確定申告の季節である。近年はネット普及もあって、自宅で「副業」を行うビジネスパーソンも増えてきた。

副業でも所得税の申告は必要だ。国税当局は副業で発生する経費にも監視の目を光らせている。住居費や光熱費・通信費など、生活と事業の両方に関わる部分はどこまで経費になるのか。副業でも交際費は認められるのか。節税効果が高い申告の方法は?――少々専門的な話になるが、確定申告で戸惑いがちな点を取り上げてみる。(ZEIKENメディアプラス 代表取締役社長 宮口貴志)

国税当局が必ずチェックする
副業の「必要経費」はどれ?

 明日は2月16日、今年も確定申告シーズンの到来だ。

個人事業主はもちろん、給与所得以外に「副業」を持つビジネスパーソンも、年間20万円を超える副業による所得があれば年末調整をしていても所得税の申告が必要となる(*1)。故意や無意識にかかわりなく、国税当局は無申告者の調査には力を入れている。“稼いでいる個人”への調査件数が伸びている実態は、前回お話しした通り。おカネが動くところには、当局の目が光るのだ。
 
 とはいえ、億近い売り上げがあるとか、消費税で多額の還付金が派生している、(後述する事業所得の場合)売り上げがゼロなのに大きな赤字を出し、給与所得と損益通算して税金を安くするなど、よほど極端な話でもない限り、副業をしていたらいきなり調査官がやってきたという話は聞かない。
 
 ただし、国税当局は、申告書類を見て同じ税務署管内の同業種と比較し、突出した額を経費計上している項目をつぶさに調べている。
とりわけその目線は、家賃や水道光熱費といった「必要経費」に向けられる。利益を出すには経費がかかる。ならば、できる限り多くの経費を計上したいもの。とはいえ、何がどこまで認められるのだろうか。ここでは自宅を仕事場にして副業を営む給与所得者のケースで考えてみよう。
 
 まず、副業での所得を確定申告する際には、「雑所得」か「事業所得」のどちらで申告するかを選択しなくてはならない(事業を始める際、税務署に『事業開始届』を提出していても、申告時に必ず事業所得と判断されるわけではない)。

 
 通常の所得が給与所得で、原稿料や講演料、フリーマーケットやアフィリエイトなどで、不定期に副業収入を得る程度であれば雑所得で申告する。将来的に本業になりそうな頻度で継続的に副業を行い、帳簿を付け、取引関係書類と併せて7年間適切に保存するなどの諸条件を満たすことで、初めて事業所得として申告が可能になる(*2)。
 
 雑所得でも事業所得でも、業務用のパソコンや資料用書籍の購入費、交通費、顧客との交際費などは購入金額を経費として計上できる。厄介なのは、自宅で仕事をしている場合、住居、水道や電気・ガス、通信など、一つの支出において「生活」と「事業」の両方に関わる費用の取り扱いである。これらは「家事関連費」と呼ばれ、接待交際費などと同様に国税当局が目を付けやすい項目でもある。

 なぜ税務署はここに着目するのか。

理由は単純で、接待交際費や住居費、水道代や光熱費を全額必要経費として計上するなど、およそ根拠が不明でアバウトな経理処理をする人が多すぎるからだ。とりわけ、日々の生活コストが相乗りする家事関連費の場合は、事業用と私用の使用割合を明確にして(=家事按分)申告する必要がある。

 税務署で副業や個人事業主を調査するのは個人課税部門だが、ここに長年勤めた国税出身の税理士もやはり「国税当局がまず目を向けるのは、水道代、電気代、ガス代などの水道光熱費、地代、家賃(以上は家事関連費)、接待交際費など」という。売り上げに比べてこれらの経費があまりにも多い場合などは、電話や書面による「お尋ね」という形で調査が行われる。
 
 実は筆者もかつて個人事業主であった頃、一度「お尋ね」の電話を受けたことがあった。「確定申告書の内容などについて確認のため連絡しました」と言いながら、経費計上した家事関連費などについて質問され、悪意もないのにドキドキして実に後味の悪い思いをしたことを覚えている。

 按分が必要な家事関連費は、どこまでが経費として認められるのだろうか。事業用と私用の線引きに明確な基準はあるのだろうか。

*1 所得が20万円以下でも住民税は課税される(4ページ参照)。

*2 かつて国税庁が提示した「副業で年間300万円の売り上げがなければ雑所得」という案によって、事業所得と雑所得の「300万円基準」が独り歩きしたことがあった。2022年10月、国税庁は一般の意見なども反映して新しい判定基準(帳簿書類の保存があれば、年間売り上げが300万円以下でも原則的に事業所得に区分される)を公開した。

家賃・水道・ガス・電気・通信
事業用と私用の按分方法は?

