて今回の試算で、配当総額を単体ではなく連結従業員数で割った理由について解説しておこう。持ち株会社制に移行した企業の場合、連結に比べ単体従業員数が極端に少なくなるケースが多いのだ。
例えば83位の野村ホールディングス(202.9万円増)。連結従業員数2万6402人に対し、単体はわずか154人である。配当総額1071億円の半額を154人で割ったのでは、年収上昇可能金額として明らかに不適切だと判断した。
ランキング完全版では、6位以下の全500社の顔ぶれと年収上昇可能金額、配当総額、単体の平均年収を掲載している。
さらに、年収上昇可能金額が200万円を超えた84社を抽出し、業種別の動向も整理している。ぜひ確認してみてほしい。