名門校から無名校までさまざま
10月26日、今年もプロ野球ドラフト会議が開催された。
今年指名されたのは本指名72人、育成指名50人の合わせて122人で、本指名が3人増加した一方、育成指名には楽天が参加せず7人減少。
このうち、大分舞鶴高(常広羽也斗、広島1巡目)と湘南学院高(古謝樹、楽天1巡目)は開校以来初のプロ入り選手がドラフト1巡目指名となった。
一方、寿都高(滝田一希、広島3巡目)は高校野球ファンでも聞いたことがないような高校だ。なにしろ、甲子園出場はおろか公式戦に部員をそろえて参加するのも一苦労という学校で、今秋の小樽地区予選にも小樽未来創造高、倶知安農との3校連合チームで出場して5回コールドで敗れている。プロ入りすれば、もちろん開校以来初のプロ選手の誕生だ。
本稿ではドラフト指名という枠を取り払って、1936年のプロ野球誕生以来、最も多くの選手をプロ球界に送り込んだ学校を見てみたい。
早速、第5位の学校から順に確認しよう。
最も多くの選手を輩出した「栄光の5校」とは
最初にお断りしておきたいのが、日本のプロ野球界には公式戦に出場した全選手の名簿はあるが、在籍した全選手の名簿は存在しないため、ここで集計されているのは筆者が独自に調査したものである。
また、名門・古豪といわれる歴史の古い学校には、途中で分離や合併などさまざまな変遷のある学校も多く、どの学校をもってどの学校の前身とするかの意見が分かれることもある。そのため、見解によって多少の誤差が生じることをご了解いただきたい。なお、学校名・人名の表記は新字体に統一している。
第5位 龍谷大平安高(京都府) 62人+今年1人指名
戦前には平安中、昭和には平安高として活躍した同校は、龍谷大平安高と改称してからも2014年選抜では優勝するなど、戦前から現在まで一定の人数をプロに輩出し続けている。
第4位 広陵高(広島県) 68人+今年3人指名
第4位は広陵高。同校もやはり戦前からの名門だが、プロ入りに関しては平成以降の方が勢いがある。有原航平(ソフトバンク)など、21世紀以降だけで7人がドラフト1巡目で指名されるなど、中井哲之監督の育成力には定評がある。OBは広島が多く、現役では野村祐輔(広島)、上原健太(日本ハム)などだ。
今年のドラフトでは上位指名が有力といわれていた真鍋慧が指名されなかったが、それでも高太一(広島2巡目)、石原勇輝(ヤクルト3巡目)、谷口朝陽(西武育成2巡目)と3人が指名を受けるなど、近年猛烈な勢いでプロ入り選手を増やしている。
第3位 横浜高(神奈川県) 74人+今年4人指名
横浜高は戦後に野球部を創部しており、当然プロ入りしたのもすべて戦後。しかも74人のほとんどは渡辺元智元監督が育てた選手で、渡辺監督はおそらく日本で最も多くのプロ野球選手を育てた監督であろう。愛甲猛(ロッテ他)、松坂大輔(西武他)など、高校野球史に名を残す選手も多い。
渡辺監督辞任後は監督や部長の交代が続き動向が注目されていたが、その後も甲子園に出場してその地位を守っている。
第2位 PL学園高(大阪府) 82人
第2位は、1980年代から90年代にかけて黄金時代を築いたPL学園高。PL学園高の創立は1955年で、野球部創部はその翌年。最後の年である2016年までの61年間に82人という人数は、一つの代から平均1.3人がプロ入りしているという極めて高い率だ。実際、1980年代頃には一つの学年から数人がプロ入りするのも珍しくなかった。
しかも、ただ人数が多いだけではなく、清原和博(西武他)・桑田真澄(巨人)をはじめ、木戸克彦(阪神)、小早川毅彦(広島他)、立浪和義(中日)など多くの名選手をプロに供給してきたことで知られる。現役では前田健太が大リーグ・ツインズで活躍中。
平成期にプロ入り人数トップとなって以来1位を続けていたが、昨年ついにトップから陥落した。というのも、2013年秋に専任監督が不在となり、2016年夏の府大会出場を最後に休部してしまったからだ。プロ入りしたのも、2018年のドラフトで東洋大の中川圭太選手がオリックスに指名されたのが最後で、来年以降のドラフト候補にも同校のOBは見当たらない。
野球部復活の動きもあるようだが、3位横浜高、4位広陵高の猛追もあり、2位の座も危うそうだ。
春夏合わせた優勝数がダントツ!プロ選手数もトップの中京大中京高
第1位 中京大中京高(愛知県) 85人+今年1人指名
第1位は昨年4人がプロ入りしてトップに返り咲いた中京大中京高で、順調にその人数を増やしている。
戦前から戦後にかけては中京商、昭和後半は中京高、平成以降は中京大中京高と校名は変化しつつも、常に高校球界のトップに近い位置に存在し続けている。
甲子園での春夏合わせた優勝11回や、通算136勝などは断然の1位で、プロ入り人数でもしばらくトップを走っていたが、平成以降のプロ入りはあまり多くなく、トップの座をPL学園高に譲り渡してしまっていた。しかし、一昨年一挙に4人も指名されてPL学園高をかわして再びトップに立ち、昨年も2人が指名された。
さらに今年も、国立の静岡大から佐藤啓介が広島の育成2巡目で指名され、1位の座は安泰。現役では鵜飼航丞(中日)、伊藤康祐(中日)、沢井廉(ヤクルト)らがOBにあたる。
こうした多くのプロ選手を送り込んでいる学校がある一方、平成の強豪智弁和歌山高(16人)や、昭和末の強豪池田高(7人+今年1人指名)は、甲子園での活躍度に比べるとプロ入り選手が少ない。智弁和歌山高は基本的に有名進学校でもあるという事情もあるが、プロ入りするほどの能力の高い選手が少ないにもかかわらず甲子園で実績を残しているわけで、それはとりもなおさず、監督の力量の高さを示しているともいえる。
今年のドラフトの目玉ともいわれた花巻東高の佐々木麟太郎選手は、プロ志望届を提出せずに米国の大学に進む予定。近年はこうした海外大学への進学も増えてきており、今年のドラフト会議でも複数の海外大学在籍選手の指名がうわさされていた(結局指名されなかった)。
現在までに1人でもOBをプロに送り込んだことがある高校は全国に1700校以上。今年は昨年よりも多い17校から開校以来初のプロ選手が出る見込み。すでに、野球部のある高校のうち半分近くはOBにプロ入りした選手が出ており、野球部ができてまだ年数が浅い高校でなければ、母校OBにプロ選手がいる可能性は意外と高い。