 実は、厳密に言うと家事関連費は原則的に必要経費として処理できない。

「家事関連費は必要経費」と言っておいてなんだが……国税庁は「取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合にのみ、その区分できる金額だけを経費として落とせる」という。つまり、生活費との明確な区分ができれば例外的に必要経費として認められるというのが根本的な考え方なのだ。

「明らかに区分できる場合にのみ」とは、どんな場合なのか。詳細を調べてみても「業務内容や経費の内容……を総合勘案して判定する」と、どこまでも曖昧な表現が並ぶ。そこで、前出の国税出身税理士に家事関連費算出の考え方や方法を聞いてみた(図表1)。

 家事関連費算出の目的は、要するに「業務用の使用割合」を明確にすることだ。「(国税当局に)経費としての計上を否認することが難しいと思わせる合理的な理由が用意できていれば、経費として認めるしかない」(同税理士)のである。そこで、合理性の精度を上げる手段として、例えば住居の場合は、業務使用面積割合、業務日数割合や業務時間割合で按分する方法が用いられる。
 
 按分した結果、業務に必要な部分が50%を超えた場合、あるいは50%以下でも、取引記録によって必要な部分が明らかに区分できていれば必要経費に算入できる(所得税基本通達45ー2)。
 
 最近は、電気料金の値上げもあって水道光熱費もばかにならないから、事業での使用分はしっかり必要経費にしたい。また、携帯電話やインターネットが社会に浸透した今日、通信費は利用明細を保管して事業用と私用を正確に按分する。なお、電気料金や通信費などの按分方法に関しては「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」(国税庁・PDFに遷移)も参考になる。
 
 自家用車も副業での使用の際は経費として計上できる。減価償却費、自動車税、自動車保険料、車検代、修理代、洗車代、ガソリン代、駐車場代などが対象となり、走行距離で按分するのが一般的だ。高速道路はETCカードで使用料を明確にし、運転記録を付けておくなど 業務で車を使用した“証拠”を残しておく。自動車以外の家事関連費も同様に、業務日誌を付けるなど日頃から“説得材料”の積み上げを心がけたい。

事業所得の青色申告で
大きな節税効果

 確定申告では「青色申告」「白色申告」という言葉をよく聞く。年末調整で控除しきれなかった医療費や住宅ローン、寄付控除などの還付申告、そして雑所得の申告は白色申告のみ。対して、事業所得、不動産所得、山林所得は青色申告が可能だ(図表2)。

 青色申告には白色申告にない節税効果(図表2の☆)が上乗せされる。ただし、事前に承認申請書と開業届を税務署に提出しなくてはならず、必要な帳簿の種類も多いため事務手続きには労力が必要だ。
 
 年間を通じて副業を継続的に行っているのであれば、所得を事業所得として青色申告することで節税効果を最大化できる。

交際費の計上は無制限!?
地方税にも調査が入る!?

 副業の確定申告に関しては、家事関連費以外の費用についても次の点を押さえておきたい。
 
 まず、「接待交際費」である。副業で顧客との打ち合わせや接待で使った飲食代やゴルフ代金などは接待交際費として経費計上でき、計上できる費用に上限はない。ゆえに、当局は業務以外の私的な飲食などが費用として計上されていないかに着目する。
 
 なお、副業を法人化している場合には、接待交際費として経費計上できる金額に上限があることを知っておきたい(*3)。例えば、期末の資本金が1億円以下の中小法人なら、接待交際費として計上できるのは次のいずれか範囲となっている(ここでは資本金1億以上の大企業の場合は省略)。

 (1)支出した接待交際費のうち接待飲食費の50%相当額
 (2)支出した接待交際費の金額のうち年間800万円までの金額
 
(1)か(2)のどちらを選ぶかは企業の判断による。接待飲食費だけで1600万円を超える場合は(1)を選択した方が有利で、それ以下なら(2)の方が節税になる。例えば、年間の接待交際費が800万円以下であれば、その全額を必要経費にすることができる。

 さらに、取引先や仕入先を接待する目的で行った会食であっても、1人当たりの費用が5000円以下の場合は接待交際費には当たらないので、接待交際費ではなく「会議費」などで経費計上していれば、全額損金処理できる(*4)。
 
 次に、所得税の確定申告をすると、その情報が居住する地方自治体に共有されることも認識しておこう。自治体は所得税の確定申告情報を基に、住民税を計算して納税者に連絡する。冒頭で「年間20万円を超える副業による所得があれば年末調整をしていても所得税の申告が必要」と述べたが、副業所得が20万円以下でも地方税は課税されるので、確定申告の情報によって所得に応じた税額が自治体から通知される。
 
 ならば、仮に副業の所得に関して(お尋ねなど)税務署の調査が入った場合、地方税の調査も実施されるのだろうか。
 
 税務署による所得税の税務調査の結果、修正申告、期限後申告、更正または決定(税額を正す行政手続き)がなされた場合、その納税者の課税標準(税額の算定基準)や税額などに関するデータは自治体に提供される。それに基づいて、自治体の徴税担当者から納税者に問い合わせ連絡が来ることもある。
 
 自治体が独自に調査を行い、その調査結果に基づいて更正または決定を行うこともできるが、一般的には課税標準が国税(例:所得税)に準拠する税(例:地方税)については、独自に税務調査を行うことはない。

 以上、副業での確定申告で特に留意しておきたい経費、とりわけ家事関連費の考え方や、それに関する国税当局の着眼点を紹介した。当然だが「やりすぎ」は目を付けられる。家事関連費に限らず、経費計上には合理的な根拠が必要なのだ。

 一度、税務調査に入られると、数年後にも調査に入られる可能性が高い。確定申告の手続きは、国税庁のサイトからPCやスマートフォンで簡単に行えるようになったが、経費の扱いなど自分で判断がつきにくい場合は、国税庁の「やさしい必要経費の知識」を参照する、あるいは専門家に相談するなどして、十分注意しながら適正な申告を心がけよう。

*3 税法上、法人の接待交際費は原則として全額が損金不算入。会計上は経費になっても税金の計算では接待交際費を経費にすることはできないのが原則。接待交際費として計上できるのは特例によるもの。

*4 2024年4月から1万円以下に引き上げ。交際費等から除外される経費の詳細は「交際費等の範囲と損金不算入額の計算」(国税庁)を参照。